ヴァイパー族の襲撃:サピィサイド

 門番にまで礼を言われ、サピロスたちはダミアーニ卿の城を後にした。


 もう、こんな衣装に身を包むこともあるまい。

 この服は、友を弔うために用意したもの。

 用件は済んだ。

 この服は、悲しい思い出を染み込ませすぎた。

 早く脱いでしまいたい。


 手頃な街に足を運んで、元の服に戻す。


 街が騒がしい。何かあったのだろうか。


「サピロス姫、門の前に」


 街の外壁を超えた先にいたのは、無数のヘビ族だった。

 頭と胴体がヘビで、長い爪を持った両腕を持つ。


 数名の市民が、犠牲になったようだ。


 友人の葬儀を終えたばかりだと言うのに、血が流れるなんて。


「我らは、ヴァイパー族。スライムの小娘よ、死にたくなければ道を開けるがよい」

「ここより先は、グスターヴォ・ダミアーニ卿の領地ですよ?」

「知っている。だからこそ用があるのだ」


 そうだった。

 ヴァイパー族は、ダミアーニと対立していたことを思い出す。


「ダミアーニの最強伝説は、ここで途絶える。道を開けろ、小娘」


 お山の大将を引きずり下ろして、名を挙げたいタイプの魔物か。

 なんと器の小さい。


「我らが魔王であるヴァスキーは、ダミアーニと争って破れた。グスターヴォ・ダミアーニは我らが魔王の仇!」


 街を囲むヴァイパー族たちが、一斉に吠えた。

 大地が震えるほどの咆哮である。


「威勢だけはいいようですね」

「なんと、スライムごときが引かぬと言うか?」

「誰が、引き下がるですって?」


 ダミアーニに恩を売るつもりはない。

 しかし、友の葬儀の場を血で汚すのは気が引ける。

 ダミアーニとて、容赦しないだろう。


「ここから先は、わたしを倒してから通りなさい」


 ならば、さらなる流血は免れまい。


「全員まとめて、かかっていらっしゃいな」


 ここで、すべて仕留める。


 ヴァイパー族のリーダーが青筋を立てながら口角を上げた。


「舐めた口を! かかれ!」


 リーダーが、号令をかける。


 ヴァイパー族が、サピロス一人に照準を絞った。一斉に飛びかかる。


 そのことごとくを、【マジック・ミサイル】で撃ち落とす。


 それだけで、ヴァイパー族の群れは半壊した。


 ヴァイパー族は回避することもできず、爆死する。


 群れから分裂して街へ入り込もうとする連中も、サピロスはミサイルの餌食にした。


 もちろん、街には一切被害を出さず。


「な、ばかな!?」


 バカは、どちらだろうか? 誰にケンカを売ったと思っているのだ?


「街を覆い尽くすほどの勢力を、たった一人で……」

「残りは、あなただけです」

「くそ。しかし、なめるなよ小娘!」


 ヴァイパー族の肉体が、盛り上がった。

 ウロコから、機械を埋め込んだ形跡が覗く。


「改造手術を受けましたか」

「左様! ダミアーニ打倒のためなら、この肉体を捨てることも厭わぬ!」

「愚かな。復讐にだけ囚われて、自身を見失いましたか」

「ほざけえ!」


 巨大化したリーダーヴァイパーが、口から高熱のブレスを吐き出す。

 まるでドラゴン気取りだ。

 実際、ドラゴンを模したのかも知れないが。


 サピロスは、腕のマジック・シールドでブレスを受け止めた。


「なんだと!?」

「ブレスを吐いた程度で、勝った気にならないでください」


 我々が、どれだけの修羅場をくぐってきたと思っているのか。


「もうお逝きなさい。【インフェルノ】!」


 地獄の黒い業火を召喚し、巨大ヴァイパー族を火炙りにした。


「インフェルノだと!? スライム、貴様はいったい!?」

「わたしですか。わたしも【魔王】ですよ」

「そうか、ビヨンド・オブ・ワースト……おおおおおお!」


 機械のボディでなんとか持ちこたえていたが、ヴァイパー族は熱に耐えきれなくなって絶命した。


 まだ残党が残っている。始末するか。


 だが、ヴァイパー族は銃撃によって壊滅した。


「お見事でした。あとはお任せを」


 さっきの老執事が、兵を率いて現れる。


 ダミアーニ卿の差し金か。


 もし、ランバートに出会っていなければ、自分もああなっていたかもしれない。

 復讐に心を失って。 

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