魔導占術師《マギ・マンサー》:サピィサイド

 王を待つ間、サピロスはずっと研究資料を読んでいた。

 手持ち無沙汰な上、魔王の執事から「好きに読んでいい」と言われたからだ。

 本棚の端から、蔵書を読み漁る。


 カプセルの中にいる、ジェンマも気になっていた。

 しかし、それはダミアーニ卿がこちらに来てから聞けばいい。


 しかし、圧倒的に時間が足りなかった。

 いくら読んでも、知っている情報しかない。

 これだけの本を調べ尽くそうとすれば、数年はかかるだろう。

 

 盗み見のようで悪いが、特殊技能を使わせてもらうことにした。


 魔法資料の情報を収集する職業、【マギ・マンサー】のスキルを発動する。


 景色が、海の底のような風景に変わった。高次元の魔法世界が、姿を表す。サピロス自身も、水の中に潜った感覚になる。


 この中で、もっとも魔力の高い本を探し出すのだ。

 不要な情報は切り捨て、必要な情報だけ手に入れる。

 マギ・マンサーには、それができるのだ。

 五分という制限時間付きだが。


 本来、サピロスはマギ・マンサーとしての技能が高い。


 お供のスライムの手まで借りて、すべて記憶して帰るつもりで調べ尽くす。


「ありましたね。急いで調べましょう」


 最も強い魔力を放つ本を見つけた。

 普通に読めば、ただの魔法文字の翻訳辞書にしか見えない。

 厳重に、情報のロックが掛かっている。


「こんなセキュリティは危ないと、教えてあげたほうがいいですね」


 パスワードなど、サピロスからすれば子どもの絵を解読するに等しい。


 本を手にとって、ページを捲るでもなく記憶した。


「なるほど。オミナスを作り上げたのは、錬金術師のファウストゥスという魔王なのですね」


 ファウストゥスの所在は、わからない。

 実在するのかも、謎とされていた。


 しかし、『武器に頼らないこと』を至上としていたダミアーニとは度々敵対していたと書かれている。


 また、落涙公などのスライム系にはオミナスが取り憑けないとも。

 それで、父ギヤマンは消された可能性がある。


 時間にして三分。それでも十分だった。 


「よぉ、随分と熱心に読んでいたじゃねえか」


 魔王ダミアーニが、部屋に入ってくる。

 手元のお茶が冷めていた。

 それだけ、集中していいたのだろう。


「ええ。よくこれだけオミナスの資料を集めていましたね」

「ああ。オレサマに敵対しているヤツラは、多いからな」


 執事が、何も言わずにお茶を淹れ直してくれた。


「やはり、あなた方にオミナスをけしかけたのは」

「そのとおりだ。オレが君臨しているのを快く思っていない連中だよ」


 ファウストゥス、とサピロスがけしかける。


「そんなヤツもいたなぁ。処刑しようとして、逃げられたが」


 話からして、おそらく黒幕はファウストゥスだろう。


「それで、この中身は『本物の』ジェンマですね?」


 サピロスが、核心を突く。

 高次魔法空間に潜ってわかったのだ。

 空間に入ったのは、それを確認するためでもあった。

 かすかに、ジェンマの魂が宿っている。


「よくわかったな。さすが、高レベルのマギ・マンサーだぜ。そうだ。こいつはジェンマだよ」


 葬儀に出したのは、細胞から精巧に作り上げたジェンマのクローン体だとか。

 外見だけ似せて、中身はハリボテだとか。


「ジェンマは死んだことにしておいたほうが、都合がいい」

「それは、あなたの都合ですよね?」

「本人の希望だ」


 ダミアーニは、首を振って否定した。

 自分用に注がれたお茶を、一気に煽る。


「この状態にしておくことが、ジェンマ自身の意志だと?」

「ああ。それに、完全復活とはいかない。七割型サイボーグ化しないと、生きられないだろう」


 生還したとしても、不憫な状態だと。


「今日はもう帰りな。情報は集めただろ?」

「ええ。お世話になりました。ジェンマが目覚めたらよろしく」

「伝えておく。わざわざすまんな」


 当面は、ファウストゥスの討伐を目的とするか。


 ファウストゥスの姿までは、確認できなかった。


 それでも、次の指標はできたか。

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