殴りウィザードと、旋回バーバリアン

「ぬはっはっは! これは心地よいぞ! さすが魔物によって鍛えられたレアアイテムよ!」


 二本の大剣を、コマのように回転しながら振り回している。右片方を順手に、左片方を逆手に持って。


 バーバリアンの代表的なスキル、【旋風斬せんぷうざん】だ。


「聞いたことがあります。『バーバリアンだから回るのではない。回るからバーバリアンなのだ』と」



 前衛はたいてい、相手の攻撃を受け止める「壁役」のイメージが強い。


 バーバリアンは特殊で、前衛職の中でも攻撃に特化した職業だ。【二刀流:両手持ち武器】という特技があり、両手で扱うような大型武器を片手で振る。

 シーデーのようなフォート族や、ドワーフが主に担当するが、あのドクロ騎士は人間のようだ。


「我も【アサルト】ですが、あそこまで動ける前衛の人間は知りませんな」


 同じ攻撃特化職であるシーデーが、相手の動きを観察する。アサルトとは突撃兵のことで、両手で重火器を扱う前衛職を言う。 


 回転して相手を切り刻む旋風斬は、バーバリアンの代名詞とも言われていた。


 対抗するは、魔獣コカトリスである。胴体はニワトリだが人間より大きく、蛇になったシッポを持つ。

 産卵期なのか、おびただしい数で群れをなしていた。

 

 間引きする目的は増えすぎると生態系を荒らすためである。が、卵が珍味という理由もあった。



「もっとだ。もっと魔剣【チョウシュー】と【ムトー】に血をよこせ! さればこのデーニッツはもっと強くなる!」


 デーニッツと名乗るバーバリアンの歳は、四〇代くらいか。ドクロをかたどった、金属製のカブトを被っている。

 戦闘狂らしく、コカトリスの群れを秒で壊滅させていた。普通、猛毒ガスを恐れて一体ずつ倒すものだが。



 思っていた矢先、コカトリスが大きく息を吸い込んだ。猛毒ブレスを吐く気だ。


「フンガーッ!」


 足を高々と上げて、デーニッツが相撲の四股のように踏みしめる。スキル【震脚しんきゃく】を発動した。

 これにより、足の早いコカトリスがスタン、つまり目を回す。


「ぬはは! 受けてみよ、【旋風斬せんぷうざん】!」


 コマのように回転を始め、デーニッツはコカトリスの首をはねていく。


 数の多いコカトリスを撃滅できたのは、このためか。


 生き残りのコカトリスが、ブレスをデーニッツに見舞う。


 しかし、旋風斬の回転に酔って生じた竜巻によって、ブレスは霧散した。


 攻撃した相手は、仲間と運命をともにする。


「デーニッツという男。あの強さを後押ししているのは、レアアイテムですな」


 シーデーが、メモリから相手の武装を分析した。あの武器や防具は、レアリティが高いという。


「装備に取り憑かれている気もしますが、大本は彼の強さですね」


 それにしても、あそこまで執拗にコカトリスを狩るとは。なにか目的があるのか?


「こちらにも、コカトリスが来ました!」


 巣を守ろうと、コカトリスが向かってきた。


「我にお任せを」


 出番がなかったシーデーが、コカトリスを指マシンガンで撃退する。


 コカトリスは、【チップ】等級のパールを吐き出す。属性攻撃に関連するジュエルだ。


「ふむ。新手とな?」


 銃弾の音に気づいたのだろう。デーニッツが、こちらを向いた。


「同族を狩る【ハンターキラー】はギルド内で禁じられているが、このデーニッツを満足させられるか、試す程度なら」


 デーニッツは、殺気立っている。両手剣を構え、今にも旋風斬を繰り出してきそうだ。


「悪いな。狩りの邪魔をしてしまったか?」


 こちらは、武装解除した。ハンターキラーは性に合わない。


「構えを解くでない!」


 ドクロの騎士に告げた。


 俺はバルディッシュをおろしたままにする。なんなんだ。ケンカがしたいならよそへ行け。


「後ろですランバート殿っ!」


 シーデーに言われて、俺は振り返る。


 つがいのコカトリスが、俺を蹴り殺そうとした。

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