ルーオン死す!?

 アストラル世界から、サピィたちが戻ってきた。

 コネーホが、ルーオンの元へ駆け寄る。


「ルーオン!?」

「動かしてはダメだ」


 ルーオンを抱き起こそうとしたコネーホを、エトムントが遮った。


「なにがあったの。ランバート!」


 コネーホが、俺の肩を揺さぶる。


「ギガースにやられた」

「わたしたちが潜っている間に、そんな大型魔獣が?」

「ああ。合計が五体もいた。それで、魔物たちは打ち止めになったんだが」


 正直言って、ギガース五体が一番堪えた。

 兵士たちの銃撃が、まったく効果なしだったから。

 ザコは数がいようと、これだけの【アサルト】部隊がいればなんとかなる。

 しかし、武器が通じない相手となると、俺が一人で対処するしかなかった。


「一体は、ルーオンが倒した。しかし、彼は油断して、背後にいた別の個体に気が付かず、攻撃をモロに受けてしまったんだ」


 エトムントが、俺の代わりに話す。


「俺たちは残りのギガースを仕留めて、ルーオンの治癒にあたっている」


 トウコやフェリシアの治癒魔法も、効果がない。


「ダメだ。全身の骨が砕けている。回復が追いついていない。これでは【リザレクション】さえ」

「そうか。リザレクションが必要なのか」

「それだけじゃない。強力な触媒がなければ。すぐに治療院へ行かねば」


 兵士の一人が、「どうやって!?」と叫ぶ。兵士たちもルーオンに、応急処置をしてくれている。が、ルーオンはここから運ぶことすらできないほどのダメージを負っていた。


 俺は、トウコとフェリシアを呼んだ。サピィもいたらいいだろう。


「これは使えそうか?」

「はい。今ならなんとか」


 サピィと話し合う。


「ルーオン、今のうちにコネーホと話しておけ」


 俺が尋ねると、ルーオンが血を吐く。


「ヤバイか? 話せそうか?」

「なんとか」


 ルーオンは、どうにか持ち直したらしい。


「しっかりして、ルーオン!」


 コネーホが、ルーオンの手を握る。


「あはは、ドジっちまった。ざまあねえや。せっかく、リックの役に立てると思っていたのに、こんなところで死ぬなんて」

「死なない! あんたはしぶとさが売りでしょ!? χカイにいたときから、あんたはタフさだけが取り柄だった!」


 コネーホの事情を、サピィが詳しく話してくれた。ルーオンとコネーホは、χを追われた立場だったらしい。


「すまねえ。守ってやるって言ったのに、こんな」

「いいから。もうしゃべらないで!」


 ルーオンの手を強く握りながら、コネーホが嗚咽を漏らす。


「ひとりぼっちにしちまって、ごめんな」

「大丈夫だから! こんなのすぐに」

「いや。オレはもうダメだ。身体が冷たくなってきている」

「そんな!?」


 二人が話している間、俺はトウコトとフェリシア、サピィと打ち合わせをする。


「いいか。この術は、二人で五レベルずつも消費する。だが上級職が四人もいれば、一レベルずつで大丈夫なはずだ。やってくれるか?」

「はい」


 サピィが即答した。自分がなにをすべきか、わかっているのだろう。俺からアイテムを受け取って、ルーオンの足元に陣取る。


「レベルは上がったしなー。ここで使わずにいつ使うってんだ」

「これこそ、神よりの試練。自分のことより、他人のために。それより時間がないわ」


 トウコとフェリシアも、承諾してくれた。二人共、俺からアイテムを受け取り、ルーオンの左右に分かれる。


「ありがとう。じゃあ詠唱を開始する」


 ルーオンの頭側に陣取って、俺は目を閉じた。


「ああ、もっとリックに野球を教わりたかったな」

「待って。目を開けてルーオン、ルーオン!」

「コネーホ、オレさ、お前が……いや、いいや。困らせちまう」

「どうしたの! 言いなさいよルーオン!?」


 コネーホの叫び声が、ダンジョンにこだまする。


 兵士から「安らかに眠れ」と声がした。


 完全に、あきらめムードである。


「みんな、いくぞ! せーの」


 俺が、掛け声を発する。



「【リザレクション】!」



 全員の声が揃う。


「え?」


 ルーオンのキズが、みるみる塞がっていく。


「え、これはリザレクション?」


 コネーホも、どんどん回復していくルーオンを、呆然と眺めていた。


 回復は絶望的だったが、どうにかルーオンの治療は済んだらしい。


「ふう。間一髪だったな」


 みんなが唖然とする中、俺は汗を拭う。


 自分の身体を起こして、ルーオンが状況を確認する。


「ルーオン!」


 コネーホが、ルーオンに抱きつく。


「待ってくれ、コネーホ。ルーオンは、まだ骨がつながっただけなんだ。興奮するのはわかるが、後にしてくれないか」


 念のため、ルーオンには本格的な治療をしてもらう。


「そっか、ごめんなさいルーオン」

「いいんだ。ありがとう」


 ルーオンが、頭をかいた。まだ、照れが残っている様子である。


「では、今日の遠征はこれで終了だ。帰ろう」


 ヒューコのギルドへ報告した後、ルーオンを治療院で見てもらう。

 外傷は特に見つからず、あとは栄養をつければいいとのことだ。

 通院もしなくていい。


 続いて、アイレーナへと戻ってきた。全員で、コナツの鍛冶屋へ顔を出す。


「いよお。こいつぁまた大量だな!」


 とてつもない量のフィーンド・ジュエルを前に、コナツが目をキラキラさせた。


「夕メシの準備ならできてるぜ。ささ、入ってくれ」


 コナツが、俺たちを座敷へ連れて行く。


 やはり旅の後は、コナツの家で鍋だ。


 ルーオンたちや騎士団を混ぜて、酒盛りとなる。


「うまい。こんなうまいものを毎日食べているのか」


 エトムント隊長が、酒と鍋に舌鼓を打つ。


「まあな。ハンティングの後は、だいたいこんな感じだ」

「お招きに感謝する」


 頭を下げたエトムントは、ルーオンに声をかけた。


「まだ、すねているのか?」

「だって、リザレクションができるなら、言ってくれたらいいのに」


 エトムントの言う通り、ルーオンはムスッとしている。鍋も進んでいない。


「リザレクションは、大量のレベルを犠牲にする。そのため、治療院でも莫大な費用がかかるんだ。全員の承諾を取る必要があったんだろう」

「まあ、ありがと」


 俺に礼を言って、ルーオンは食事を再会した。


「ねえルーオン、あのときアタシに、何を話そうとしていたの?」

「なんでもないっての。ったく! おかわり!」

「はいはい。よそってあげるね」


 コネーホが注いでくれた具材を、ルーオンはガツガツとつつく。


 ルーオンがむくれている原因は、そこだ。


 俺たちがリザレクションをもったいぶったと思っているようである。コネーホへ、ルーオンに本音を聞き出そうとしていると。準備が大変だったからにすぎず、わざとじゃないんだが。


「それにしても、リザレクション使いが四人もいるとは。我ら騎士団でも、治療班にそんな使い手はいない」

「貴重な治療師を、危険な戦場へ連れて行くわけにはいかないからな」


 俺たちのパーティは、リザレクションを持つ上級職が四人いる。それぞれに持たせた杖には、回復効果があるダイヤが施してあった。しかもすべて、最大クラスの【オーブ】等級である。


 みんなが絶望している間、俺はみんなからダイヤを回収し、エンチャントを施した。


「よくそんな、レベルの犠牲まで伴う大魔法を」

「友人の……リックの教え子だ。死なせたくなかった」


 俺が拾ったダイヤの威力が、特にすさまじい。誰のレベルも下がっていなかった。レベルの一つや二つは、消滅する覚悟だったのに。


「それでも、なんのためらいもなく自分の経験値を差し出すとは」

「そのためのリザレクションだ」


 俺とエトムントが話し終えると、サピィが俺に寄ってくる。


「このあと、時間がありますか? 三層攻略班を結成します」

「というと?」

「三層は、別グループに調査をおまかせします」

「ミューエたち、ジュエル回収版にか?」

「ええ。それと、ルーオンたちのレベル上げも兼ねて」


 さっそくサピィが、ジュエル班に連絡を入れる。


「え? ペールディネのカフェにいらっしゃるのですか?」


 あそこは、ミューエたちの仇の身内が経営しているのに?

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