タウンポータル

 翌朝、俺は軽装に着替えた。武装はすべて、アイテムボックスにしまってある。


「あれ、ランバート? 今日はダンジョンへは行かないので?」


 朝食後、戦闘服に着替えようとしたサピィが俺に聞いてきた。


「起きるのも遅かったです。何かあるんですか? それに」


 サピィが、俺の服装をマジマジと見つめる。


「なんだか、デートにでも行くような格好です」


 実際に、そのとおりかも知れない。


「前回のハントで、コカトリスの卵を採取したろ? その報酬を、もらいに行くんだ。お前たちもどうだ?」

「どちらまで?」

「ペールディネの街だ」


 城塞都市ペールディネは、王国に守られている地域にある。ある程度の文明が残っていて、ここより発展している。


 そこのスイーツ店で、タダ券をもらったのだ。


「アイレーナの対角線上じゃないですか。あんな遠くまで……」

「いや、ハンター用のタウンポータルを使えば一瞬だぞ」

「そうでしたね。ついていってもよろしくて?」


 戸惑いながら、サピィが尋ねてきた。


「お前たちに食べてほしくて、報酬も頼んであるんだ」

「まあ。うれしいです。けれど」


 まだ、なにか不安があるらしい。


「迷惑だと思っているのか?」

「だって、今から女性に会う行くようなファッションをしているんですもの」

「あーっ、たしかに女性といえば女性だな」

「やっぱり!」


 なぜか、サピィがスライムのように頬をふくらませる。


「あのな。ペールディネは卸先ってだけだ。別に変な意味なんてない。というか、男一人で入るには勇気がいる場所でな。少しでも小綺麗にしておきたくて」

「ランバートって、そういうことにも気をつける方なんですね?」

「どういう意味だよっ」


 俺たちが話し合っていると、シーデーが手を上げた。


「お二方でどうぞ。以前から我は、ちと関節部に違和感がございましてな。コナツ殿に見てもらおうかと」

「そうか。残念だが、お前の分も味わう」

「感謝致す。ランバート殿。我が留守の間、お嬢様の護衛を頼みますぞ」

「心得たよ、シーデー」

「ランバート殿、お頼み申す。お嬢様、ごゆっくり」


 シーデーから声をかけられて、サピィは「あうう」とうめく。


「で、ではシーデー、いってきますね」

「いってらっしゃいませ、お嬢様」


 ギルドへ到着し、受付嬢と話す。


「今日もハントですか?」


 受付嬢が、依頼をまとめた掲示板をタブレットで表示しようとする。


「いや、ペールディネに私用だ。ポータルを使わせてくれ」

「かしこまりました」


【タウンポータル】というのは、一種の転送装置だ。

 魔法陣の四隅には、金属製の燭台がある。

 電子制御機器と魔法陣で周囲を囲み、悪い魔物のなどの不浄な存在を通さない。


 とはいえ、魔物が街やギルドに入ったら使用できなくなるが。


 さっきも二人の男女ハンターが、ポータルを用いて別の狩場へ向かった。


「ちょっと待ってください、ランバート」


 サピィが、俺の手を引く。


「私、大丈夫でしょうか?」


 しまった。サピィは魔物だったんだ。


「平気ですよ、サピィさん。ハンター証がありましたら、魔物さんでもご使用できます」


 小声で、受付嬢はサピィに耳打ちした。


 ハンター証は、同時にポータルの使用許可証なのである。

 そのため、一般人が乱用できないような仕組みになっているのだ。


「ご、ご存知だったんですね?」


 受付嬢の目ざとさに、サピィがたじろぐ。


「何年もやっていますとね、その方が魔物さんかどうかくらいわかります」

「あの、この件はご内密に」

「はい、もちろん。混乱を招きますからね」


 知っているのは、ハンターギルドの局長及び一部スタッフのみらしい。もし発覚したとしても、フォローはちゃんと入れると約束してくれた。


「いいスライムさんか、悪いスライムさんかも見分けが付きます」

「そうなんですね。よかった」

「どうなさったんで? スライムさんじゃあるまいし」


 受付嬢は魔物の区別は善悪の判別はできても、相手がどんな魔物かまでは識別できないらしい。


「ただし、お気をつけくださいランバートさん」

「どうした?」

「闇ハンター側に、強力な魔物が紛れ込んだそうです」


 ハンターギルドが魔物に対して許容があるのは、闇側が平然と魔物を受け入れているからだ。

「毒をもって毒を制する」と言うか、ハンター側も魔物を引き入れることにはさほど抵抗がない。


 人類の味方であるかどうかは、ハンターになってから判断すればいい。もし害をなす立場なら、勝手に闇ギルドへと落ちるから。


 これが、ハンターの創意であるそうだ。


「自分は魔物なので、てっきり使えないものだと思っていました。取り越し苦労だったなんて」


 はふ、とサピィがため息をつく。


「使えるってわかっただけ、いいじゃないか」

「ですね。これからはバンバン使います! うまくいけば、ペールディネにお得意さんができるかもですし!」

「その意気だ。行こうか」


 俺はサピィと、魔法陣の中央へ乗る。


「行き先は、ペールディネですね?」

「ああ。頼む」

「かしこまりました」


 受付嬢が、タブレットを操作した。


 金属製の燭台が、青白く光りだす。

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