レッサー・デーモンと黒虎格闘家

 現れたのは、赤い皮膚をした二メートルほどの巨体だった。しかも、三体いるではないか。


「おあつらえ向きの敵じゃないか! こいつら一体だけで、バフォメットくらいは強いぞ!」


 俺は、黒いフランベルジュ【イクリプス】を構える。


「そうはいくか!」


 聞き覚えのある声が、聞こえてきた。


 気配に気づき、俺は後ろに避ける。


 すかさず側面から、鋭い爪の攻撃が振ってきた。


 イクリプスで受け止める。


「あっ! お前は!」


 デーモンを率いていたのは、前回の探索で逃した黒い虎の格闘家であった。


「性懲りもなく、まだこの付近をうろついていたのか!」

「こっちにも事情があるんでね。どのみちテメエらはここで死ぬ!」

「やれるものなら、やってみろよ。おらあ、【ディメンション・セイバー】!」


 格闘家に向かって、黒い炎の光刃を放つ。


 だが、レッサーデーモンが盾になった。光刃はデーモンの肩から腰にかけて袈裟斬りした。



「なあ!? ディメンション・セイバーって、こんな強かったかよ!?」


 黒虎格闘家が、慌てふためく。


「だが!」


 一個体は倒したが、増援が止まらない。


 デーモンが仲間を呼んで、一〇体ほどの大人数に。


 これが、デーモンの恐ろしいところだ。増減が来ると、際限がきかない。


「くっ!」

「どうだ。魔物寄せの石も強くなっているのだ! もはや、この地上は我ら魔族のものだ!」


 妙だ。あの男の出で立ちは、どう見てもハンターである。なぜハンターが獲物である魔物と組んでいるのか?


「デーモンの物量に押し潰されて朽ち果てろ、魔法使い共!」

「そうはいくか! おらおらおらおら!」


 俺はイクリプスにありったけの魔力を振り絞った。渾身の力を放つ。


 黒い光刃が、レッサーデーモンの群れを切り刻む。


「【破壊光線デモリッション】!」


 サピィが、あらゆる物質を破壊する赤黒い光線を周辺に撃った。固まっていたデーモンの集団の胸板を貫く。


「敵対勢力のデーモンの皆の衆、我が炎に抱かれて燃え尽きなされませ」


 シーデーも火炎放射と指マシンガンを乱れ打つ。


 それでも増援が途切れない。


「ムダだ。この地獄からは逃れられんぞ!」

「何匹いようが構わん! おらあ!」


 俺たちには、ダイヤのジュエルがある。多少ムリをしても、魔力回復は追いつくのだ。


 デーモンが死滅する度に、俺の腕輪がジュエルを回収していく。


 サピィも、ミニスライムの使い魔を呼び出した。自動掃除機のように、デーモンが落とすジュエルを飲み込む。


「な……なんてパワーだっ!? レッサーとはいえ、デーモン族だぞ! 魔力抵抗値は高いはず。しかも、【ディメンション・セイバー】は、弱い部類の飛び道具じゃねえか!」


 その弱い飛び道具に、レッサーデーモンはザクザクと切り刻まれている。増援を出せば出すほど、被害は大きくなっていった。


「お前の知らない技術が、我々にはあるのだ」

「なんだと!? 何か秘密があるのか!?」

「教えてたまるか」



 オニキスの性能は【貫通】という。属性を問わずダメージを与えられるようになる。その代わり、威力は落ちてしまうが。



 たしかにディメンション・セイバーの威力は、「筋力」に依存する。

 ウィザードでも使えるが、本来は【魔法剣士】の技だ。つまり、「剣術」という括りなのである。


 魔法使いが使用すれば、威力も弱いし魔法に比べて全体攻撃にはたいして向かない。


 それでも、使い続ける意味はある。

 ジュエルのおかげで威力が高まっていることも、このスキルを多用し続ける要因になっていた。

 何より、ダイヤによるマナ自然回復の役割が大きい。


 またたく間に、デーモンは壊滅していった。


「なぜだ!? 調査団を全滅させた程の兵隊を集めたのに、五分も経たずに全滅とは! 相手はたった三人だぞ!」

「残ったのはお前だけだぜ! おらっ!」


 フランベルジュで、虎の胴を薙ぎ払う。


 格闘家らしく、黒虎はスウェーバックですり抜けた。カウンターで爪攻撃を試みる。


「【ボルト・スキン】!」


 素人の俺には、格闘技術に対抗できる手段は限られている。電流を体中にまとって、カウンターに対処した。


 攻撃を弾かれた虎が、後ろに飛ぶ。 


「魔物に手を貸して、お前たちは何が望みだ?」

「うるせえ、ハンターで食えるか! いっそモンスターになれば、レア探しに悩まされることもねえ!」


 ダメージを受けた手を擦りながら、虎は言い返してきた。


「そのために、多くの命を奪っているとわかってもか?」

「他人なんか知るか! どうせ、魔物の物量には勝てねえ! オレサマは周りを出し抜いてでも、食いっぱぐれねえ人生を歩むんだよ!」


 黒い虎は、よりモンスターらしい見た目となる。背中にトゲのような金属片がむき出しになり、爪や牙も機械じみた造形に変化した。


「魔族から、改造を受けたんだな?」

「そうだ。魔族と契約した者の力、特と味わえ!」


 哀れだな。運命に抗おうとしない者は、ここまで堕ちてしまうのか。


「ならば遠慮はせん。おらあ!」


 黒い光刃を、虎に向かって放った。


 しかし、デーモンの力を得た黒虎は、拳だけで光刃を弾き返す。

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