動き出す最終兵器

 兵器ヴァスキーの腕やシッポが、ゆっくりと稼働を開始している。

 動く度に、エネルギーを抜き取っているであろうパイプが次々と抜けていく。


 それより、エルトリの大臣だ。


 次の狙撃に注意しつつ、救出へ向かう。


「命に別状はありませんが、治療せねば」


 シーデーが、大臣の背中の炎を消す。


 サピィが手を、治療用の軟膏へと変化させた。


 フェリシアが、大臣の背中に手をかざす。

 治癒魔法によって、大臣は回復していった。


「お前は逃げろ、オフェーリア!」

「黙ってて! おじいさまを放っておけない!」


 大臣は逃亡するよう促すが、フェリシアは聞かない。


 ヴァスキーの背後に、二人組のχカイがいた。


「お前たちはχっ!?」


 腕がランチャーになっているサングラス男と、能面のうめんというχの首領である。

 フェリシアを狙ったのは、ランチャー男だろう。


「この最終兵器はいただいていく。これで、ヴァイパー族の制御も容易となろう。ヒューコは手にできなんだが、エルトリとサドラーをものにできればしめたもの。魔族制圧も見えてきたというものだ」


 コイツらの目的は、人でありながら魔族をも侵略することか。


「サイボーグとなって、我々は魔族に匹敵する力を得た。だが、まだ足りぬ。貴様らのような、怪しげな武器開発をするような輩が現れた。まして、呪われし装備【オミナス】を破壊する、秘宝殺しレア・ブレイクまで。それに対抗すべく、このヴァイパーに狙いをつけた」


 それで、盗賊団や配下を率いてサドラーを探らせていたと。


「おそらくブートレグ開発も、ヴァイパー族の謎を探るためだったのかも知れませんね」


 ヴァイパー族を解剖し、サドラーに行き着いたのだろう。


「我らχこそ、世界を制圧するにふさわしい! この力を以て……ぬう!?」


 ヴァイパーの魔王が、動きを止めた。まだ満足に作動しないようである。


『ぬう、制御系が複雑すぎて、手間取っておるか。動けぃ!』

「動くものかよ!」


 魔王ヴァスキーの全身を駆け上がって、少女が能面を突き飛ばす。


「あれは、ゼンという少女!」


 どうもサピィは、あの少女に見覚えがあるらしい。


「知っているのか?」

「尋問した少女です」


 俺も思い出す。あの少女は、ヴァイパー族だ。


「首領! くっ!」


 サングラス男が、ゼンという少女に狙いを定めた。


「とう!」


 少女はヴァスキーの脳天に到達し、二頭のヘビに噛ませる。


「よくも、我々を騙して利用してくれたな!」

「ヴァスキーが我がヴァイパーに戻った以上、貴様らの好きにはさせん!」


 魔王ヴァスキーが息を吹き返し、サングラス男と能面を自身から叩き落とした。


「おのれ……引き上げるぞ、弔砲ちょうほう!」


 能面が天井を見上げる。


 弔砲と呼ばれたサングラス男が何かを察して、天井へ砲撃した。


 天井に穴が開く。


「秘宝殺しのランバート・ペイジとやら。決戦はエルトリで、だ!」


 能面は背部のバックパックから大量の触手を放出し、天井からサングラスともども逃げていった。


「待て!」


 後を追おうとしたが、俺たちはヴァスキーに阻まれる。


「スライム女っ! 借りは返した!」

「だが、次に対峙するときは敵だからな!」


 ヴァスキーはχを追って、天井を突き破った。


 ガレキから全員をカバーするため、俺とサピィで障壁を作る。


「とにかく、俺たちも引き上げる」


 崩壊が止んでから、俺たちも移動を開始した。


「サドラーの街が……」


 電力を失い、サドラーの都市はすっかり暗くなっている。


 しかも、ヘビの王ヴァスキーがビルや店を次々と踏み潰していった。


 ああなってしまうと、俺たちは見ているしかない。

 あのバケモノを封じ込める術は、こちらにはないのだ。


 あとに残ったのは、大量のガレキと化した街である。 


「我々は、どうすればいいのだ!?」


 膝をつき項垂うなだれる国王の頬を、ヒルデがひっぱたく。


「今は、泣きごとを言っている場合ではございません!」

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