殴りウィザード、森でウサギにもてあそばれる

 それからしばらく、魔物狩りが続いた。


 まだ、コナツはクレイモアと格闘している最中である。その期間は、数日を要した。


 俺のファイトスタイルは、相変わらずエンチャント武器でタコ殴りスタイルだ。近接職同士の駆け引きも、技術もなにひとつ習得していない。もう魔法剣士と陰口を言われても、動じなくなっている。


 しかし、特に目ぼしいアイテムは見つからない。


 ほとんどが鉄素材にするしかない武器防具ばかりだ。

 シーデーのパーツか、マシンガンの弾薬にするしかない。


「売れ行きはどうだ? 新装備の開発は?」

「ばっちりだぜ」


 コナツの店では、棚が空になっている。


「今だと、『凍らされないマント』と、『風の衝撃波を撃つナイフ』に人気が集まってる。やはり、貧乏装備に苦労しているやつが多いな。ジュエル付きの装備は、ありがたがられているぜ」


 ラインナップも。充実してきた。今まで店内のインテリア程度の存在感しかなかった装備品が、ジュエルの力で息を吹き返している。


 ダンジョンに潜っては、自室に帰ってジュエルをエンチャントする日々が続く。


 俺の魔力にも、限界がある。そのため、魔力を温存しなければならない。サピィやシーデーがフォローしてくれなければ、俺は挫折していただろう。




 今回は森での依頼を受けたので、近くの森を探索することにした。


 依頼は、アルミラージ一〇体を倒すことと、コカトリスの卵を大量に手に入れることだ。


 イッカクウサギと称されるアルミラージは、食用として扱われる。だが、並の戦闘力では蹴り殺されて終わりだ。案外、熟練者の力が必要になる。


 木のそばに、何かがいた。お目当てのアルミラージである。下手に動くと感づかれ、逃げていってしまう。


「まずは、エンチャントしていない方の弓を試すぞ」


 俺は、ジュエルを装着しただけの弓を引き絞る。


 弓とは思えないスピードで、アルミラージを射抜く。それ以外は、まあ普通だった。威力も申し分ない。


「確認要素としては、まだ足りないな。もう一匹……うお!?」


 突如、一匹のアルミラージがこちらに向かってきた。首をはねようと後ろ足で蹴り込んでくる。


「なんの!」


 攻撃を、弓でガードした。


 アルミラージが、微量だが感電する。後ろ足をかばいながら、逃げ出す。


 だが、こちらも手首を蹴られた。弓矢を落としてしまう。


 俺を襲ったアルミラージには、角が二本も生えているではないか。こいつは、亜種だ!


「あれはアルミラージの亜種、【ヴォーパルバニー】です!」


 殺人的な蹴り足を持つ、レアモンスターじゃないか。


「森にまで、モンスター強化の影響が及んでいるのか、それ!」


 拾った弓で、アルミラージを殴打する。


 イッカクウサギの方も、角で迎え撃った。


 バチィンと、大きな火花が散る。


 またも、アルミラージが逃げ出す。また助走をつけてこちらに向かってくる気だ。


「逃さん、おらあ!」


 すかさず、トパーズの弓で矢を放つ。


 なんと、アルミラージは木を足場にして跳躍する。

 矢を、脚で蹴飛ばした。

 あれだけの速度と威力があっても、通用しないとは。連発してみたが、どれも外してしまう。


 やはりエンチャントしていない武器では、この程度か。


「雷のエンチャントを付与した弓矢を。おらああっ!」


 エンチャント済みの弓を引き絞り、迫りくるアルミラージに放つ。


「あ、あさっての方向へ!」


 どこを狙っているのか、俺の矢は標的とはまったく違う位置へ。


 勝ち誇ったような顔をしながら、アルミラージが俺に角を突き刺しに飛びかかった。


「大丈夫です」


 サピィがつぶやく。


 ひとりでに、雷の魔法を受けた矢が軌道を修正した。


 今にも、ウサギの角は俺の額を貫かんと迫ってくる。


 速度を上げながらアルミラージの側面へ移動し、正確に心臓を射抜く。


 木に突き刺さって、アルミラージは息絶えた。


「相手の気配を察知して、確実に仕留めるのか。これはいいものだ」


 アルミラージの二本角を、ゲットする。これも、いい武器の素材となるのだ。


「サピィ、エメラルドの【デルタ】を拾ったぞ」


 肉と同時に、ジュエルも手に入れる。


「エメラルドは、風の力を宿しています。こちらも、同等の効果が期待できますね」


 サピィが、風のエンチャントを仕込んだブーメランを投げた。


 普通は放物線状に動くブーメランは、頭部へ確実にヒットする。アルミラージのいる位置を、正確に把握しているかのような動きだ。


「次は、風の防具エンチャントも扱ってみるか」


 風のエメラルドを装着したブーツを履くと、足が早くなった。これによって、すばしっこいアルミラージを素手で捕まえる。


 自分のトレーニングも兼ねて、脚でアルミラージ狩りを始めた。


「はあ、はあ。ウサギ肉のノルマは達成したな」


 ヒザを押さえながら、俺は息を整える。


 なんとか、十分な肉は集まった。


「次は、コカトリスを……!」


 巣に向かうと、コカトリスの死体が大量に散乱していた。その数は実に、一五体もあるではないか。


「誰がやったんだ?」

「おそらく、彼ではないかと」


 コカトリスの巣に、もうひとりハンターがいた。バーバリアンだ。


 ベテランバーバリアンが、笑いながら回転していた。

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