アラクネ・クイーン
「くそ、強いな」
「ゲハハ! これまでのオレサマとは違うぜ!」
黒虎格闘家が、勝ち誇る。それはもう、モンスターの顔になっていた。
「それは他人の力を奮っているに過ぎん。武道家なら、なぜそれがわからなかった?」
コイツは、自分の力を磨いて戦っているわけではない。
武術家とは、探究心をもっておのれを高めるはず。こいつは格闘家の恥だ。
ジュエルに頼っている俺も、人のことは言えないが。
「ほざけ! 勝てばいいのだ! オレは、誰よりも強くなった! 誰一人、オレに勝てるハンターはいねえ!」
黒虎が、爪から衝撃波を撃ってきた。この間とはレベルがまったく違う。鉄すらも切り刻む。
「ランバート、これを!」
サピィが、ジュエルを投げてよこす。オニキスだ。それも、標準より大きい。野球ボールくらいの大きさである。
「それは【スフィア】サイズ。私が作れるフィーンド・ジュエルの中でも最上位です!」
「使わせてもらう!」
イクリプスのスロットから、【スクエア】のアメジストを外す。
代わりに、【スフィア】グレードのオニキスジュエルを仕込んだ。
どうせ、物理は使わない。遠距離から光刃で勝負する。
相手は格闘家だ。近づかれたら終わる。
「おらあ!」
俺はイクリプスを振り下ろす。
先ほどとは段違いの光刃が、黒虎格闘家を襲った。
その大きさで、天井すら破壊しながら。
「ひいい!」
黒虎が腕を交差させて防ごうとする。しかし、その腕ごと、光刃は破壊した。
「ぐほおお……」
腕を二本とも失った格闘家が、膝をつく。嗚咽しながら、ジュエルを吐き出した。格闘家の身体が、元の姿へと戻っていく。同時に、なくした腕も生えてきた。
よく見ると、虎の装備品が壊れている。
「くそ、オレサマの激レアなアイテムが!」
格闘家が見苦しく、アイテムの破片をかき集めた。
「なるほど。この装備がお前を強くしていたのか」
「てめえ、覚えていろ!」
粉々になったアイテムを抱きかかえながら、虎がまたも逃げ去る。
「追うぞ」
虎が逃げた先に、きっと敵の手がかりが見つかるはずだ。
【ファミリア】に反応が。俺は、ファミリアが光を放つ方角へ急ぐ。
そこにあったのは、地獄絵図だった。
ハンターたちだけじゃない。調査隊も残さずクモの巣に絡まっていた。
「生きたまま、養分にされているぞ」
急いで、俺は剣を使って彼らを解放する。
サピィがクモの巣を切断し、【エリアヒール】をかけた。
ほとんどの調査隊が、目を覚ます。
より多くの人命を救助した。
しかし、手遅れになったものも多い。
「何があった?」
俺は生き残りに、事情を尋ねる。
だが、調査隊は天井を指差して気を失う。
そこには、上半身が人間の女で下半身がクモ状になったモンスターがいた。八本の足を持ち、ワキワキと動かす。
生物というより、金属質の機械生命体というフォルムである。
魔物の身体に、別の文明か技術かが加えられているではないか。
明らかに、今までの魔物とは一線を画していた。何者だろうか。
「あらあ、アタシの食事を邪魔するものは誰かしら?」
逆さ吊りの状態で、女モンスターが降りてきた。この巣を管理するのは、やはりコイツのようである。
女の顔はレンズ状の目が六つついた仮面で覆われている。口がなく、下アゴで死体をかじっていた。あれが素顔なのかも知れない。全身も、機械のボディらしかった。
「獲物かしらー? 自分から来てくれるなんて、結構な心構えねー? アタシはアラクネ・クイーンよ。でも、死ぬから教えても仕方ないかー」
お嬢様のような高笑いをしながら、アラクネ・クイーンはのけぞる。
「あいつらだぜアラクネ! オレたちの邪魔をしているヤツラは!」
こちらを挑発する黒虎のノドに、アラクネは長い爪を立てた。
「こんなヤツラに負けて、シッポを巻いて逃げてきたの?」
「ひいい! オレは負けていない! 戦略的撤退を選んだだけだ。オレはお前たちにちゃんと従っただろ!?」
逃げようとした黒虎に、アラクネはバカでかいシッポを向ける。
シッポから、白い粘性の糸が放出された。黒虎の背中にヒットして、引き戻す。
「我々魔族に、撤退は許されないのよ。我らが魔王が許すと思うの?」
怯える黒虎を、アラクネは無慈悲にも鉤爪を突き立てた。
「ぎゃあああ!」
ノドをかき切られ、黒虎が絶命する。
「なんてやつだ。味方まで殺すのか!?」
「こいつが? 何を言っているのかしらー?」
アラクネクイーンが、肩をすくめた。
「こんな弱っちいヤツ、別に味方じゃないもの。やはり、魔族以外は下等生物ね」
アラクネの瞳が、赤く輝き出した。
「次はあなたたちよ」
魔族の放つ殺気に反応したのか、数名の調査団が息を吹き返す。
「くらえ化け物!」
調査隊が、一斉に銃を放った。
だが、アラクネの硬い装甲が、銃弾をたやすく跳ね返す。
「くそ、バケモノめえ!」
それでも、調査団は攻撃の手を緩めない。怒りで我を忘れている。
「やめろ撃つな! 人命救助を優先しろ!」
俺は調査団の肩を掴む。
「うるさい!」
しかし、調査団は俺の手を振りほどいた。
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