デーニッツとの一騎打ち

「ありがとう」


 デーニッツは、グレースの感謝に首を振る。


「礼はよい。早う去れ。興が醒める」

「でも、サピィさんが」


 グレースたち家族は、サピィも助けようとした。しかし、みんな手がふさがっている。


「お嬢は我が引き受けましょう。安全な場所までご案内します」


 シーデーがサピィを抱き上げた。


「あたしも行くぞ!」


 トウコが、ジェンマを警戒する。


「ランバート殿、しばしお一人でこやつのご対処を願いたい」

「助かる」


 俺の言葉を待たず、シーデーはグレースたちを連れて避難の手助けした。


「スマン、ランバート。あいつの動きが見えなかった」

「いいんだ。トウコ。サピィたちについていてやってくれ」


 シーデーとトウコを見送った後、俺はデーニッツと向き合う。


 しかし、なぜかデーニッツはグレースたちに視線を向けているように見えた。


「血迷ったかデーニッツ! 人間ごときを助けるなど!」


 デーニッツの行いが気に食わないのか、ジェンマは彼を罵倒する。


「黙れ、魔族の女ッ! コヤツは我が止める。貴様は使命をまっとうすれば良し!」

「……チッ!」


 ジェンマは、ブティックへ消えた。あそこに、何があるのか。


「させるか!」


 俺は、ブティックへ向かおうとする。


 しかし、デーニッツがブティックの前に立ちふさがった。


「礼は、言わんぞ」


 一連の行動からして、やはりデーニッツは敵である。


「構わぬ。今の我が望みは、貴公との勝負!」


 二つの剣を構え、デーニッツが臨戦態勢に入った。


「おらあ!」


 まずは小手調べ!

 イクリプスで、ディメンション・セイバーを撃つ。


 だが、一瞬でセイバーが跳ね返ってきた。


「なあ!?」


 驚きつつも、どうにかイクリプスでさばく。セイバーをそらすことに成功した。


 衝撃波が、城下町を囲む壁を切り裂く。


「く、イクリプスが……」


 黒いフランベルジュに、ヒビが入っている。

 これでは、もう扱えない。


「ディメンション・セイバーさえ、打ち返してきただと!?」

「ヌハハハ! ええのうええ腕じゃのう小僧! ちと、腕が痺れたぞ!」


 渾身のディメンション・セイバーを、カウンターしてきやがった。


「普通は、不可能だ。反射能力のあるトパーズでもない限り」



「特別、大したことはしておらぬ。これは【サムライ】のスキルで、【雷斬らいきり】というてな。本来は、魔法使いの雷魔法を打ち返すのに使う。その応用として用いたまで」



 駿足の雷すら、たやすく打ち返す技か。厄介だ。


「これも、レア武器の【ムトー】、通称【オウム返し】のおかげだがのう」


 オウム返し、か。そういえば、「カウンターに特化したレア」について、聞いたことがある。


「さすがに、殺人的な剣のスピードには、我もレアに頼らざるを得ぬ。そこまで、お主は強くなったというわけよ。修羅場をくぐり抜けてきたと見た! ようやく、我が好敵手として成長したと!」


 興奮しながら、デーニッツは空を見上げて笑う。


「お褒めに預かり光栄だ。しかし、手を抜いてやるわけにはいか……ぬうう!?」


 デーニッツの声が、震えた。


「な、なんと! ムトーが死んでおる!?」


 二振りの剣のうち、曲刀がボロボロにサビている。


「たしかヤツらは、【禍宝オミナス】を殺すスキルがあると話しておった。お主が……」


 仮面で覆った顔を、デーニッツは俺に向けてきた。


「これでは、使い物にならぬ! だが、それもよし! ハンデとしては、ちょうどええ!」


 曲刀ムトーを、デーニッツは捨てた。

 曲刀は床に落ちた瞬間、ボロボロに崩れ落ちる。


「雷斬はなにも、レアアイテム頼りではなし!」


 道に転がっている戦士の死体から、デーニッツはロングソードを奪う。


「だったら、やってみろ! オラア!」


 今度は、ソード・レイのセイバーを試す。一振りで異なる属性のディメンションセイバーを放った。


「ほほう。だが……雷斬!」


 四方から迫りくるセイバーでさえ、デーニッツは見切る。


 絶妙なタイミングで打ち返してきた。

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