2-6 最終兵器を、殴りに行きます

サドラーのゲーム

「お待ちしておりました。ランバート様」


 サドラーのポータルには、ヒルデ王女が待機していた。


「夜も遅いのに悪い」

「いいえ。あなた方を待つと決めたのは、わたくしです。では、会議へ参りましょう」


 王宮にて、今後の方針を練る。


「エルトリの大臣は?」

「お帰りになりました。自身が指揮を取らねば、と」


 サドラーは現在、都市機能がマヒして動けない。

 兵隊もハンターも出せない状態だ。


「それにしても、サピィ。地下にヴァスキーが眠っていることも知っていた感じだったな?」

「はい。妙な気配を、ずっとこの地域の下から感じていたので」


 魔王クラスの魔力が、付近一帯に立ち込めていたらしい。


「あと、異様な数のデッカーたちです」


 たしかに、サドラーはデッカーの数が多すぎる。

 しかも、誰一人として仕事をしていない。


「その割に、保証は充実しておりました。なにか妙な気がすると、姫と話していたのです」

「それで、シーデーに分析させたのです」


 結果、デッカーたちには共通項があったという。


 同じゲームを遊んでいたらしい。


「いつの間に調べたんだ?」

「一度、ペールディネに戻った辺りです」


 あのときか。


「我々が休んでいる間、シーデーには働いてもらっていました」


 夜通し、調査をしていたという。


「大変だったんじゃないのか?」

「お気になさらず。我には、睡眠などは不要ですので」


 最高齢とはいえ、無理が効く体質なんだそうな。

 さすが、人工物というべきか。


「どんなゲームなんだ?」

「ゾンビを撃退する、見下ろし型のゲームです」


 無限に襲ってくるゾンビを、銃や剣でやっつけるゲームだという。


「妙だったのは、それが『公務』だということでした」


 なんとプレイヤーであるデッカーたちは、ゲームで遊んで収益を得ていたのである。


「動画配信などでか?」


 こんな時代に、配信も何もあったものではないが。


「違いました」

「そのゾンビに、法則性があったのです」


 発電所を狙うように、プログラムされていたという。


「この発電所というのが、サドラー地下の発電所とリンクしていたのですな」


 つまり、実際のサドラー地下は、ゲームとつながっていたのである。


「デッカーのスキルに、【認識変換】というものがあるのです」


 スキルを利用して、ネットワークでサドラーの事情を探りに来るハッカーをゾンビに変換して、デッカーに倒させていたのだ。


「あとは直接、事実を確認しに行くだけでした」


 それで、地下の施設に先回りができたという。


「よく忍び込めたな? いくらシーデーがデッカーになったとはいえ」

「まあ、シーデーですから」


 フォート族ってのは、案外なんでもありなのか?

 敵でなくてよかったな。

 いや、たしかにフォート族の敵は手強かった。


「感服しました。そこまでご存知だったとは」

「ですが、今の問題はエルトリの方でしょう」


 現在、エルトリは孤立している。

 ペールディネも、ヒューコに集結している秘密結社χカイの構成員撃滅に奔走していた。

 エルトリに戦力を回す余裕はない。


「大臣は、ポータルで帰られました。ギルドは無事のようでしたので」

「猛者揃いらしいからな」


 ただでさえ、ヴァイパー族と何度も戦闘をしている。対策もしているだろう。


 だが、ここで問題があった。


「俺たちは、エルトリへのポータルをまだ登録していない」


 エルトリには、まだ行ったことすらない。 


「ヴァスキーがいる以上、外部から侵入のほうがいいでしょう」


 幸い、まだヴァスキーはエルトリに到達していないという。


「道案内程度でしたら、わたくしが」

「いや。あんたは残ってくれ」


 ここでヒルデがエルトリに行ってしまうと、サドラーががら空きになる。


「……待ってください。二手に分かれませんか?」

「というと?」

「ヴァスキーは我々が追います。ランバートは……」 


 そうか。敵は、ヴァスキーだけじゃないんだった。

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