フィーンド・ジュエル早見表

 ギルドへ報告をした後、コナツの元へ。


「どうだコナツ、景気は?」

「バッチリだ。お前の見込んだとおりだったぜ」


 この付近のダンジョンは、かなりレアドロップ確率が少ない。そのため、店売りのエンチャント商品が飛ぶように売れているという。


「いやぁ、商売が順調すぎてな、ウハウハだぜ」


 上機嫌にコナツが笑う。


「いい経験をさせてやれた。ここって初心者ばっかりの街だろ? 装備品も代わり映えのしない品揃えばかりでさ。刺激がほしいと思っていたところだったんだ」


 弟子たちに教育できたことを、コナツはなにより喜んでいる。


 サピィは俺に、ダイヤの開発を頼むという。


 俺はサピィに頼んで、白黒ふたつの対象的なジュエルをコナツに渡した。


「これを見てくれるか?」

「ふーむ。これは、ダイヤだな。こっちはオニキスだ。こりゃあ、サピィちゃんに聞いたほうが早いな」


 二つのジュエルを、サピィに返す。


「おお、飯を食ってけよ」


 店を閉め、夕飯になった。


 毎日のように、コナツの奥さんが手料理を振る舞ってくれる。弟子の食事も用意する必要があるのに、恐縮だ。


 とはいえ、女弟子が子守を担当してくれるから安心なのだという。


「本当に、このバリア系エンチャントなんて、大型魔法さえはじき飛ばせそうだ」


 エンチャント済みのトパーズをつまみながら、コナツはつぶやく。


「一発食らったら、消し飛ぶだろうが」

「それでも、生存できるならまだマシだ。一発もたねえで死んだやつを、これまで多く見てきた」


 しみじみと、コナツは答える。


「見事に、初心者だけをターゲットにした細工だな。これくらいなら、上級ハンターが獲ってきたレアも腐らねえ」


 俺が懸念した問題は、そこだった。


 強いアイテムを作ろうと思うなら、作れる。が、調子に乗ってジュエル付き装備を売りまくると、他のハンターが苦労して取ってきたレアの価値を下げてしまう。


 それでは、洞窟に潜る意味がなくなる。このさじ加減が大変なのだ。


「任せたぞ」

「おうよ。オレサマ渾身の出来を見せてやるってんだ」


 おもむろに、コナツが立ち上がる。


「そうだ。お前に見せたいものがある。フィーンド・シュエルか。あれの特性を、データ化してみたんだ」


 コナツは、壁に貼られた表を俺たちに見せてきた。


 商売上、ジュエルの特性を知る必要がある。で、ジュエルのリスト化してみたのだという。



◆フィーンド・ジュエル 早見表


 武器に装着すると、属性を付与。

 防具だと、軽減。


○赤:【ルビー】 炎の精霊の力が宿る。炎属性

 防具にセット:情熱。腕力アップ

 武器にセット:噴火。クリティカル率がアップ


○青:【サファイア】 氷の精霊の力が宿る。氷属性

 防具:魔素。魔力最大値アップ

 武器:氷結。相手の動きを止める。


○黄色:【トパーズ】 雷の精霊が宿る 雷属性

 防具:反射。攻撃を数%跳ね返す。

 武器:追跡。相手が放つ微量の電気を察知。


○緑:【エメラルド】 風の精霊が宿る。風属性

 防具:疾風。すばやさアップ

 武器:乱気流。周囲の敵も巻き込む。


○紫:【アメジスト】 虎と融合した魔女の力を宿す。少しずつ成長する宝石。

 防具:活性。体力最大値アップ

 武器:補強。物理攻撃力アップ


○ピンク:【パール】 海を守る巫女の力を宿す。状態異常特性

 防具:障壁。状態異常耐性アップ。

 武器:疫病。相手にランダムで状態異常のデバフ

  

●白:【ダイヤ】 聖なる王の力が宿る

 防具:リジェネ。少しずつ体力と魔力回復

 武器:節約。技・魔法コスト大幅減少


●黒金:【オニキス】 果てしない暗黒の力を宿す。

 防具:吸収。倒した敵の体力や魔力を奪う。

 武器:貫通。相手の属性・耐性を無視できる。ただし威力半減。


 


◆フィーンド・ジュエルのグレード

 

 シード:種状 二ミリ以下

 チップ:破片 五ミリ以下

 デルタ:三角:一センチ以下

 スクエア:標準 三センチ以下

 スフィア:球体 五センチ以下

 オーブ:宝珠 一〇センチ以下




 白マルは店に出し、黒マルは出せないらしい。単価が高すぎる上に、俺たちでないと扱えないとのことだ。


 また、俺は【スクエア】までしかお目にかかれていない。オーブなんてとても。


 サピィによると、【オーブ】なんて一生出ないレベルだとか。


「ランバート、今のところ、お前さんから預かっているジュエルはこれだけだ。他にも出てきたら、随時リストに載せていく」


 エールの入ったカップを、リストを貼った壁にコツコツと当てる。


 弟子のためだろうけれど、これだけ作るのも骨だったろう。感謝しかない。


「これを見れば、一発でジュエルの効果を確認できるな。助かる」


 俺はリストを写真にとって端末へデータ化した。


「不思議です。ランバートと旅をし始めた途端、ジュエルの稼ぎがよくなりました」

「そうなのか?」


 いくらサピィが魔物を倒しても、せいぜい【チップ】程度のグレードしか落ちないんだとか。


「こんな大きい塊が出るなんて、まれなんです。大型の敵でも倒さないと」

「お前の親父さんはどうだったんだ?」


 アゴに手を当てて、サピィは考え込む。


「たしか、もっと大きいサイズを落とせたはずです。とはいえ父も私も、倒した魔物は経験値に変わってしまうので」


 ジュエルではなく、経験値の方になってしまうと。


「俺はただ、自分のできることをしているだけだ」


 ジュエルの力は、俺の力ではない。


「ご自身を過小評価しすぎです。私は本当に、ランバートには感謝しているんですよ。こういったことができるのは、あなたのおかげです」


 なんだか、ことばゆかった。


 サピィこそ、俺を買いかぶりすぎなのではないだろうか?

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