雷斬《らいきり》

「くらうがいい、このバケモノめ!」


 若いウィザードの足元に、魔法陣が広がった。


 上空が薄暗くなる。ウィザードが、雷雲を呼び寄せているのだ。


「いくぜ。【コンセントレイト】からのぉ【ライトニング】だ」


 その間、電流が彼の身体を包む。雷撃使いのスキルで、一切の攻撃を受け付けない。


「充電してるのか?」と、トウコが疑問を抱く。


「ああ。【精神集中コンセントレイト】で魔力を増幅している。それに、ヤツの腕を見てみろ。【サイバーウェア】だ」


 よく見ると、エルフ少年の腕には機械のパーツが埋め込まれていた。

 両腕を改造して、魔法の威力を倍増しているのだろう。

 詠唱が早い理由もアレか。


「【ライトニング】を撃つ気だな、あのウィザード」


 敵の頭上に、雷を相手に落とす技だ。

 スキルレベルが高いほど、威力が増す。


 さらに、デーニッツを包むのは金属製のヨロイだ。

 雷魔法の威力は倍増するだろう。


 機械の腕は、ライトニングの威力を増幅しているようだ。


 詠唱を妨害しようと、インプやレッサーデーモンが集まってくる。


 だが、全員が余剰の雷エネルギーに貫かれた。


「ふむ、ライトニングか」


 空を見上げながら、デーニッツは余裕の色を見せる。


「ええぞ若き魔道士よ。己の全力を込めたライトニング、我に通用するかな?」

「負け惜しみを! 灰燼と化せ!」


 機械の腕を持つウィザードが、術を放つ。



「フン。【雷斬らいきり!】」



 そのタイミングに合わせて、デーニッツは逆手に持った【ムトー】を振り下ろした。




 雷が落ちたのは、術士の方だった。



 正確には、デーニッツに雷が落ちたのだが、真横に軌道を変えたのだ。


「ば、バカな」


 炭化した術士は、足元からボロボロになって崩れ落ちる。

 残ったのは、機械の腕だけ。 


「み、見えなかった。あいつ、何をしたんだ?」


 デーニッツに落ちた雷が、一瞬だけ真横に飛んでいった気がしたが。


「カウンターだ!」


 武道家であるトウコが、デーニッツの技を見破る。


「ジャストガードで、敵の攻撃をはね返したんだよ!」


 そんな神業を、あの巨体と巨大剣でこなしたというのか。


「ば、バケモンだ!」「逃げろ!」


 戦意を喪失したハンターたちが、逃げ惑う。


「待て! 戦わないなら住民の避難を優先しろ!」

「そうは言うが、絶対襲ってくるじゃんアイツは!」


 ダメだ。すっかり怯えきってしまっている。


「ちくしょう死ね死ね死ね!」


 トチ狂ったレンジャーが、爆弾を大量にデーニッツへとバラ撒いた。


「やめろ! そんなことをしたらこのあたりの店が!」


 俺とトウコで、爆弾を破壊する。


 処理が追いつかなかった爆弾が、連鎖的に大爆発を起こす。逃げたレンジャーさえ巻き添えにして。


 棒立ちのまま、デーニッツは微動だにしない。爆発がダメージになっていないのだ。


 一発の爆弾が、喫茶店に転がっていく。あれは、グレースの店だ! しかも、全員が避難中じゃないか!


「しまった!」


 俺が気づいたときには遅く、爆弾は破裂してしまった。


「おばさん、グレース!」

「無事よ!」


 幸い玄関ではなかったため、グレースたちは爆発に巻き込まれていない。


「でもサピィさんが!」

「サピィ!?」


 おそらく、サピィがスライム状態となって爆風から守ってくれたのだろう。

 しかし、ヒドイケガをしていた。

 サピィが倒れ込む。


「お嬢が店をかばったとき、ジェンマが魔力の弾を撃ったのです。それをまともに浴びて」


 レンジャーの火力と、ジェンマの魔法を同時に受けたのか。


 ガレキとなった看板が、三人に落ちてきてしまう。


「今助ける!」


 俺は、ディメンション・セイバーを撃った。



 しかし、看板の落下は早かった。


 間に合わない!


「きゃああああ!」


 グレースが悲鳴を上げた。


 店主がかがんで、グレースとおばさんをかばう。サピィまで。



 一陣の光が、ガレキを両断する。



 俺の眼前で、看板が真っ二つに。



 落下した看板を斬り捨てたのは、意外にもデーニッツだった。

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