【散骨】のデーニッツ

 剣を収め、騎士が名乗る。


「この剣は【超金属を千人斬りによって修練した暗黒剣】、略して【チョウシュー】。こちらの剣が【ムーンストーンを雷で鍛え抜いた曲刀】という。長いので【ムトー】と呼んでいる」

「ああ、もう説明はいい」


 どうせ、覚えられない……。


「ほほう、レアアイテムに関心を示さぬとは。お主らがウワサの珍妙な宝石を集めるパーティかな?」


 遠方にまで、俺たちの話が知れ渡っているとは。


「で、どうする? 始末するのか?」

「いや、退散しよう。見えたいところだが、時が惜しい。依頼人が待っておるでな」


 デーニッツは、卵を無視して立ち去ろうとする。


「あれ、卵は持っていかないのか?」


 彼もハンターなら、「ギルドから卵を獲ってこい」と依頼が来ているはずだ。


「おうさ。我はこの羽こそ目的なり。ギルドの報酬など比ではない額をいただける」

「……なるほど」


 話を聞いて、俺は相手の正体を察した。


 彼は、非合法の闇ハンターか。ならば、関わらないほうがよさそうだ。名前も聞くんじゃなかった。どうりで、相手は自分だけ名乗って、俺たちに名を尋ねなかったわけだ。


「卵を分けてやろうかの?」

「いいさ。こっちは一つでいい。アルミラージの肉もある」

「さようか。では」


 デーニッツは、俺のもとを通り過ぎる。


「いずれ立場が違えば、お主と相まみえることになるかも知れんのう? そんな気がするわい」


 不気味なほどに低い声で、デーニッツがつぶやく。


「それは、ご勘弁願いたいね」


 非合法のハンターは、正規ハンターと衝突することが多い。とはいえ、俺はこの男に勝てる自信はなかった。エンチャントだけでは勝てないなと、実感させられる。


「ふん。抜かせ小僧。戦いぶりを見せてもらっておったぞ。ウサギ相手に妙ちくりんな技を出しおったな?」


 見ていたのか。あの修羅場の中で。


「また会えるときを、楽しみにしておる」


 鈍色のドクロ騎士が、俺の視界から消えた。


「ご無事ですか、ランバート?」


 入れ替わりで、サピィがこちらに戻ってくる。


「ああ。声をかけられただけだ。そっちは?」

「こんなに」


 サピィは、大量の卵をアイテムボックスに入れていた。ちなみに、ドロップしたアイテムは魔銃だったという。スライムは毒耐性が強いので、羽も大量に持って帰ってきたらしい。

 ちなみに、肉は置いている。どう調理しても、食中毒になるからだ。


「すごいな。これなら依頼者にも、喜んでもらえるだろう」

「帰りましょう」


 ギルドへ依頼品を渡した後、コナツの元へ。


「コカトリスの羽が大量に手に入った。使えないか?」

「おう、任せろ。丈夫なコートを作ってやる」

「頼む。それと、デーニッツというハンターを知らないか?」

「マジかよ。デーニッツと。何があった?」 


 コナツに事情を話すと、「よく生き残ったな」と返された。


「名のしれたハンターなのか?」

「鍛冶屋で、【散骨】のデーニッツを知らないやつはいねえ」

「散骨のデーニッツ?」

「おそらく、この地域で最強のハンターだろうな」


 デーニッツは、闇社会でも凄腕らしい。

 しかも、さっき彼が拾っていたアイテムはいわゆる【レジェンダリ】だとか。つまり、伝説級のレアアイテムだという。


【散骨】の二つ名は、彼の旋回斬りによって、相手が骨ごとバラバラになって風に舞うさまを、葬儀の「散骨」に見立てて名付けられたらしい。


「強さは、クリムとどっこいどっこいさ」


 射撃戦闘ならクリム、近接ならデーニッツだろうと。


 アイテムに頼らない強さを、まざまざと見せつけられた気がした。


「いずれ、デーニッツともやり合うことになるかも、知れねえ。だが、レジェンダリが出ねえお前さんが相手じゃ、逆立ちしても勝てねえだろうな」

「そんなに、闇ハンターと衝突が近いのか?」

「例えばの話だ」


 ハンターを続けていれば、関わることになるだろうとこと。


「なあ、コナツ。俺たちだけで手製のレアを独占していいのか?」

「いいんじゃね? オレはお前にしか卸さねえって決めたぜ」

「いや、威力次第では他のハンターにも売ろう」


 闇ハンターと戦う力は、多いほうがいい。

 

 俺が提案すると、コナツは「へへっ」と笑った。


「マジで欲がねえな。だから、オレはお前と組むんだがな」

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