1-3 レアを作って、殴りに行きます

レアを「作る」

「ちょっくら、頼みたいことがある。サピィちゃんちょっと」


 あるとき、コナツがサピィを尋ねてきた。


「なんでしょう?」

「オレたち以外にも、ジュエルをおろしてもらうことにしてもらえないか?」


 人間側の鍛冶屋も、フィーンド・ジュエルの重要性をわかってもらえたらしい。ジュエル突きアイテムを、作らせてくれと言ってきたのだ。


「なんでも、商人の護衛任務で、初心者ハンターを雇ったそうなんだ。オレたちのエンチャント装備が、役に立ったらしいんだよ」


 これはいいことだ。今はモンスターの数も多い。これで魔物を減らせるなら、安いものだ。


「伺います。立ち会ってくださいますか?」

「引き受けてくれるかい? おう。結構ですとも」


 すぐに私服に着替え、人間の武器屋と交渉する。


「でもいいのですか? ランバートの仕事量も増えてしまいますが?」

「それでハンターたちの安全が買えるんだ。安いもんさ」


 完全確実とまではいかないものの、ハンターの殉職率が下がっているのは事実らしい。

 ランペイジ商会は、ハンターの育成に貢献しているといってもいいだろう。


 サピィは人間族の鍛冶屋と商談をして、卸す金額を決めた。俺の体調なども考慮して、少し高めに値段設定する。それでも、微々たるものだが。


「俺は構わないんだぞ?」

「あまり弱気だと、足元を見られます。強気で行くことにしました」


 信頼できる人物なので、売れ行き次第では卸す金額を考えるとのこと。 


 ノームの道具屋とも話し合う。武器屋と同じ手順を踏んだ。手慣れたものである。


「あちらの武器屋さんと同じ理由ですね? わかりました。お話を伺いましょう」



 俺たちの装備は基本的に、コナツが作ったものだ。


 一方、他のハンターたちは最近、人間側の武器屋で購入している。


 ノームの道具屋は、主に一般層が扱っているそうだ。

 特に女性は「なべつかみ」や「介護用の補助ギミック」に、ジュエル付きアイテムを使用するらしい。女性ハンターだと、サークレットや護符が人気のようだ。ドワーフが作る機能的ながら無骨な兜は、お気に召さないらしい。

 

「面倒をかけるな、コナツ?」

「はあ? 面倒だって? 冗談! オレは好きでやってるんだよ」


 快活に、コナツは笑う。


「だって悔しいだろ? レアが出ないってずっとバカにされて。オレだったらからかってきたヤロウを殴ってるぜ」

「別に、俺はいいんだよ」


 レアが出ないのは事実だ。どれだけ影で笑われようと、その事実は変わらない。


「俺のエンチャントで延命できるなら、それだけで構わない」

「無欲だな?」


 欲がないくらいで、ちょうどいいのだ。


「エンチャントの影響か、ジュエルの使いみちも増えましたからね」

「ん? あのーサピィちゃん、ちょっくら事情を説明してくれねえかい?」


 サピィは、エメラルドの杖でバフォメットと戦った時の様子を語った。


「……なるほど。オレの知らねえ間に、そんな使われ方をしているとはよぉ」


 あぐらをかきながら聞いていたコナツが、パチンと膝を叩く。こころなしか、気合が入っているように思えた。


「決めたぜ。俺はお前だけに特殊な武器を作ってやる」


 なにやら、コナツが物騒なことを言い出す。


「と、いうと?」

「お前さんたちのおかげで、オレサマも創作意欲が湧いてきてたまらねえ。そろそろ第二段階に移行しようかと思っている」


 コナツはえらく上機嫌で、酒も進んでいる。


「どうする気だ?」


 デザートのプリンを食いながら、俺はコナツの言葉に耳を傾けていた。


「レアアイテムが出ないなら、作りゃあいいんだよ!」


 俺は、スプーンを止める。


「可能なのか?」


 コナツはずっと、レアアイテムに相当する装備を作りたがっていたという。


 レアアイテムなどが出回れば、自分たちにできることは修理くらいである。弟子も、その現状に不満を抱いていた。そこで、レアを作る環境があるならやってみたいと、以前から思っていたとか。


「ドワーフってのは、大半がレアアイテムの生みの親だ。オレサマの腕にかかれば、レア相当の武具だって作れるはずだ」

「どうしてまた?」

「オレたちに求められるのは、レアを修理できる腕だ。しかし、新作を求められていねえ。これはな、鍛冶屋からしたら屈辱でしかねえんだ。お前はオレの消えかかっていた夢に日を付けてくれた。それに報いようかと思っている」


 コナツが、太い腕をまくった。


「こんな環境でやれるんだから、ひとつ腕を奮ってみようかってな。クズアイテムを、役に立つアイテムに変えようじゃねえか!」


 どうやら俺は、コナツの錆びついていた心に火を付けてしまったらしい。


「ああ、ちなみに、お前にしか卸さねえから、安心しろ。他社には出回らねえようにするから」


 俺にだけ扱える魔法武器を、コナツは開発してくれるらしい。俺が売り払った場合は、ダウングレードして売るという。


「ダイヤの他に、クレイモアと、赤と黒のジュエルをよこしな。特別な剣を打ってやる」


 想像力を掻き立てられたのか、剣を受け取ったコナツはウキウキ顔で帰っていく。

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