福音《ゴッド・ノイズ》、完成

 ヒルデはなおも、自分の父親を叱責する。


「謝罪は全て終わってからになさって! 街の復興は、わたくしにお任せください。お父様は、兵器ヴァスキーについての情報共有を!」

「ヒルデ……お前、頼もしくなったな。子どもの頃は、私の後ろに隠れて泣いてばかりだったのに」


 ほほえみながら、サドラー国王は立ち上がった。


「お前の言うとおりだ。私が間違っていた。知っていることは、全て話しましょう」


 ひとまず、サドラーの王宮へ戻る。エルトリ大臣の治療も必要だ。


 そこには、ペールディネの王がいた。トウコも一緒だ。


「お逃げになったのでは?」

「一度ペールディネへ戻って、作戦を立てていました。


 ペールディネ及び全世界レベルで、ヒューコ国に向けて調査隊を向かわせたらしい。


「国家だけではなく、全ハンターにχカイの討伐を依頼しています。制圧は、時間の問題でしょう」


 ヒューコの国王が、城に潜んでいるχの撲滅を先導しているらしい。

 ずっと食い物にされてきたからな。


「そうだ。フェリシア、動けるかーっ?」


 トウコが聞くと、フェリシアは元気そうな顔を見せた。


「もちろんよ。あなたの治療のおかげよ。ありがとう」

「そのおっさんも治すぞー」


 トウコが手をかざすと、エルトリ大臣のキズがみるみる癒えていく。

 さすが、本職のヒーラーである。


「後は王族の治療師に見てもらってくれなー」


 サドラーが、治癒師を手配してくれるという。

 今は、エルトリに近づかないほうがいいだろう。


「おっとおが、見せたいものがあるって。みんなも」


 トウコはペールディネと別れた後、アイレーヌに戻ったらしい。

 ギルドから、一度こっちへ戻れと連絡があったそうだ。


「じゃあ、俺たちはこれで。必ず戻る」

「お願いします、ランバートさん」


 サドラーのハンターギルドから、ポータルを使う。

 



「ようランバート! 待ってたぜ!」


 アイレーヌへ戻ると、コナツがハンターギルドで待機していた。


「随分と派手に暴れたな。待ってろ」


 鍛冶屋へ急ぎ、コナツの弟子に装備を手直し・調節してもらう。


「このぶっ壊れ方は、フェリシアちゃんじゃねえな。ランバートだろ? お前、何をしたんだ?」

「ちょっと、廃ビルを溶かしただけだよ」

「これがちょっとってレベルかよ……」


 フェリシアの銃だけは、コナツ自身が直す。


 修理の間、夕食の鍋を準備した。

 フェリシアも女衆に混じって、慣れない手付きで大根の皮を剥く。


 鍋をつつきながら、コナツと会議になった。


「ギンとスズから聞いたぜ。ペールディネで大規模な依頼があってよぉ、フィーンド・ジュエル装備が飛ぶように売れてやがる」


 そこで、と前置きして、コナツがフェリシアに銃を渡す。


「これ、完成したの?」

「ああ。こいつが正真正銘の、【福音ゴッド・ノイズ】だ。多分な」


 鉱石の色からして、真っ黒な銃身が現れると思っていた。

 が、本体は真っ白である。


「持っただけで、凄まじい魔力を感じるわ」

「預かった鉱石をさらに焼き溶かしたら、こんな色になったんだ。おそらく、これが本来の色なんだろうよ」


 銃のポテンシャルを、限界まで引き上げたような姿である白銀の銃身は美しく、恐ろしい。

 撃てば賛美歌が流れるのではなかろうかというほどに、きらびやかだった。


「神の御業によって作らされた気分だったぜ。ありがとうよ。こんな思いをさせてくれて」

「こんなの、私が受け取っていいのかしら?」


 フェリシアの震える手を、コナツの丸っこい掌が包み込む。


「あんたが持つべき、銃だ。魔女があんたに託したんだよ。だったら、あんたの銃だ」

「わかったわ。ありがとう、コナツ」


 コナツに説得され、フェリシアは銃をホルスターにしまった。


「修理完了です!」

「よっしゃ。気をつけてな!」


 鍛冶屋の一家に見送られ、俺たちはサドラーへと急いだ。

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