ビョルンの最期!?:サピィサイド

「私の真の姿を、目に焼き付けておくんだね!」


 ペトロネラが、戦闘モードに入った。美しかった髪はヘドロ色に染まり、服はただれて猛禽類の皮膚があらわとなった。手や足もタカのような鋭い爪を持つように。

 翼は灰色に染まり、どの堕天使よりも異様な姿となる。人間だった形跡が、すべて消え去った。


「この醜い身体を隠すために擬態していたけど、あんたはそれでは倒せないようね」

「ええ。全力でかかってきてください」

「そうさせてもらうわ」


 猛禽の手が、堕天使たちの命を刈り取る。


 死んだ配下の血を吸って、より強大なパワーを得た。


 天使の光輪は見る影もなく、サビ色の光を放つ。それでも、天使だった頃の魔力は衰えていないらしい。


「それが、あなたの真の姿ですか」

「ええ。もうあんたを取り囲むなんて、ケチくさいマネはしない。一対一よ。落涙公」

「望むところです。背徳者ペトロネラ!」


 サピロスが、杖を構えた。スライムの結晶体のような蒼い宝玉が、先端についている。


 短い杖を、ペトロネラに向けた。


「【爆砕デトネーション】!」


 ここなら、大火力の爆発魔法を施しても誰一人ダメージを受けない。


 ペトロネラに一点集中して、爆裂魔法を放つ。


 正直言って、頭にきていたのである。


 本来なら、サピロスはここまでのことはしない。


 この堕天使は、パーティを分断し、ランバートに強敵をあてがい、仲間を殺そうとした。味方すら殺し、自身の養分としている。そんなヤツに、リュボフは絶対に殺させはしない。


 デトネーションを食らっても、ペトロネラはたいしたダメージを負っていなかった。吹雪のブレスで、反撃してくる。


「あなたは、生きていてはいけない存在です」


 すべてを凍てつかせるほどのブレスを、サピロスは水晶で受け止めた。


「それを決めるのは、私自身よ!」


 ペトロネラが、肉弾戦を仕掛けてくる。腕を触手のように伸ばして、爪で斬りかかった。


 サピロスは、その場で跳躍する。なおも追撃してくる爪攻撃を、蹴ってしのぐ。スライムになって、敵の身体をよじ登った。ペトロネラの真上に到達したところで、再度飛び上がる。 


「【破壊光線デモリッション】!」


 強力な魔力レーザーを、真下のペトロネラに撃ち込んだ。


「ふん!」


 ペトロネラも直線的な攻撃をまともに受けるほどバカではない。翼を広げて、千切れた羽根を四方に展開した。レーザーを羽根に反射させて、跳ね返す。


 だが、ペトロネラが拡散したレーザーをサピロスはさらに手の水晶に集めて放った。


 今度は羽根の反射を逆に利用して、ペトロネラの急所に直撃させる。


「あごお!」


 羽の根元や外殻のスキマにレーザーを撃たれて、さしものペトロネラも動揺した。


「無属性攻撃の基本魔法を、ここまでに鍛え上げたの!?」

「上位魔法にこだわらなくても、強ければいいのです!」


 ドロドロになったペトロネラに、とどめを刺そうとする。


「サピィ、無事か!?」


 ビョルンが、サピロスの元へ駆け寄った。


「気をつけて、サピィ! ヤツの狙いはあなたよ!」


 続いて、リュボフも。


「もう遅い!」


 ペトロネラの背中から、大量のカギ爪が飛び出す。すべてが、サピロスに照準を合わせていた。


「お前さえ死ねば、今度こそすべてのフィーンド・ジュエルは光を失う! そうなれば、我が神がワタシに施した封印も!」


 そうか。最初から、ペトロネラの狙いはサピロスだったのだ。先代ギヤマンの呪いを解き、力を取り戻すことが。


「死ねええ!」

「やべ、サピィ!」


 サピロスは、ビョルンに横から突き出された。


 激しく横転し、サピロスはペトロネラの攻撃に備える。


 爪が、サピロスに届くことはなかった。


 それはすべて、ビョルンの背中に。


「ビョルン!?」

「がは!」


 激しく血を吐き、ビョルンが倒れ込む。


 リュボフが、ビョルンに治癒魔法を施す。


「だめ、血が止まらないわ!」


 ビョルンの胸を抑えながら、リュボフが叫ぶ。


「仕留めそこねたか! でもあんただけは!」


 ペトロネラの爪が、サピロスに狙いを定めた。


「あなたという人は!」


 サピロスが、手をスライム状に変える。


 スライムでできた怒りの拳を、ペトロネラの爪に叩き込む。

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