亜種撃退

「ふん!」


 紙一重で、俺は前転してキックをかわす。


「くう!」


 コカトリスの爪が、わずかに背中をかすめた。


「なんだこのデカさは?」


 やたら大きい。並のコカトリスより、サイズが一回りほど違う。色も薄気味悪いピンク色だ。


「亜種じゃ! 手強いぞい!」


 騎士が足を上げた。震脚で、亜種コカトリスを封じ込めようとする。


 しかし、動きが止まらない。逆に、亜種の一体が騎士に突進した。同族であるはずの卵を踏み潰して。


「どうして卵を潰してるんだ?」

「亜種は亜種で、自分の巣があるのじゃ」


 通常の種族は、亜種にとって敵だという。


「くそ、やめさせないと……なに!?」


 両足に、力が入らない。


「コカトリスの毒か」


 爪で背中を引っかかれたとき、毒が体内に入ったか。


「ランバート殿! お嬢様!」

「お任せを!」


 俺に向かって、サピィが解毒ポーションを投げつける。

 シーデーがキャッチし、俺の手にポーションを渡す。


「助かる」


 一気に煽ると、力が復活した。


 回復の間、シーデーが威嚇射撃を放つ。


 しかし、コカトリス亜種にまったく止まる気配はない。敵対心と生存本能が、とどまることを知らなかった。


「やばい! サピィは卵を拾いまくってくれ!」

「はいっ!」


 サピィが両腕から、使い魔である同族を呼び出す。


 小型スライムがコカトリスの攻撃をすり抜けながら、器用に卵を回収していく。


 それでも、コカトリス亜種は卵をスライムごと踏み潰そうとする。


「させるか。【コールドアーマー】、おらああ!」


 俺は、バルディッシュを地面に突き刺す。広範囲を氷結させる魔法を、地上に放った。


 コカトリスの一体を、氷のフィールドが捉えた。猛烈なスピードで走るコカトリスの両足が、一瞬で凍りつく。


 走った勢いで、コカトリスの両足が根元から折れた。勢いよく、凍った地面に激突する。両足がちぎれたコカトリスが、氷の地面から逃れようともがく。


 コールドアーマーが、さらにコカトリスの側面へとへばりついた。


 コカトリスが動けなくなったところを、俺は歩み寄る。


 苦し紛れに、亜種は俺へと口を開く。毒ガスを吐く気だ。


「さっきのお返しだ。おらああ!」


 バルディッシュを、コカトリスの首に突き刺す。


 どうにか、コカトリス亜種の一体は倒した。


 だが、別個体はデーニッツと一対一に。

 

 猛毒の爪を以て、コカトリス亜種がエーニッツを蹴り飛ばそうとした。


 デーニッツは直剣の方で受け止め、側面へ流す。


 亜種は反転し、今度は体当りしてきた。


「おほほい! 力比べとな! 面白い!」


 剣を交差させて、デーニッツは亜種と首相撲に。巨体を相手にしているのに、騎士は揺るがない。


 コカトリス亜種の眼が、恐怖で震えだす。

 ノドを固定されている。これでは、ゼロ距離でブレスを履けない。

 攻撃を全部、見透かされていた。



 デーニッツの身体が、反転する。一瞬、コカトリスが首相撲に競り勝ち、打ち上げたのだと思った。違う。デーニッツが力をそらしたのだ。


 亜種コカトリスが、バランスを失ってつんのめる。

 その首を、デーニッツは両手の剣で挟み込む。


「ええ声で鳴けよっ! 斬!」


 コカトリス亜種の首を、騎士がはね飛ばした。


 ドン、と、俺の足元にコカトリスの頭が落ちる。


「次は、俺たちか?」


 骸骨剣士は「フン」と鼻を鳴らした。


「いや。お目当てのアイテムは見つかったわい」


 コカトリスの死骸から、虹色の羽が見つかる。


「これを求めていた。レアアイテムの【猛毒の羽】なり」


 羽こそコカトリスの毒の源であり、中でも虹色の羽は毒性がより強い。一振りしただけで、毒ガスが辺りに充満するとか。


 そんな危険物を、デーニッツは素早くアイテムボックスにしまった。手甲の指部分が、わずかに溶けていた。




「我が名はデーニッツ。南エリア出身のバーバリアンなり」

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