1-4 ダンジョンの闇を、殴りにいきます
ハンター失踪事件
ギルドの様子がおかしくなったのは、俺たちが新装備でハントしていた数日後のことである。
「ごきげんよう。この間は悪かったわ」
ギルドに顔を出すと、ハンターの一人が語りかけてきた。白いワーキャットのシーフだ。いつもは勝ち気な印象を与える女だが、今日はやけに顔が沈んでいる。
「気にするな。俺がお前だったら、同じ行動を取る」
「本当に悪かったわ。街を救ってくれたのに。あなたのアイテムにも、世話になっているし」
トパーズ付きのナイフとエメラルド付きのニーソックスを、ワーキャットは俺に見せた。
今度、宝箱を開ける用のカギなどのアイテムにエンチャントというのもいいかもしれない。電流で宝箱のワナを解除するとか。
「そりゃあどうも」
「あなたを見込んで、依頼をしたいの。少し話を聞いてくれないかしら?」
どのハンターたちも、様子がおかしい。いつもの彼らなら、軽口の一つも叩くはずなのに。
「どうかしたのか?」
「アタイの仲間が、ダンジョンから帰ってこないのよ」
そのハンターいわく、いつも潜るダンジョンの様相が、いつもと違っていたらしい。フロアボスを倒すと、奥へ進む通路を発見したという。
その向こうにはきっとお宝が眠っているはずだと、仲間たちが息巻いたそうな。
「アタイはよせといったのよ。前もってギルドに報告すべきだって」
なので、この女性ハンターだけが調査依頼を出すために、ハンターギルドへ戻ってきた。しかし、誰も帰ってこないという。
「どのダンジョンだ?」
「セグメント・セブンよ」
【
セグメント・セブンはそのダンジョンの一つで、旧市街地の外れに位置している。
各セグメントは異界と繋がっているらしく、魔物たちもセグメントをたどって出現しているというウワサだ。
しかし、長年の調査でも全貌が掴めなかった。それだけ広大なダンジョンなのである。
「危険な場所なんですね?」
サピィからの問いかけに、俺はうなずいて答えた。
「ああ。今の俺のレベルでギリギリ入れるダンジョンだ。詳しい構造は、俺でもわからん」
ギルドでさえ、調査には消極的である。リスクを冒さなくても、収益に影響がないからだ。
「いつから、行方がわからなくなった?」
「三日前からよ」
そんなに経っていては、生還は絶望的だ。それでも依頼してくるとは、相手もパーティが生きていないと覚悟してのことか。
「ギルドに報告は?」
「さっき、本格的な調査を頼んだところよ」
ギルドに仲間の探索を頼んだのは、彼女だけではない。数名のパーティが、仲間の失踪を経験している。
「その調査団も、帰ってこないのよ」
調査団に同行したハンターたちも、行方知れずだという。
だとしたら、一大事だ。
「ダンジョンは、どうなっていた? 以前と比較して、変わった様子はなかったか?」
「クモの巣が大量にあったわ。奥へ行けば行くほど、巣の密度が濃かったのを覚えているわ」
それだけでは、変化と言えるかわからない。クモの巣なんて、ほったらかしになった場所では大量に湧くし。
「危険なのはわかっているわ。けれど、もうあなたしか頼れる人が。疫病神だなんて言わない。仲間を助けて」
「わかった。とにかく向かってみる」
「アタイも行くわ。道案内くらいはできるから」
ついてこようとしたワーキャットの肩を、俺は押さえた。
「いや。お前はここにいろ。地図だけをくれ。目星をつけてくれたら、すぐに把握できる」
「けど!」
興奮するワーキャットのシーフを、俺は落ち着かせる。
「いいか。これはお前だけの話じゃない。ギルドが総出でかからなければならない問題だ。ギルドのパーティ全員の案内役なんてできないだろ?」
シーフは、ダンジョンのワナ解除や調査・斥候が主な仕事である。その代わり、戦闘力は皆無に等しい。激しい戦闘で生き残れないだろう。
「お前を逃した、リーダーの気持ちも考えろ」
シーフが戦場に立てば、情報を抱えたまま死なれる可能性もある。彼女のいたパーティも、そういう理由でこのワーキャットだけを逃したんだ。
「それも、そうね……」
ようやく、ワーキャットは座った。
「前金を払っておくわ。依頼料の半分よ」
相当な金額を、ワーキャットは提示してくる。相手も命をかけているのだろう。
「もし本当にムリだと判断したら、生死確認だけでもいいわ。お願いするわね」
「承知した」
旅立つ前に、コナツの鍛冶屋に寄った。
「よう! さっきよ。お前のお古が高く売れたぜ! 炎のブロードソードと、氷のバルディッシュを、ベテランの戦士が高値で買っていった! ようやく、お前をバカにしてきた連中の鼻をあかすことができたな! それに見てくれよ、こいつを!」
話すタイミングを俺に与えず、コナツはまくしたてる。
武器が高位のハンターに売れたのがうれしかったようだ。
続いて、俺がゲイザーからドロップした銃を見せる。
「オレの自信作だ。なんと引き金を引くと火柱が――」
「セグメントセブンに行く。アイテムを見繕ってもらいたい」
「……待て、お前なんて言った?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます