サピィとフェリシア

 城から再度、アイレーナの工房へ戻る。


「トウコ。お前さ、お城でえらいおとなしかったな」

「お腹いっぱいだったから、半分寝ていたぞ」


 そういえば、母親に朝食を大量に食わされていたっけ。


「城に呼ばれたのは、おっとぉとランバートだろ? アタシは行く必要があったのかなーって、思ったぞ」

「城の防衛パーティ全員、っていっていたからな」


 しかし、サピィは連れて行かなくて正解だったかも知れない。もし連れて行っていたら、騎士団とトラブルになっていた可能性がある。


「ただいま戻りました」


 言っている側から、サピィが【魔界】から帰ってきた。


「おかえり」


 オレは、サピィにお茶を用意する。


「ありがとう、ランバート」 


 なんともないようだが、表情は重い。


「襲撃とかなかったか?」

「ご安心を。殺気を放つ輩はいましたが、直接わたしに手を下そうとするほどでは。どちらかといえば、好意的な方でした」

「はあー。サピィちゃんになにかあったらって思ったらさ」


 フェリシアが、「サピィ?」と立ち上がる。


 そうか、まだ紹介していなかったな。


「紹介するよ、フェリシア。彼女がサピィ・ポリーニだ。こちらは」

「それでは、あなたが現【落涙公】なの?」


 フェリシアが聞くと、サピィは「はい」と肯定した。


「本名を、サピロス・フォザーギルと。あなたは?」

「私はフェリシア・モーテンセン。ペールディネの近衛騎士よ。元騎士だったといえばいいかしらね」


 自嘲気味に、フェリシアが笑う。


「クビになられたのですか? 問題を起こすような方にはとても」

「問題を起こしそうな人を調査しろ、と国王から言われたの。私も、あなたのような可愛い子が魔王だなんて信じられないわ」


 フェリシアは書面上は「君主」となっている。

 つまり、自立できるのだ。

 その気になれば、建国も可能である。


「もっと、怖い顔をしていると思っていたわ」

「わたしは魔王の中でもヒヨッコなので」

「でもわかるわよ。あんたからは、すごいパワーを感じる」

「ありがとうございます」


 席に付き、改めて互いに自己紹介をし合う。


「そう。お父上を」


 父を殺害されたと聞いて、フェリシアは心を痛めている表情を見せた。


「今は私が現当主です。当主と言っても、表立って活動はしていません。魔王と名乗っては射ますが、世界を支配しようとまでは」

「私も父を殺められたら、そこまで冷静になれるかしら。復讐に身を寄せてしまうんじゃ……」

「フェリシアさん?」


 サピィに声をかけられて、フェリシアは我に返る。


「なんでもないわ。で、ではフィーンド・ジュエルとかいうアイテムと、工房を見せていただけるかしら?」


 階下へ向かい、フェリシアに鍛冶屋を見てもらった。


「ではあなたが、この工房の管理を任されているのね?」

「お金と物資を出しているだけです。実質的な運営は、コナツさんが」


 フィーンドジュエルの装備を、フェリシアがチェックする。


「どの武器も、信じられないくらい練度が高いわ。ウチにもドワーフで鍛冶屋の知り合いがいるけど、ここはトップクラスよ」

「ペールディネの方に褒められるとは、誉れ高いね」


 腕を組みながら、コナツがため息をつく。


「近々、お城から店舗の案内などがあると思うわ。けれど、一週間くらい見てもらいたいの。その間に、仕事ぶりを見せてちょうだい」

「鍛冶の? ハンターの?」

「両方よ」


 再び自室へ戻り、今後のことについて話し合う。


「錬金術師の魔王、ファウストか」


 それが、今回の騒動を引き起こした黒幕のようだ。


「ファウストに関しては、ダミアーニが情報をくれるそうです。我々も情報を集めますが、個人では限界もあるでしょう」


 それまでは、ファウスト打倒のために爪を研ぐことにしたらしい。


「なら、ギルドでも情報を集めましょうよ。依頼も受けながら。座っていても始まらないわ」


 依頼を受けるため、ペールディネの冒険者ギルドへ。

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