ジュエル回収班と合流
俺とサピィは、急いでペールディネへ向かった。
もしかすると、ミューエとメグが、デーニッツの息子を襲撃している可能性がある。なんとかして、止めないと。あそこには、我が親友クリムの妹グレースだっているんだ。
「グレース! 大丈……夫のようだな」
慌てて店に入ると、ミューエ、メグ、ゼンの三人がプレートをシェアし合っていた。
「あら、ランバート! いらっしゃい!」
ちょうどグレースは、ミューエたちのコップに水を注いでいるところである。
「今日は、コナツの所で食べていると思っていたんだけど?」
「いや、もう食ってきた。ミューエたちがこっちに来ているというから、顔を出そうかと」
「じゃあ、席を詰めるわね」
ミューエたちに断りを入れて、グレースは後ろの机をゼンたちの席にくっつけた。
「なにか食べる? ジュースかお酒か」
俺はオレンジジュースを、サピィはメロンソーダをオーダーする。
オーダーを受けたグレースは、忙しそうにパタパタと厨房へ。
「飲まないのだな、二人とも」
口いっぱいにパスタソースをつけながら、ゼンが尋ねてきた。
「どっちも飲めないんだ。サピィに関しては、意外かもしれんが」
「いくら魔物といえど、アルコールをおいしいと思えません」
サピィは、酒を飲んでもすぐに体内で分解してしまうという。おいしさを感じる前に、消化するそうだ。身体が酒を、「毒」と認識しているのだろうとのこと。
「それより、どうしてここに?」
「ここのチリソースパスタが、絶品と聞いて」
ゼンの口周りが赤いのは、パスタソースがついているからか。
「みんなは、ここがどんなところか知っているのか?」
グレースに聞かれないように、こっそりと話しかける。
「知っているわ。デーニッツの息子が経営しているのでしょ?」
やはり、知っていたか。
「ああ。それに、俺の友人の妹が、ここに嫁いでいる」
友人の母親まで、面倒を見ている。普通の人間には、とてもできることではない。
「他人の親なのに、すごいね」
自分の親が、ハンター稼業でたくさん人を殺めたから、家族を大事にしたいと言っていた。もちろん、グレースには内緒にしているが。
「お前たちからしたら、ここは仇の肉親が経営しているレストランだ。なのにどうして?」
「関係ないわ。彼は関係ないもの」
ミューエは、あっさりと返答した。
「体つきを見たところ、戦闘経験もない。生粋の料理人だなあれは」
「うむ。普通に家族思いな男性のようだ。危険な因子は見当たらない」
ヴァイパー族が言うなら、そうなのだろう。
俺も、彼からは何も感じない。
「サピィは、どう思った?」
「お菓子もおいしいんですよね。ここは」
いつの間にか、サピィはアップルパイを頼んでいた。
「一口どうぞ。おいしいですよ」
「ありがとう」
サピィが、黄金色に光るアップルパイを、俺に食べさせてくれる。
うまい。生地がサクサクで、りんごがシャクシャクしている。
前を見ると、ミューエとメグが俺たちをみてニヤニヤしていた。ゼンはパスタの消費で口を忙しく動かしているだけだが。
「な、なんだ?」
「いやあ。いいなぁ、って」
「なにがいいんだよ、ミューエ?」
俺が聞くと、ミューエがはあ、とため息をつく。
「サピィ、苦労しそうね」
なにかすごい、モヤモヤした気分になる。
気を取り直して、俺もアップルパイを頼んだ。
「実を薄く切って、ミルフィーユ状にするとは。これはうまい」
「こんなおいしいものを作れる人に、悪い人はいません」
「だよな……そうか。お前たちは、それを確かめるために」
俺が尋ねると、ミューエたちは照れくさそうにした。
「まあ、そうだよ」
「お察しのとおりと感じてもらっていい」
なるほど。一応、警戒はしていたわけか。ならば、結論は出ているだろう。
「では、彼の疑いが晴れたようなので、本題に入りましょう」
サピィは、三層の探索についてミューエたちと話し合った。
「攻略対象では、ないんだよな?」
「ですが、トレハン場所としては価値があるかと。レベル上げにも最適です」
サピィが話す間、ゼンがアゴに手を当てている。
「ふむ。では我々が低いレベル組を引き連れて三層の探索をしている間に、他のメンバーで四層を調べると?」
「そうなります。トレハン・レベルアップ組と、四層探索組で分けようと考えています」
「で、第五層あたりで合流すると」
四層はおそらく、並大抵のレベルでは太刀打ちできない。敵の攻撃も激しくなり、トラップも凶悪になってくるはず。ヘタに犠牲者を出すより、強くなったほうがマシだ。
「あたしも行っていいの? ほとんど非戦闘員だけど?」
ミューエが手を上げた。
「あなたには、宝箱のトラップ解除をお願いします」
「そっか。レアが出るのね」
ミューエは、何かを察したようである。
「三層にはモンスターが多数いますが、その分宝箱も大量に置いてあります。モンスターのドロップ品も含め、トレハンとしての価値は十分にあると思います」
「楽しみね」と、ミューエが微笑んだ。
「俺がいると、レアアイテムが出ないからな」
なので、俺は必然的に四層行きである。
「そこで一旦、みなさんのレベルをチェックしようかと」
メグが、「五〇だ」と手を広げた。ミューエも五〇、ゼンは五七である。
「それでも、ルーオンたちよりは高いですね」
ルーオンとコネーホは、やっとレベル四〇に乗ったくらいだ。上級職には遠い。
ミューエは上級職として、【クノイチ】を取ったという。ニンジャの女性専門職で、房中術が使えるそうだ。男性を魅了して、情報を聞き出すスキルらしい。
「メグ、ルーオンのコーチを頼みたい」
「あたいがか? あんたじゃダメなのか?」
同じ剣士職だろ、とメグが聞いてきた。
「俺はサムライと言っても、ウィザード上がりだ。どうしても魔法での肉体強化に依存する。筋力を生かした戦闘を、想定していないんだ」
その点、メグは上級職の【バーバリアン】に手が届くかという程のムキムキ戦士だ。
「女のあたいが教えるのに抵抗がないってんなら、いいぜ。あたいも、ガキには興味がないし、向こうだって、あたいに欲情しないだろう」
えらく確信を持って、メグは主張する。服装は、大胆なビキニアーマーだ。思春期の少年には目の毒だと思うのだが。
「上級クラス、【アマゾネス】の特徴があるからね」
「どんなものなんだ?」
「女性を誘惑する系の魅了魔法が、一切効かないのさ。色気がなくなっちまって、男が寄り付かなくなるけどね」
「【戦乙女】って上級職への道が拓けていたが」
「そっちのルートには行かなかった。魔法を覚える必要があってさ」
武器一本で戦うのが、彼女のスタイルらしい。
「ますます、ルーオンのコーチにふさわしいな。頼めるか?」
「お安い御用だ」
食事を終えて、全員でアイレーナにて顔合わせをした。
「おー、お前がルーオンかー。あたしはメグだ。よろしくな」
さっそくメグが、ルーオンにヘッドロックをする。
「うわっ。おっぱいが硬い」
「だろー? 巨乳だって筋肉がついたらパンパンになるんだぜー」
コネーホが二人の間に割り込んで、過剰なスキンシップをやめさせた。
「もう、二人共マジメにやってください!」
「あはは。若いっていいね! こんな純情、久しく忘れていたよ!」
ガハハ、とメグが豪快に笑う。
「もう、そういうんないですから!」
冷やかされて、コネーホが頬をふくらませる。
「わーったわーった。んじゃ、明日はよろしくな」
簡単な自己紹介を終えて、三人はサドラーの宿へ帰っていった。
「そういえばコナツ、ダフネちゃんにジュエルは送ったのか?」
「もちろんだ。お前らにもらった分はすぐに」
装備の見直しも含め、すべてやってくれているそうだ。
「わかった。明日には新装備で探索ができそうだな」
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