サドラー、負の遺産

「はい」と、サピィがガード長を仕留めた。サドラー国王を解放する。


「なあ!? ふぐおっ!?」


 粘着質の青い物体に、ガード長は口をふさがれた。


 青い粘液の正体は、サピィの腕である。


「サピィはお前が話している間、ずっと後ろで待機していたんだよ。スライム状になって」

「ばかな……」


 ガード長は、そのまま昏倒した。


「サピィ」

「間に合いましたか、ランバート?」

「すばらしい仕事ぶりだった、サピィ」


 俺たちは、他のガードも倒す。

 といっても、ほとんどはシーデーが眠らせたが。


「トウコ、ペールディネ国王についてやってくれ」

「わかった!」


 VIPたちが避難する間、トウコにガードしてもらう。


「エルトリ大臣、あんたも」

「オフェーリアが戦っているのだ。ワシは残る」

「そうか」


 随分と、大臣の態度が軟化したな。命を救われたからだろうか。


「お父様!」

「ヒルデ!」


 王が、姫と抱き合おうとした。しかし、ヒルデは一歩下がる。


「お父様は、このことをご存知でしたの?」


 批難するような目つきで、ヒルデは王を問い詰めた。


「我々サドラーの民は、ヴァスキーに依存せざるを得なかった。この繁栄は、魔族によってもたらされたものだからな。お前にも、いつか話さなければと思っていた」

「ひどい。サドラーの隆盛が、偽りの平和のもとに成り立っていたなんて」


 王が歩み寄ると、ヒルデがまた一歩下がる。


「サドラーには、バックがいたのではありませんか? 魔王ダミアーニが」

「本当か、サピィ!?」

「ヴァスキーのようなモンスターを止められるとすれば、ダミアーニくらいでしょう。問題はそこではない」


 サドラー王に、サピィは視線を向けた。


「このヴァスキーを作った真相は、サドラーが魔界へ攻め込むためだったのでは?」

「……あなたのいうとおりだ」


 最終兵器ヴァスキーは、前の戦争でダミアーニ卿打倒のために開発されたものだという。


「魔界と人間界との歴史を綴った文献を、ダミアーニ卿の部屋で読みました。ヴァスキーは、機械じかけの魔王だったと。作ったのは、人間だったともありました」


 人が魔物に対抗するための兵器こそ、ヴァスキーだった。


 ヴァイパー族がダミアーニに敵意を持つのは、遺伝子レベルで彼が一族の神的な存在を破壊したと覚えていたからだろう。


「もう、随分と昔の文献だな。もう焼き捨てたと思っていたが」


 サピィは、魔導占術師マギ・マンサーだ。

 サドラーに隠された歴史を、ダミアーニの屋敷で見つけたのである。


「部外者が意見するのはどうかと思いますが、こんな遺物は処分すべきです」

「それはかつて、枸櫞の魔女シトロンことストーマー様からも言われていたそうです。しかし、歴代の王は聞く耳を持たず」


 一度手に入れた資源を手放すことは、容易ではない。


 それで魔女は、別の資源としてポーションを売ろうとしたのだろう。


 しかし、その意図を汲んだのは何も知らないヒルデだけだった、と。


「あなたがたサドラーは、魔女の残したアイテムのおかげで自立できるのです。ヴァイパー族の怨念に取り憑かれているのは、サドラーの方です。このような兵器は、もう必要ありません」

「しかし、χやヴァイパー族に対抗するには!」

「こんなもの、なんの抑止力にもなりません! 利用されるだけ!」


 サピィが、サドラー王を説得していたときだった。


『そう。この兵器は我々が有効活用させてもらう』

「な!?」


 何者かの声がする。どこからだ?


 閃光が、フェリシアに向かって飛来する。


「オフェーリア!」


 エルトリの大臣が、フェリシアに飛びかかって閃光から防いだ。


「ぬわああああ!」


 老大臣の背中が、火に包まれる。


「大臣!?」


 俺とサピィは、大臣に駆け寄った。


 突然、地震が起きた。建物が崩れそうになる。


「ヴァスキーが動き出しています!」

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