バイクチェイス

 たしかに振り落とされることはない。

 だが、風圧もきつかった。かかるGがすさまじい。


 相手が、交差点を右折した。


 後を追うサピィが、ノーブレーキで右へ曲がる。


「ひっぎいい!」


 俺は歯を食いしばって、衝撃に備えた。


「今、ほぼ直角に曲がったぞ!」

「振り落とされないように!」


 そうは言っても!


 背後から、轟音が。


「追加で三台、追ってきましたぞ!」


 敵は刺々しい武装型の装飾で、バイクを固めている。

 さしずめバイカーギャングだ。


「さっきのバイクも、このハンターたちのバイクも、すべてブートレグで武装しています」

「ペールディネを襲った奴らと、同じ改造だ……なぁ!?」


 また直角にぃ! これでは、命がいくつあっても足りない。


 敵が、後ろからライフル銃を放った。


 シーデーも避けているが、弾の速度が早すぎてかわしきれない。


 銃弾が装甲に当たり、破片が飛び散る。 


 さっさと終わらせなくては。


「うおらあ!」


 ソード・レイに魔力を集めて、刃へ変換する。

 Dディメンション・セイバーを、背後のバイクに撃ち込んだ。


 一台のバイクが、Dセイバーの一撃で爆破、消滅した。

 バイクを失ったハンターが吹き飛ばされ、アスファルトにもんどり打つ。


 残るは二台だ。


 二人乗りのイカツい装飾で固めたバイクが、小型ミサイルを撃ってきた。


 シーデーがスピードを上げて、ミサイルをかわしていく。


 ミサイルは地面に着弾し、大爆発を起こす。


「おらああ!」


 シーデーのすぐ脇に、俺はファイアーボールを撃った。


 爆風と熱につられて、ミサイルが誘導される。


 衝撃で浮き上がったガレキに、俺はミサイルを衝突させた。


 煙が晴れた後に残っているのは、Dセイバーである。


 真っ二つにされた大型バイクが、ミサイルごと大爆発を起こした。


 

 あと一台というところで、そのバイクがトラックに踏み潰される。



「まさか、あれもブートレグか?」


 乗っているハンターの目は、焦点が合っていない。

 俺たちしか見えていないようだ。


 トラックを振り切ろうと、サピィは急カーブを繰り返す。


 廃ビルをへし折ることも構わずに、トラックは俺たちを追いかけてくる。


「だったら、おらああ!」


 俺は、廃ビルの柱を潰していった。


「サピィ、このビルの外周を回るんだ」

「なにを、ランバート!?」

「いいから、このまま駐車場に突っ込め!」


 言われるがまま、サピィは廃ビルの駐車場へバイク型シーデーを滑り込ませる。


 後を追うように、トラックが突進してきた。屋根を破壊しつつ。


「今だ。おらああ!」


 Dセイバーであるセイバーで、俺は建物内すべての柱を撃破する。


「脱出!」


 俺の合図で、サピィが駐車場から出た。


 同時に、建物が足元から崩れ落ちる。トラックを飲み込んで。


「さすがです。ランバート」

「相手が捨て身だったからな。こちらも捨て身の手段に出たまでだ」


 あとは、リーダー格の二台のみだ。 


「いたぞ!」


 二台のバイクを、道路の下側で発見する。


「使われていない人工河川のようですね」

「乗り込むぞ」


 俺たちも、下道へ降りていった。


「くそ、追いついてきやがった!」


 左のバイクが、こちらに気づく。髪は黒くて長い。

 ヘビの刺繍がされた革製ジャケットとGパン姿の女性が、長いマフラーをたなびかせている。

 首に巻き付いているのは、赤と青のマフラーかと思っていた。が、実体は金属製の平たいヘビである。シッポにも顔があった。


「とっととスピードを上げやがれ!」と赤いヘビが喚く。


「そうだそうだ!」と、青いヘビも同意した。


 しゃべっているのは、ヘビの方らしい。

 少女は、こちらに見向きもしていなかった。


「あれは、ヴァイパー族ですね」

「らしいな。行け!」


 俺の合図で、サピィが敵バイクの横につける。


「邪魔すんじゃねえ!」


 青いヘビが、口から毒液を放つ。


 廃墟ビルを道路代わりにして、サピィは毒液をかわした。


 毒の粘液が、地面を溶かす。

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