殴りウィザードの父
「魔道士ではなくて?」
「ああ。一流の剣術家でな。武器を持たせたら天下一だった。【報復刀 ウェイジス・エッジ】を持つまでは」
「ウェイジス・エッジですって!?」
おぞましい言葉を聞くかのように、サピィが耳を塞ぐ。
「知っているのか、サピィ?」
「魔物の間で、その名を知らない者はいません。どれだけ魔物の血を吸ってきたか。しかも、別名『探検家殺し』とも」
闇を固めたかのような黒い刀身、怨念を形にしたかのごとく禍々しい柄を持つ妖刀だ。魂さえ切り裂くのではと、ウワサされていた。
「そのウェイジス・エッジという刀によって、父は狂気に走った」
父は不運にも、刀をドロップしてしまったのだ。
「でも、ウェイジスって『伝説級』と言われるほどの、レア中のレアですよね?」
「拾ってしまったんだ。不覚にも」
最初は父も、捨てるつもりで刀を手にとった。しかし、魂を奪われることに。呪われた刀に取り憑かれて、パーティを皆殺しにしてしまった。
「で、おやっさんも調査団の手で……」
それ以来、俺はレアアイテムを信用できないでいる。
「コイツの物欲センサーは、過去のトラウマが生んだんじゃねえかってウワサが広まっている」
だがよ、とコナツは続けた。
「オレは信じねえ。コイツは悪運だけは強いんだ。強いアイテムなんかなくたって生き延びてきた。だからよ、オレはコイツにふさわしい武器を作りてえ。冒険に向いていなかったオレを救ってくれた恩を、今こそ返す!」
興奮し、コナツが立ち上がる。
「待ってろよ、ランバート。お前をバカにするヤツラに、目にもの見せてやろうぜ!」
「よせコナツ。俺はそんなこと望んでない。バカにするやつは、どんなことがあったってバカにしてくる」
「マジで欲も執念もねえんだな! オレはお前がこきおろされて、ハラワタ煮えくり返ってるぜ!」
ジョッキをテーブルに叩きつけ、コナツはさらに飲もうとした。
「気持ちだけで十分だ。今日はお前、疲れてるんだよ。休んでこい」
奥さんがエールを注ごうとしたのを、俺は止める。
「そうさせてもらうか。んじゃ、横になるぜ」
「ここで寝ようとするな。ベッドに行け」
千鳥足になったコナツに、俺は肩を貸す。そのままベッドに寝かせた。
「ランバート、あの……」
サピィは何か言おうとしている。しかし、コナツの豪快なイビキで阻まれた。
「気にするな。俺も、考えない。気にしてくれて、ありがとう」
「はい。おやすみなさい」
サピィは自分の寝室へ消える。
それから、一日が過ぎた。
ようやくコナツから、武具類が完成したと報告が入る。
「ざっとこんなもんだ。あと、試作品を見てくれ」
「まず、コカトリスの素材でコートを作ってみた」
常にマントだったので、コートを着る機会はなかった。
「おお、ヨロイの邪魔をしないデザインだな?」
「どっちかっていうと、アーマーをコートに合わせているんだ。術士はたいてい、コートかローブを着るから」
ドワーフ製にしては珍しく、コナツの作るアーマーはシャープながら頑丈なデザインだ。俺との付き合いが長いからかも知れない。
「ジュエルは、パールが全開だな」
状態異常に耐性のあるパールが、肩部分に敷き詰められている。
「おう。毒耐性で固くしておいた」
また、イッカクウサギの角で男性用のサークレットを作ったという。
マナの最大値が上昇するサファイアは、これに用いた。
目の部分を覆うクリスタルは、センサーだという。敵の位置と、だいたいの強さがわかるらしい。
「最後は、武器だ」
コナツが持ってきたのは、黒いフランベルジュである。
「これは【イクリプス】だ。オレが開発した。【ディメンション・セイバー】が黒くなるぜ」
波打った刀身は、やけに軽い。重量を軽くするため、刃を削ってあった。俺が扱えるように、ムダを削ぎ落としたのだろう。素人目に見ても、いい剣である。
「まだ重いな」
「よし。調節しておく」
「感謝するぞ、コナツ」
「それは、この指輪を見てから言えっての」
コナツが、ダイヤの指輪を俺に渡す。
「ほら、サピィちゃんに渡すんだろ?」
「そうだ。サピィ。お前にはこれを」
俺が渡したのは、ダイヤのエンチャント指輪だ。
「ご自身で装備なさるのでは?」
「違う。お前の装備品として、受け取れ」
指輪を差し出すと、サピィがうっとりした顔で受け取る。
「ありがとうございます。キレイ……」
ごく自然に「左手の薬指」にはめたので、俺は心臓が止まりそうになった。
「あああのな、言っとくけどな、作ったのはオレなのよ! こいつのエンチャントもあるけどさ、作ったのはあくまでオレなんでよろしく」
俺を押しのけて、コナツが自己主張を始める。
「感謝します、コナツさん」
なにをトチ狂ったのか、美人のサピィに自己アピールをした。
「お前には嫁がいるだろうが! 色目使ってんじゃねえよ!」
「仲人がいるだろうが! 今のうちに友人代表としてだな」
「どんなアピールだよテメエ!」
俺たちのやりとりを見て、またサピィが笑う。
だが、魔族の手は着々とこの地に伸びていた。
腕利きのハンターが、次々を失踪し始めたのである。
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