最後の賭け

「なにいいいい!?」


 セイバーの集中砲火を、俺は魔法障壁を作って防ぐ。


 それでも、わかったことはある。完璧に打ち返すわけではないようだ。相手の力量に左右される。セイバーの威力も落ちていた。


「ちいい!」


 デーニッツの武器が、破壊されている。それどころではない。ロングソードを持つ腕からも血が吹き出していた。


「ぐふふ。我をここまで追い詰めるとは! あの小娘が恐れるわけよ! このデーニッツにさえ助力を求めるほどに!」

「ならばお前の狙いは」

「そうよ! 秘宝殺しを持つ者の命を奪うこと! それがわが依頼!」


 ハンターの一人が【秘宝殺し】として覚醒したことは、ジェンマも知っていたらしい。

 レアが高値で取引される街で暴れれば、必ず秘宝殺し使いのハンターが姿を表すだろうと考えた。

 もし現れないか味方になったら、引き込めばいいとさえ計画していたという。


「だったら、もう勝負はついた。退け!」


 あの腕では、武器を振るえまい。


「退け、とな? グハハハハ! 面白い。たかが腕一本を痛めつけた程度で、我に敗北を認めろとな?」


 腕が壊れても、まだ【チョウシュー】が残っている。

 デーニッツは、まだ余裕を見せた。


「潰れている方の腕で、武器を担いだ!?」

「ゆくぞ若造! 我が豪剣、見事耐えきってみせよ!」


 巨大な撤回を担いでいるとは思えないほどの速度で、デーニッツが斬りかかってくる。


 俺には、秘宝殺しレア・ブレイクというスキルがある。

 チョウシューがレアアイテムである以上、たやすく破壊できるのだ。


 しかし、当てられるのか?


 なにか、打つ手は。この狂人を斬り伏せる秘策は……あった。


「己のスキルもろくにコントロールできずに、死ぬがよい!」


 こちらの考える余裕すら与えず、デーニッツは唐竹割りの構えへ。


 だが、俺はこの一瞬を待っていた!


「【秘宝殺し レア・ブレイク】 発動」


 インファイトはコナツから禁止されていたが、構うものか。


「ぬお!?」


 デーニッツが、驚愕の表情を見せる。


 鉄の塊と形容したほうがいい大剣を、魔力の刃で弾いてみせたのだから。

 俺の腕も、両方持っていかれたが。


「くそ、ヒールでも追いつかないか」


 剣圧の衝撃で折れた腕にヒールをかけるが、骨が繋がりきらない。やはり、急ごしらえの作戦では身が持たなかったか。


 レアアイテム独特の瘴気を放っていたチョウシューは、いまや単なる鉄塊と成り果てた。

 武器としての性能を失うどころか、みるみるうちに鉄さびが広がっていく。やがて、潮にでもやられたかのように折れた。


「なんと、【雷斬】とな!? お主……」


 武器を失ったデーニッツが、空になった手を震わせる。


「そうだ。俺はたった今、【サムライ】になったんだ!」


 俺のような魔法使い系のクラスは本来、魔力系の職業ばかりにポイントを振るべきだ。

 下手に物理攻撃が得意なクラスへ技量を振ると、中途半端になる。


 しかし、【サムライ】は別だ。魔法さえ物理攻撃手段に変えられる。


 どうして、そんな先のことまでわかるのか?

 それは、前例を知っているから。

 俺の父も「魔術師を経由したサムライ」だからだ。

 迷わず、俺はサムライにジョブチェンジしたのである。


 問題は、いつポイントを振るかのタイミングだけだった。


「グフフフ。見事なり。魔術師である誇りを捨てて、この我を打倒するジョブを選ぶとは」


 デーニッツが、あぐらをかく。

 残されていた腕も、チョウシュー共々吹き飛んでいた。


「さあ、勝者よ! 我を介錯せよ! ようやっと、強きものと渡り合えた! もはや悔いなし!」


 俺は、そんなデーニッツを横切る。


「悪いが、先を急ぐ」


 今は、サピィたちに加勢することが優先だ。


「なんと!? 我を人として活かす気とな?」

「お前の命になど興味がない。それに」


 首をもたげているデーニッツに、俺は視線を送る。


「お前はまだ、グレースたち夫婦になにか隠し事をしている」

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