殴りウィザード、バンダースナッチを捕捉する

 今日は、反対方向にあるダンジョンを攻める。鉄骨がむき出しになった廃墟だ。古の居住区である。かつて、ここを商業エリアとして開放しようという運動もあったらしい。が、魔物が自然発生する場所だったために断念した。


「やはり、モンスターの数が増えているな! おらおらおらあ!」


 ゾンビやウルフを、氷のバルディッシュでひらすら殴る。


「えいっ」


 イッカクウサギが、サピィがかざしたシールドの力で切り刻まれた。サピィが使用しているのは、ラウンドシールドに緑の魔法石をはめ込んだものだ。風の魔法石を仕込み、風の刃を放つことができる。ハンドミキサーのような武器へと早変わり。武装も杖から、簡素な王笏へと変えている。


 相棒シーデーの武装も、様変わりした。ボロいマントから黄色い石を埋め込んだマントに買い替えている。トパーズ石の作用で、少しの魔法攻撃など跳ね返す。


「店売りでこの威力とは。ランバート殿の魔力は底が知れませぬな」

「お世辞はいい。俺は、できることをしているだけだ」

「謙虚ですな」


 指マシンガンで、シーデーはリザードを穴だらけにした。


「この街一帯のハンターを壊滅させるとか、物騒な話をしていた、なっ!」


 ダンジョンに巣食う大サソリを倒しながら、俺はサピィと会話する。


「他のダンジョンにも、調査の手を伸ばしています」


 火球でスケルトンを焼きながら、サピィも受け答えした。


 このエリアの中でも、難関ダンジョンが近場にあるこの付近は、特に変貌ぶりが凄まじい。今まで出会ったことのない魔物が生息している。


 ハンターギルドにも、この周辺の変わりようについて尋ねてみた。が、特に真新しい情報はない。ただ、黒ネコ武道家が落とした不気味な岩は、特殊な瘴気を放って魔物をおびき寄せることがわかった。


「俺たちで攻略しよう。ちょうど武装の試し打ちができるから、な!」


 バルディッシュで、大イモムシの頭を叩き潰す。


 このように、様々な初級ダンジョンを巡って、サピィの力を取り戻す状態が続いている。ちなみに、サピィと初めて潜ったダンジョンは、出現モンスターがもとに戻っているらしい。魔物のランクも、出現頻度も。


 しかし、今潜っているダンジョンは違った。今までの一〇倍、いや三〇倍は雑魚モンスターで溢れている。


「悪魔系が多いな」

「はい。インプが大量に湧くなんて」


 インプは、人間の子どもくらい小さい悪魔である。いたずらでは済まされない凶悪なトラップをしかけてくるのだ。どれだけのハンターが、インプを舐めきって命を落としたか。


「インプがモンスターに取り憑いて、増殖しているみたいです」

「なるほど。あの巨大な魔石はインプ共の卵か!」


 ようやく、謎を解明できそうだ。


「フロアボスですよ、ランバート!」


 やはり、ボスがヘルハウンドからバンダースナッチに変わっている。素早い動きで獲物を捕まえて、巣へ引きずり込んで食らう。並の獣より、凶暴なモンスターだ。


 俺が支持を出し、シーデーがショットガン式に切り替えた。


「任せろ。おらあ!」


 バンダースナッチの高速移動も、地面を氷結してしまえば。

 案の定、バンダースナッチは飛んだ。


「今だ、シーデーッ!」

「承知!」


 シーデーが、ショットガンを魔物に向けて打ち込む。



 飛び上がっている魔物など、射撃の名手であるフォートにとってはただの的だ。穴だらけになって、バンダースナッチの亡骸が地面へ落ちる。モンスターは、【デルタ】サイズの黒い宝石を落とした。


「これは、【オニキス】ですね」


 サピィが、オニキスを拾う。


 旧居住区ダンジョンは、二層だけだ。地上と地下しかない。

 それでも、初心者用ダンジョンより遥かに危険である。ムダに広く、魔物に囲まれやすい。逃げるにしても、隠れる場所がないのだ。


「この調子で、ダンジョンボスも狩るぞ」


 ここのダンジョンを管理する魔物は、ゲイザーという目玉の化け物だ。少なくとも、そのはずだった。


「ランバート、またあの岩です」


 ダンジョンの深部に、岩が埋められている。最初のダンジョンと同じ大きさだ。


「なんだこいつは?」


 ゲイザーとは似ても似つかないヤギの魔物が、そこにいる。

 鼻息を荒くしたヤギ男が、こちらに照準を合わせた。


「【バフォメット】ですね。ゲイザーにインプが取り憑いて、形を変えてしまっています!」


 そこそこ強い魔族じゃないか。大量に湧いたインプが、魔物に力を与えてしまったようだ。


 腹の中央にある。ゲイザーの目が開く。紫の明かりが、ゲイザーの瞳から溢れ出した。


「ヤツの光線に近づくな! 魔法を封じられてしまうぞ!」


 交戦を避けながら、反撃の機会を伺う。


「そうはいきません!」


 身を挺して、サピィが盾を展開した。緑の宝珠に魔力を注ぎ込み、風を巻き起こす。


「ゲイザーは女が好物だと聞きます。私がオトリになりましょう」 


 いくらゲイザーが女好きとはいえ、近すぎだ! 下手に刺激したら、サピィがあられもない姿にされてしまう!


 サピィと魔物との距離が、限りなくゼロへと近づいていった。


 バフォメットの背中から、大量の触手が伸びてくる。


「ひゃあ!」


 触手が、サピィの身体を縛り付けた。

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