バフォメットの眼を潰せ

「サピィ!」


 ゲイザーの目が開く。紫の光線が、サピィに向けられた。


「姫様!」


 シーデーが、二人の間に割って入る。体を包むマントを広げ、光線をはね返した。


 魔法封じを自身が受けるわけにもいかず、ゲイザーの瞳は閉じる。


 そのスキに、シーデーは触手を指マシンガンで切り裂いた。


「シーデーッ!」


 俺は、ゴミアイテムのメイスとロングソードをシーデーに投げつける。


 シーデーは上腕にくくりつけているマガジンに、武器をしまった。あの中で鉄に分解し、マシンガンの弾丸とするのだ。


「どきなさいシーデー。私が仕留めます!」

「姫様!」

「敵はバフォメットだけではありません!」


 武装したスケルトンが、シーデーたちを取り囲んでいた。


「ぬう!」


 指マシンガンで、シーデーがスケルトンどもを相手する。


 サピィは、開きかけているゲイザーの瞳に風魔法を浴びせ続けた。 


「ムダだ! やつに魔法は効かない!」


 ゲイザーのこれが厄介なのだ。半分魔力の塊なので、魔法を用いた攻撃を与えてもダメージは少ない。


「ぎいいい!」


 執拗に目を攻撃されて、バフォメットが腹を抑える。


「何をした?」

「ドライアイになってもらいました。ついでに小石も巻き上げて視界も奪っています」


 たしかに、ただの風を送り込んだだけなら、多少はダメージになるが。


「これで、相手の目は封じました。今です!」

「よっしゃ、おらあ! ディメンション・セイバーッ!」


 衝撃刃を身体にまといながら、バルディッシュで殴りかかる。魔法が通じないといっても、相手の物理攻撃を封じることは可能だ。一方的に殴る。こうでもしないと、反撃で俺が溶けてしまう。命がけのラッシュだ。


「トドメだ!」


 弱点である目をめがけて、俺はバルディッシュを突き刺す。


 バルディッシュは、ゲイザーの目の部分を貫通した。


「よくあの眼に耐えられたな?」

「私は魔王ですから」


 なるほど。支配者レベルの魔物なら、低級魔物に支配されることもないと。


 断末魔を上げながら、バフォメットが地面に倒れ伏す。肉体を崩壊させていきながら、宝箱へと変化していく。


「おお、宝箱だ」

 

 ダンジョンには、各所に宝箱が落ちている。

 武器や装備品など、中身の種類によって箱の大きさも形状も違う。

 誰かが中身を開けたとしても、消滅するわけではない。

 翌日確認すると、また別のものが入っている。

 

「よし。罠はない」


 トラップを確認し、いざオープン。


「両手剣の上位、クレイモアだ」


 オレはステータス表を開く。クレイモアは筋力を上げることでギリギリ装備できた。


「他には、女性用の胸当てだな。これはサピィが持ってくれ」

「ありがとうございます」


 サピィが、白い金属でできた胸当てを装着する。サピィの大きな胸も、しっかりとカバーできていた。


「あとは、金だけか」


 これが俗に言う、

「強キャラを倒したのに、ロクなアイテムを落とさない」

 現象である。


 クリムと組んだときは、こんな状態が多く続いた。早熟のスキルを持つ俺は、レベルアップするからいい。だが、他のメンバーからするとたまったもんではなかっただろう。


「骨折り損ですね」

「だが、ジュエルは結構いいものが落ちた」


 ドロップしたのは、ダイヤモンドだ。【スクエア】くらいはある。


「これはアンタのものだ、サピィ」

「え?」


 俺からダイヤを渡され、サピィがキョトンとした。


「これを、私に?」

「少しくらい、父親を思い出せる品があるといいかなと」


 サピィは、ダイヤモンドの塊を大事そうに両手で持つ。その顔は、やや放心していた。


「すまん、嫌な記憶を呼び起こすものだったか?」

「い、いえ。うれしくて」


 サピィはダイヤの宝珠を、胸に抱きしめる。


「これでマジックアイテムでも作って肌見放さず――」



「いただきまーす。あむう」



 なんと、サピィはダイヤモンドを食べてしまった。



「ええええええええ!?」

「ん? どうなさいましたランバート?」


 口をモゴモゴさせながら、サピィが俺の方を向く。「おいしいおいしい」とまで言ってやがる。


「いやいや食べるのか?」

「食べますよ。体内に取り込んで、経験値に変えるんです。うーん、この濃厚な舌触りさすがダイヤモンドです」


 そうやって、サピィは自身を強化してきたらしい。ジュエル内のエネルギーを取り込んで、力を失った宝石を売っぱらっていたという。それで、宝石も小さくなるんだとか。

 

 いや、アメ玉とか握り飯とかじゃないんだぞ!


「ジュエルはステータス強化に使うと言ったでしょ? 魔族は体内に取り込むのです」


 集めたジュエルが、貯まっていかなかった理由はこれか。サピィが食べてしまっていたんだ。


「なにか、問題でも。ランバート?」

「そうじゃなくて。ダイヤって、親父さんの形見とかでは?」


 サピィの父親は、金剛石ギヤマンという。つまりダイヤモンドだ。もっと父親を懐かしむとか、センチメンタルな気分になるのかと思いこんでいた。


「あー。だとしたら、なおさら食べちゃいますかねえ」


 体内に吸収してしまうことで一心同体になると。

 遺骨を食べるとか、そういうものに近いかも知れない。

 骨もダイヤも、元は「炭素」なわけだし。


 これが、人間とモンスターとの、考え方の違いか。


「面目ない、ランバート殿。サピィ姫の食い意地が張っているせいで、ジュエルが集まらず」

「いいんだよ、シーデー。もっと、マジックアイテムとして取っておくのかと」


 俺が告げると、「ああ」とサピィが指を立てる。


「その発想はありませんでした。言われてみれば、そうですね」


 サピィは、口からダイヤを吐き出す。完全には消化しきらなかったらしい。ダイヤをハンカチで拭いて、ピカピカに磨く。


「汚くはないですよ? 落涙公の体内は、常に清潔なので」

「それはわかる。で、ダイヤはどうするんだ?」

「おまかせします。少し小さくなっていますが、必要な養分は残していますので」

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