2-2 人さらいを、殴りに行きます

奮闘、フェリシア

 フェリシアに連れられて、ギルドへ入る。


「これはこれはフェエリシアさん。ご依頼ですか?」


 男性のエルフが、にこやかにフェリシアを迎えた。


「いいえ。私は依頼を受けに来ました」


 受付のエルフは、微妙な表情をする。


「ハントの方ですか。承知しました。では、こちらなどは」


 受付が、タブレットで依頼書を見せてきた。

 どれも、簡単な依頼ばかりである。


「待って。私たち、ダンジョンへ行きたいの。手頃な依頼はないかしら?」

「危険です。フェリシアさんの身になにかあったら、我々も……」

「いいから、適当なダンジョンを見繕って」


 ならばと受付は、早速手頃なダンジョンを紹介してくれた。

 といっても、目的は魔物の動きが活発なダンジョンがないかの調査である。


「いいわね。ここにしましょう」

「フェリシアさん!」

「不満なの? 私の力は知っているでしょう?」


 ハンターカードを見せて、納得させる。


「クラスチェンジなされたのですね? 女君主ローデスとは」


 フフンと、得意げにフェリシアは笑った。


「わかりました。行ってらっしゃいませ」


 観念したとばかりに、受付はフェリシアを送り出す。


「随分と低姿勢でしたが」

「色々あるのよ」


 サピィが問いかけようとしたが、フェリシアははぐらかす。




 紹介されたのは、オークの巣だ。地下二階建てで、規模も小さい。

 調査だから、こんなものだろう。とはいえ、油断はできない。


「それにしても、エッチいな!」


 フェリシアの格好を見て、トウコがため息をつく。


「あれは、王国の正装よ。これが本来の戦闘服なの」


 中世の騎士風だった姿から、フェリシアは一変している。

 

 ビキニ風のプロテクターを付けたバトルレオタードだ。

 太ももの目立つ赤いミニスカートに、黒のニーソックスを穿いている。

 武器は両刃のロングソードだ。

 五角形の盾、ヒーターシールドを背負っている。


「見れば見るほど、超弩級だぞ」


「やめてよ。同棲相手でも恥ずかしいわ」


 トウコの視線を気にして、フェリシアが胸を腕で隠した。


「来たわよ!」


 ふざけあっている時間はない。


 まるまると太った醜悪な亜人が、いやらしい顔をしながら俺たちに向かってくる。 


「うおおおお、【スマイト】!」


 フェリシアが、盾を構えて敵陣に突撃した。

 白銀の剣をふるい、オークの首をはねる。

 彼女は、いわゆるアタッカーだ。

 片手剣で攻撃、ヒーターシールドで防御を担当する。


 ようやく、俺たちにちゃんとした前衛役ができたことに。

 シーデーの負担が、多少は軽くなったか。


「カバーッ!」


 遮蔽物がないときは、盾をシーデーに投げて銃撃用の壁代わりに使わせた。

 自身は防御魔法と加速魔法をかけて、攻撃に専念する。


 オークの一体が、後ろからフェリシアに抱きついた。


 あっさりと、フェリシアはオークの豪腕を振りほどく。


「どこ触ってんのよ! 【バッシュ】!」


 ビンタの要領で、盾により相手の頬を裏拳で殴る。


「女騎士がやすやすとオークに捕まるのは、フィクションの中だけよ!」


 魔物が落とした魔力石の欠片を、フェリシアが拾った。


「これが、フィーンドジュエルなのね?」


 フェリシアの手の上には、二ミリの粒状の宝石が乗っている。


「はい。スケールはシードですね。一番小さいです」

「これでも、すごい力を感じるわ。魔物の魂が結晶化した【魔石】とは違って、純粋な魔力エネルギー体なのね」


 ジュエルに対する理解力も高い。フェリシアは、即戦力と行っていいだろう。


 その後も、オークの巣を手堅く潰していった。


「オークはこんなところね」



「俺たち、何もしなくてよかったな」

「そうですね。強いです」


 サピィと感想を言い合った。


 近衛兵と言っていたが、戦闘力は申し分ないと思う。

 応用も効く。

 なのに仕事は、城の警備ばかりだったらしい。


 それだけ強いから、いわゆる懐刀だったのか? 


 それとも、他に理由があるのかも。


 どうやら、複雑な事情がありそうだが。

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