やったか? やってない

 初めて新武器で攻撃してみたが、想像以上の威力を持っている。


 自身でも、制御できなかった。


 ヴァスキーすら、切り裂いてしまっているではないか。


「おおお、バカな!?」


 上半身だけの身体で、能面はそれでもヴァスキーにしがみつく。


『バカは……てめえだっ!』


 操られていたらしき赤と青のヘビが、意識を取り戻す。


『お返しといこうぜっ!』


 ヘビの操作で、ヴァスキーが拳を振り上げた。


『せーの!』


 自分から、右フックを決める。


 グチャッ……という音と共に、能面がヴァスキーの拳に潰された。


『しまった!』


 しかし、コクピットに近かったため、ガラス障壁ごと壊してしまう。


「いけない、ランバート!?」


 サピィが助けようとしていた少女が、コクピットから投げ出された。

 身体が、真っ逆さまに落下していく。


「やばい、トウコ!」

「ホイきた!」


 トウコがサモエドに指示を出し、地面の方へと走りながら後を追う。


「つかまれ!」


 俺は、手を伸ばした。


 間に合わない! 少女の身体は、虚しく地面へと落下を待つのみ。


 だが、サピィが巨大化してクッションとなった。


 丸いスライムと化したサピィの上で、少女の身体がバウンドする。

 どうやら、無事だったみたいだ。


『なんで助けた?』

『オレサマたちは敵同士だぞ?』


 ヘビたちからの質問攻めに、サピィは首を振った。


「あなたたちが死ねば、誰がエルトリとの衝突を解決するのです?」


 人間態に戻ったサピィが、ヘビたちに告げる。


 そう。サピィは人情だけで人助けをする人物ではない。

 ちゃんと、意味があったのだ。彼女を交渉の場へ引きずり出す。


「ゼン。あなた自身がエルトリと事を起こすきまではないことは、わかっています。ただ、ヴァイパー族はそうではない。彼らを魔界へ送り返せるのは、あなただけです。兵を下げさせなさい」


 サピィが、魔王としてゼンという少女に伝えた。


 そのために、対立勢力のトップを助けたに過ぎない。


 でなければ、エルトリの関係者でもあるフェリシアも、協力なんてしないだろう。


「とりあえず、後始末を……!?」


 ヴァスキーをなんとかしようとしたが、上空で動きがあった。


 能面のバックパックが、ガタガタと音を立て始めたのである。


「待ってランバート、まだ終わっていないわ!」


 フェリシアが、銃を構え直した。


「ああ、確認した! 何が起きているんだ?」


 バックパックが、ひとりでに移動する。

 能面の元を離れて、コクピットへ。


 その際に、能面の上半身も落下してきた。

 グシャという不快な音を立てて、肉体が潰れる。


「これは!?」


 サピィは、能面の覆面を見て驚愕した。


「がらんどうじゃないか!?」


 能面の正体は、もぬけの殻だったのである。


「これぞ能面の正体よ!」


 乗組員を失って機能を停止したはずのヴァスキーが、息を吹き返す。


「能面の正体は、バックパックの方だったんですね?」

「そのとおり。我はレアアイテム、【アルカナ・ボックス】! その肉体など、器に過ぎぬ」


 能面の死体を見ると、ほとんどが人工筋肉と機械部品だった。

 つまり、人形である。

 このバックパック自体が触手で人形を操っていたのか。


「ヴァイパー族の指示にしか従わぬから、その小娘を生かしておいたが、その必要はなくなった! やはり最初から、データをまるごと書き換えればよかったのだ!」


 アルカナボックスというバックパックから、大量の触手が飛び出る。

 触手はヴァスキーの頭部に突き刺さった。


 突如、ヴァスキーが苦しみだす。


「どうなっているんだ?」

「ヴァスキーの内部制御系を、書き換えているんです!」


 マギ・マンサーのスキルを使って、サピィが状況を分析した。


 やがて、ヴァスキーがおとなしくなる。

 瞳は無機質なレンズのようになり、顔からも禍々しさが消えて機械的になっていた。


「たった今より、我がヴァスキーとなった! もう誰にも我は止められん!」

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