3-4 敵の目的を殴……探りに行きます

三層 【宝物庫】

 翌朝、俺たちは塔の前に集結する。


 ヒューコ騎士団の銃が、魔法弾を撃ち出す形状へ変化している。


「まずは、お詫びをさせてください。相手の力量を見誤っていました。まさか、【威圧ブロウビート】を使ってくるような相手だとは」


 ブロウビートとは、敵の魔法障壁などを無効化する、減衰デバフスキルだ。相手に視線を送っただけで、発動してしまう。


「人間が強くなる限界である四〇が推奨レベルと思っていましたが、威圧使いが相手ならまだ足りません。最低でも、五〇は必要かと」

「気にしないでくれ。オレたちが弱すぎるんだ」


 兵士の一人が、サピィを気遣った。他の兵たちも「そうだそうだ」と答える。実際、メンバーは誰一人として欠けていない。


「オレたちな、昨日エトムント隊長に言われたんだ。『怖くなったら、やめていい』ってな」


 前回の探索で、ルーオンが死にかけた。


「冗談じゃねえや! 民衆をあんな目に遭わせないために、オレたちがいるんだ!」

「無謀かもしれねえ。だがやってみる価値はある。オレたちがやらねえで、誰がやる!」


 若手もベテランも関係なく、彼らはヒューコの人間として誇りを持っている。


「聞いてのとおりだ。ランバート、サピィ殿。我々に気遣いは無用。彼らの好きにやらせてもらいたい」

「ありがとうございます、エトムント。それにみなさん」


 まず、全員でアイレーナへ。


 コナツの開発した新装備で固めた。


 俺の剣も、鍛え直してある。トウコやフェリシアも同様に、マイナーチェンジにとどまった。


「銃は、魔力弾も撃ち出せるタイプにした。威力は下がっちまうが、各種属性に対応している。使えそうなら、撃ってくれ」


 続いて、防具の見直しも。


 兵士たちはもちろん、シーデーやルーオンの装備まで変更となる。


「ボウズには、こいつを」


 重量のある金属ヨロイから、ミスリルになっていた。


「上質のミスリルがギガースからドロップできたからよぉ、作ってみたんだ。これで、軽くなってスピードも上がるはずだ」


 ちゃんとルーオンらしく、赤い塗装までしてある。


「おっさんありがとうな」

「いいってことよ。いい仕事をさせてもらうことが、オレサマにとっての報酬なんだからな」


 フンスと、コナツが鼻を鳴らす。


 ちなみに、ルーオンの武器はジュエルの付替えにとどまった。今は新しい武器を試すより現存する武装に慣れたほうがいいという判断だ。


 メグのビキニアーマーも、ミスリル製に。


「でな、斥候や魔術師組はダフネちゃんを当たってくれ。あっちの方が専門だ」

 

 ヒューコへ向かい、ノームのダフネちゃんの元へ。


 昨日のうちに、サピィは自身の武器をダフネちゃんに預けて調節してもらっていた。魔術型の装備は専門外と、コナツが提案してきたのである。サピィ用の【光るジュエル】も、全てこちらに流してあった。


「おまたせしたです。サピィさんはこちらなのです」


 サピィに送られたのは、樫の木でできたオーソドックスな杖だ。しかし、杖の先にボールペンのような物体がフヨフヨ浮いている。


「周りを囲んでいるのはワンドです。各種属性に対応していて、樫の杖と合体するのです」


 ワンドの先には、俺が拾ってきた【光るジュエル】が取り付けられていた。


「魔王専用の杖となると、生半可に豪華な装飾を施してもぶっ壊れるです」


 杖なのに、殴ったりするからである。


「だったらいっそ、シンプルに殴れるようにも使える普通の杖にしてやったです」

「ありがとうございます。これくらいが、ちょうどいいのかもしれません」


 クノイチとなったミューエには、ニンジャ用の装束を。ミニスカで網タイツという、実にもっともらしい出で立ちとなった。


 ゼンは、防御用にマントを手に入れる。


「ヴァイパー族の巫女として、箔をつけたかったところだ。感謝する」

「礼には及ばないのです」


 あとは、コネーホだけだ。


「防具がダメになったと聞いたです。なので、こちらをどうぞなのです」

「……」


 なんと、コネーホに用意されたのは、白い着ぐるみだった。

 頭部は顔出しフード状になっていて、耳は自前という感じである。


「見た目はふざけているですが、性能は抜群です。なんと、着ても熱さ寒さを感じないのです。いわゆる着る毛布なのです。固有スキル【ギャグ補正】が入って、大抵の大ケガを防げるです」

「……ヒーラー要素がゼロなんですが」


 黙々と着ぐるみを装備しながら、コネーホは固まっていた。


「モコモコしていて、かわいいです」

「うらやましい」


 サピィとゼンの魔術師組が、あまりのかわいさにうっとりしている。


「ルーオンどうかな?」

「いいと思うぞ」

「じゃあ、いいかな」


 もはやコネーホは、仙人の境地に達していた。


「では、出発する!」


 エトムントの号令によって、俺たちは塔の中へ。

 


 ボス部屋だった場所から、三層へ一気に飛んだ。


 この塔は、階層を攻略した者だけが、空間移動式エレベータを使える。いちいち登る必要はないのだ。


 ペトロネラの介入によって、これまで作動しなかった。二層にあった装置を破壊したおかげで、エレベータの制御がこちらに移ったのだ。


 入って早々に、魔物たちが押し寄せてくる。コブリンやウルフ、殺人バチのような小物から、オーガやキメラのような大型まで。


「いいか、推奨レベルは五〇だ。それまでは上がってくるな! 達成したやつから、四層へ上がってこい!」

「了解!」


 ヒューコ騎士団長エトムントの号令に、兵士たちが応答した。


 モンスターたちを、銃でハチの巣にしていく。


【災厄の塔】は相変わらず、塔という割に雰囲気がバグっている。


 初めて連れてこられて、内部を『塔の中』と説明しても、大半のハンターは理解しないだろう。


 マップが広大すぎる。内部は古のビルやショッピングモール、競技場が並ぶ。ネジ曲がった状態で。

 まるで地下都市を思わせる。いや、国と形容すべきだろう。

 事実、塔の土地面積は、ヒューコ国の七割を占める。


「階」ではなく「層」と呼んでいるのは、層によって内装や雰囲気がガラッと変わるからだ。


 兵士たちも、ビルの壁を背にして戦っていた。


 ルーオンたちも、賢明に魔物を倒している。メグたちから指導を受けながら。


「ランバート、アタシもこっちがいいぞ!」


 見物しながら、トウコが手をワキワキさせる。


「アンタまで戦闘組に行ったら、他のヒーラーが育たないでしょ?」


 フェリシアが、トウコをたしなめた。


「ちぇー」


 トウコはヒーラーとしては優秀だが、一流すぎる。そのせいで、他のヒーラーの出番がなくなってしまう。


 全員が、駐車場の中へ。このような閉鎖された空間を、ハンターたちは通称【玄室】と呼んでいた。


 三層は通称【宝物庫】と呼ばれ、各玄室にはお宝が眠っていると言われている。しかし、それを守護する強いモンスターも各地に配備されていた。


【宝物庫】は通称【モンスターハウス】と呼ばれ、ハンターたちの間で恐れられている。


「あったぞ。魔物のジェネレーターだ!」


 駐車場の内部に、マユのようなものを発見する。マユの内部は、心臓の鼓動のように点滅していた。


「あいつをぶっ壊せば、しばらく魔物が湧くのを抑えてくれる」

「撃てうてえ!」


 他の兵隊の援護を受けながら、兵士たちが銃をジェネレーターに乱射する。


 マユが潰れ、中からチェストがドサッと落ちてきた。

 見た目こそ古臭い宝箱だが、装飾は機械仕掛けのコンテナである。ふざけたデザインだ。


「開けるぞ」

「待って。トラップがないか調べる」


 同行していたクノイチのミューエが、慎重にトラップの有無を調べる。


「大丈夫よ」


 ミューエの報告に気をよくした兵士たちが、嬉々として宝箱を開ける。


 宝らしい宝は見当たらない。しかし、大量の金貨とジュエルが見つかった。


 レアに恵まれなかったとはいえ、兵士たちは喜ぶ。


「そうはいってられねえぜ、みなさんよお」


 ビョルンが指を差す先には、塔の異変を象徴するような敵が。


「あれは、堕天使!」


 エトムントが、上空に照準を合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る