真犯人の野望
俺たちがいるのは、サドラーが持っているという兵器の格納庫だ。
ヒューコのガード隊が、ペールディネやエルトリの関係者たちを取り押さえている。
ガード長は、サドラー王の首にナイフを突き立てていた。
「黒幕は、ヒューコか。思っていたとおりだ」
「驚かぬのだな?」
「別に、衝撃を受けるレベルじゃない。どうりで、各国の中で唯一おとなしいと思っていたからな」
今回の騒動で、ヒューコは唯一被害を受けていない。
その割に、野心を持たずじっとしていた。
妙だとは思っていたのだ。
「お前らには、メリットがありすぎるからな」
大方、
χの本拠地はヒューコだ。
「そうか、ヒューコが闇ギルドを飼っているというウワサは、本当だったのだな?」
エルトリ大臣が、歯を食いしばる。
「御冗談を。ヒューコはとうの昔に、我がχの手に落ちている。国王は傀儡よ。我々の指示に従っていればいい」
「貴様ら! エルトリを敵に回せばどうなるか!」
「おっと、動かないでもらおうか!」
大臣が腰のホルスターに手を伸ばすと、ガード長はサドラー王に向けているナイフをさらに主張した。
「卑劣な!」
「なんとでも言え。世界は我がχにひれ伏すのだ。さあ、見るがいい。サドラー最終の秘密である兵器を!」
サドラー王に、格納庫の照明をつけさせた。
倉庫が明るくなると、全貌を現す。
手足の付いた、巨大なヘビのようだが、どことなく機械的だ。
「これは……!」
どう見ても、ヴァイパー族ではないか。
「そう。これこそサドラーが誇る最終兵器。その名も、『ヴァスキー ゼロ式』だ!」
「ヴァスキーだと!?」
バカな。ヴァスキーとは、ヴァイパー族の首領のはず。
「どうして、ヴァスキーがこんなところに!?」
「ヴァスキーは大昔に、サドラーが開発していた機動バイオ生命体だったのだ」
ヘビの遺伝子を改良し、機械と融合させることによって意のままに操ろうとしたらしい。
「しかし、繁殖用に培養した一部のヴァイパーがエルトリに逃げてしまい、そこで根付いてしまったのだ。あそこの沼は魔界の魔素を含み、棲家としては最高だったからな」
サドラーはヴァイパーゼロ式の機能を停止させ、エネルギーを取り出していたのだ。
もしゼロ式が失われたら、サドラーの繁栄は潰えるだろう。
「これが兵器の全貌をサドラーが隠し通していた理由だ。我々は、この事実をエルトリにつきつけるため、調査を続けていたのだ」
「なんという……これは、重大なスキャンダルですぞ!」
「それは、エルトリもだ」
「な……そうかっ、オフェーリア!」
オフェーリア姫の出生などが明かされれば、エルトリはそちらにかかりきりになる。
「しかし、お前たちが捕らえたのはヒルデだった。なぜだ?」
「オフェーリアは魔女に鍛えられている、と情報があったからだ。別人が自分のせいでさわわれたとあれば、出て来ぬ訳にはいかんだろ?」
たしかに、フェリシアはヒルデが自分と間違えられて捕まったと聞いたとき、真っ先に動いた。
「なんのために、こんなものを作った?」
「当然、敵対都市の破壊であろう。なあ、サドラー王よ」
サドラー王は、ヒューコの言葉を肯定する。
「だが、今は断じてエルトリもヒューコも狙うつもりはない! 友好関係を築こうと、どれだけ歴代のサドラーが苦心していたか!」
「綺麗事はそれまでにしてもらおう! これだけの秘密と超兵器を持っていながら、よくもヒューコと国交を結ぼうなどと!」
ガード長の言葉に、俺は反論した。
「ヒューコは、お前たちの国ではない!」
「ああ、そうだったな。いずれ我が国となる予定、と言い換えるべきだった」
勝ち誇ったように、ガード長は後ろへ下がる。
「もはや、我々を遮るものはなにもない! ヴァスキーゼロ式さえあれば、この世界は我々χが手に入れたも同然!」
「……だそうだ。やれ、サピィ」
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