戦う受付嬢

 約束通り、コナツの店へと戻ってきた。


「まずはシーデーと、対面だ」


 今のシーデーは、全身をフルプレートの装甲で覆っている。重さが増えた分、ジュエル付きのアーマーで防御力は格段に上がった。


「見違えたな」

「もうマントだけでは、心もとないと思いまして。これでお嬢を守る手段が盤石になってきましたぞ」


 各所のジュエルは、状況に応じて性能を変化させるという。


「次だ。そのブレスレットに、追加装備をつけるぜ」


 語ってからコナツが見せたのは、小型のラウンドシールドだ。その割にはえらく小さい。顔くらいの面積しかなかった。


「これは、相手の攻撃を防ぐのに技術が必要だな?」

「違う違う。こうやるんだよ」


 まず、コナツ自らがシールドを手首にはめる。


「マジックシールド!」


 コナツが声を上げると、ラウンドシールドが分離した。

 中には、大量のジュエルがびっしり埋め込まれている。

 なんと、あれだけ小さかった盾を覆うかのように、広範囲の魔法陣が展開した。


「ほほう。これは魔法をガードするシールドなんだな?」

「ああ。これなら、大剣や槍のような両手持ちでも、邪魔にならないだろ?」


 たしかに、サピィの装備がまさにその状態だ。

 片手持ちのワンドに、ジュエルで強化した盾で武装している。


「ほほう。サファイアをビッシリはめ込んでおりますな」


 シーデーの言う通り、盾には魔力最大値が上がるサファイアが大量に埋め込まれていた。魔力でシールドを維持するのか。


「物理防御はあきらめてもらうが、魔法攻撃にはたしかな効果がある。大事に使え」

「わかった。ありがたく使わせてもらう」

「まだある。物理はこっちで補え」 


 コナツが、新しいバトルスーツを用意した。


「こいつは【魔術師のヨロイ】っていってな、オレが開発した。お前の筋力ギリギリでも着られるアーマーだ。作っておいてよかったぜ」


 ベルトの部分にソケットがあり、【スクエア】のひとつ下ランク【デルタ】のジュエルで補強してある。体力増加のアメジストと反射効果のあるトパーズ、マナ上昇のサファイアの三つが埋まっていた。



 最後に武器をもらう。


 ようやく、黒いフランベルジュが俺の手に渡った。


「ほら、【イクリプス】の完成品だ。受け取れ」


 確認すると、ソードの柄にあるソケットに一つだけ空きがある。


「まだ、できあがってないぞ?」


 コナツがそんなミスをするとは思えんが。


「それなんだがよ」



 最後に、コナツは工具をくれた。



「この工具は?」


 コナツがくれた工具は、なにかピンセットのようなものである。


「イクリプスに、わざと穴を一つ分だけ開けてある。もし魔力が心もとなくなったら、ジュエルにダイヤを入れればいい」


 工具の力で、俺でもソケットにジュエルを仕込めるようになるという。定着させるには、コナツの力が必要だが。


 コナツの自信作だという魔法の銃は、シーデーに持たせた。


「助かる。世話になった」

「じゃあな相棒。マジで死ぬなよ!」


 最後に、ギルドへ報告向かう。

 セグメント・セブンまでは、ギルドの馬車が案内してくれる。急を要するからだとか。


 馬車と言っても、装甲車だ。電動の馬で引く。


「確かに、依頼を受諾しました。ではこのキンバリーめが、責任を持ってご案内致します」

「あんたが?」


 キンバリーと名乗る受付嬢自らが、案内役を引き受けると言ってくれた。


「これは、不甲斐ないギルドの責任です。これくらいはやらないと」


 電動の馬にまたがって、キンバリーはバックで馬車の荷台と連結する。

 

「わかりました。勇敢なお嬢さん。我が護衛に回りましょう」

 

 何も言わず、シーデーがもう一頭の馬を駆った。

 電動馬が、シーデーを主と認めたらしく、おとなしくなる。

 片方の馬に乗るはずだった御者は、荷台の手綱を持つ席へ。


「ありがとうございます。では出発しましょう!」


 キンバリーの合図で、電動馬車が発進した。


 俺とサピィは、機銃を撃つ席に座る。

 この馬車は軍隊仕様で、各所に機銃が付いているのだ。


 ゴブリンが、馬車に向かってくる。

 キンバリーを守るように、シーデーが指マシンガンでゴブリンの集団を撃ち抜いた。


「コナツさんがあんなにも怒って、あなたを止めようとするなんて」


 魔物を機銃で撃ちながら、サピィが聞いてくる。


「それだけ、危険なダンジョンなんだ」


 クリムでさえ、あそこに潜ろうとは思わなかった。


「気を引き締めてかからなければ、なりませんな」

「ああ。いつもの魔物とは、勝手が違うからな」


 旧市街地の外れ、いわゆる『非常口』と書かれている場所が、ダンジョンの入口である。

 地下鉄の出入り口として使われていたらしく、「七番」と入り口の門に書かれていた。

 これが、「セグメント・セブン」の由来である。


「到着しました」


 セグメントの入り口で、俺たちは馬車から降りた。


「おいでなすったぜ!」


 ウェンディゴやウルフなど、大量の魔物がセグメントへの道を塞ぐ。


「ランバートさん、ここは私が」


 キンバリーが、タイトなミニスカートの脚を上げる。太ももにくくりつけたホルスターが、顔を覗かせた。キンバリーがホルスターから、光線銃を出す。

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