サピィのレベルアップ
「くらえ!」
ジャージャーに斬りかかった。
しかし、相手もすばしっこい。ダメージを与えても、すぐに再生してしまう。
シーデーが側面から、指マシンガンを撃った。
しかし、ジャージャーに翼でガードされる。
「こうなったら、おらああ!」
ガーゴイル戦で放った光刃を、ジャージャーにも試す。
ジャージャーは、光刃を翼でガードをした……つもりだったのだろう。
光刃は軽々と、ガードを突き抜けた。ジャージャーの胴体が真っ二つになる。
紫のジュエルを吐き出して、ジャージャー・デビルは息絶えた。
「またアメジストを手に入れたぞ。あとこれは、防具の素材か」
モンスターは消滅したが、ヘビの皮を手に入れる。素材まで手に入るとは。
亜種魔物の発生源である魔力石を壊し、このダンジョンに巣食う瘴気の要素を取り除く。
「これで先に行けるな」
「ですが、ものすごい魔力溜まりを感じます。あと、死の臭いが」
瘴気のもとである石の塊は排除したはずだ。なのに、恐ろしいまでの気配が伝わってくる。今まで戦ったことのない、強い力を。
「サピィ、少しいいか?」
中に入った直後、俺は足を止める。
「はい」
「ジュエルだ。受け取れ」
俺は、サピィに手持ちのジュエルを与えた。
「コナツさんに渡さなかったので?」
「在庫数が、作業量を超えてしまったらしくてな。余った分は、俺が管理している」
得意先が増えたとはいえ、いくらなんでも狩りすぎたようである。持て余しているそうだ。
「ご自身でお使いになられては?」
「食うと、お前のステータスが上がるんだろ?」
今後、サピィの戦力アップは不可欠になる。これからは、ジュエルの半分はサピィが食うことになった。
「ならば、遠慮なく。いただきます。あむう。うーんおいしい」
まるでアメ玉をなめるかのように、サピィがうれしそうな顔をする。
「あっ!」
急に、サピィが叫びだした。
「ど、どうした。サピィ?」
「レベルが上がりました」
一定量のジュエルを摂取したことで、サピィの能力がアップしたという。
「どんな能力が手に入ったんだ?」
「【融合】です。同じグレードのモノを五つ集めると、ひとつ上にランクアップするみたいです」
これはありがたい技能だ。アイテムボックスを圧迫しない。
ダイヤを少し食ったのが、レベルアップに繋がったのだろうと、サピィは分析する。
「試してみましょう」
サピィが体内で、エメラルドを【融合】させた。
グレード【スクエア】のエメラルドが完成する。
「即興だが、試し打ちをしよう」
手持ちの試作品であるブーメランに、スクエアのグレードになったエメラルドを付け直す。
「おらああ!」
ブーメランを虚空へ投げると、見えない場所から大量の悲鳴が聞こえた。
風属性のブーメランを回収した後、声のした方へ向かう。
大量のクモが、山になって朽ち果てていた。
「とんでもない性能だな」
その後、俺たちは大量に増えていた最下層グレードの【シード】を、融合していく。中途半端だったジュエルのグレードを、次々と上げていった。大幅なランクアップだ。これで、道中も楽になるはず。
「ここのボスは、どんな相手なのですか?」
口の中でジュエルを転がしながら、サピィが聞いてきた。
「アラクネ・クイーンだ」
クモの魔物【アラクネ】を統率する魔物で、強さはデーモンなどの比ではない。
「そんな強い相手、どうして倒しきれないのです?」
「ダンジョンが、魔物を再生させてしまうからだ」
地下鉄などのインフラ施設を復興できない理由は、魔物たちだ。
魔物は倒しても、一日あれば復活してしまう。ダンジョンを統率するボスモンスターも例外ではない。
「フロアごと壊してしまってもいいのでは?」
「それだと、稼げない。ダンジョンを壊してしまうと……」
人類の定住地を拡大させるために結成されたはずのハンターは、モンスターの落とす「レア」を回収する業者に成り果てている。
だが、レアアイテムにも微量の「魔」の結晶体だと、人類の有識者が気づく。
王都や大都市は、ハンターの集めたレアを根こそぎ買い取り始めた。都市機能再生のために、アイテムを利用しているのだ。
セッティングも済み、いよいよ奥へと向かう。
「おびただしい量のクモの巣だな」
俺はさっきから、道を阻むクモの巣に悪戦苦闘する。かき分けてもかき分けても、先が見えない。
「私におまかせを」
シーデーが、正面に立った。「新兵器を試します」と、魔銃をかざす。これは、前回のコカトリス亜種から拾った銃である。弾倉には、赤い【チップ】グレードのジュエルが。
「ファイア」
銃口から火柱が上がった。火炎放射器か。
炎がクモの巣を舐めて、道を広げていく。
「この辺りは、ガスの類などは出ていませんな?」
「ああ。酸素も十分あるから、炎を撒き散らしても大丈夫だ」
「では遠慮せず」
シーデーのおかげで、視界がひらけていった。しかし、見たくもない光景が広がっている。
「なんか、絶望的な状況だな」
調査団が数名、息絶えていた。武器を取る時間すら与えてもらえなかったようである。
「ランバート殿、来ますぞ!」
「げえ、レッサーデーモンかよ!」
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