殴りウィザード、誕生?
ハンターギルドへは、向かわなかった。
今の時間に行ったところで、手頃な依頼は受諾済みだろう。
仲間も探さなかった。
あのギルドでは、ランバート・ペイジの名は疫病神だ。
レアが出ないハンターなど、誰も雇ってくれないだろう。
ならば、一人で狩るしかない。
とはいえ、裸同然のウィザードが一人でダンジョン探索など無謀もいいところだ。仲間を集められない以上、ハイレベルのダンジョン攻略は望めない。それどころか、初心者向けダンジョンを回るのも時間がかかる。
街から離れていない、ダンジョン手前の場所を狙う。
「こうしてみると、新鮮だな」
草原が、こんなにも広がっていたんだ。駆け出しの頃は、目の前の敵と足元に落としたドロップアイテムにしか目が行かなかった。
一見するとただの草むらだが、囲いなどの素材に機械文明の名残が残っている。
今から数百年前、化石燃料に限界を感じていた頃、一部の権力者が「魔」という技術が別の世界に存在すると嗅ぎつけた。
彼らは独自研究をして「魔」の抽出に成功する。
しかし、同時にこの世界に魔物を呼び寄せてしまう。
科学文明では太刀打ちできず、蹂躙されるのを待つのみだった。
しかし、大量破壊兵器を起動させたことにより、大半の魔物を滅ぼしたという。
人類はかろうじて、生存した。文明の崩壊と引き換えに。
「アイレーナも、当時は美しい花々が広がっていたというが。信じられんな……ん?」
新米ハンターたちの姿もちらほら映った。
仲間の一人が、前衛に【エンチャント】をかける。
エンチャントは、魔術師系職業が序盤に覚える初期魔法の一つだ。武器に魔法をかけて、切れ味をよくする。あるいは、仲間の武器にモンスターの弱点となる属性を付与するのだ。
炎魔法を付与された武器をふるい、少年がゴブリンを切り裂く。
倒したモンスターが、アイテムを落とした。
他にも、魔石を落とす。これが、魔物を倒した証になるのだ。
死んだ魔物は、倒した相手に魔力を吸い取られる。
魔物たちとはそうやって、代謝を繰り返しているらしい。
その効果は、ハンターにも適用される。
ハンターたちは便宜上、取り込んだ敵の魔力を「経験値」と呼ぶ。
魔石とは、魔力を吸いきられた魔物に残った物質だ。
肉を食べた後の骨に近い。
アイテムを漁る彼らも、当時の俺と同じ目をしていた。
少年少女ども、世界はもっと広いぞ。
足元ばかり見ていると、こんな男になってしまう。
「むう、こちらも獲物発見だ」
ゴブリンがいた。そんなに危ない相手ではないが、集団で集まられると厄介だ。遠くから火球で、各個撃破していくことに。
杖に魔力を集中させて、先端に炎の塊を形成する。前に持っていた杖なら、もっと早い時間で形成できるのだが。
「おらあっ!」
一番近くにいたゴブリンに、火球が命中した。バックアタックに近いが、新米ハンターたちに目移りしているのが悪い。
少しだけ狩って、アイテムを拾う。
「ヒールポーションと、マナポーションだけか」
赤が体力、青がマナを回復するポーションだ。それ以外は、小銭しか落とさない。やはり、アイテム運は悪いままである。
ゴブリンの群れが、こちらに気づく。
「おらおらおら!」
杖で叩いては、ゴブリンを蹴散らしていった。
だが、一向に数が減る様子がない。
「どうなっているんだ?」
気がつけば、俺は五〇匹の大群に取り囲まれていた。
「おお、ヤバイヤバイ!」
火球を連発して、しのぐ。
「ダメだ。フロストウェーブ!」
自分の半径二メートルに、氷の衝撃波を放つ。
約半数のゴブリンが凍りついた。
「アイスジャベリン!」
氷の矢を打ち出して、凍ったゴブリンを砕く。
「それにしても、意外とマナ消費がヤバいな」
燃費が悪い。基本魔法の質を上げすぎて、マナの燃費が悪くなっていた。
魔法力を示すマナの消費量が、凄まじい。
アイテムを整理する。マナポーションだけを拾って、後の装備品などは新米に分け与えた。俺が独占しても、仕方ないから。
ここには、金策のために来たのではない。自分の力を試すために来た。金はその後で稼ぐとしよう。
「これでは、すぐガス欠になる。対策しよう」
一旦退却だ。安全な場所に隠れ、スキル表を見直す。
何か、見落としがあるかも知れない。
スキルポイントを振り直しだ。
強敵の多い狩場には当分行かないから、大技は使わない。
大技へのスキルを解除すると、二〇〇〇近くもスキルポイントが余った。
スキルポイントのほとんどを、俺は攻撃魔法に費やしていたのだ。
しかし、マナの消費削減や総量アップは、ほぼアイテムの恩恵を受けていたのである。
「初期魔法を、ことごとく軽視していたんだな、俺は」
つくづく、装備頼みだった自分を呪う。ソロ狩りは、道具に依存した戦闘では続かない。
派手な魔法だけに目が行って、もっと燃費のいい魔法に注目していなかった可能性がある。
【マナ回復】スキルに、ちょっと。
ココに振りすぎると攻撃スキルに振る分がなくなる。
他にも、マナは消費するが魔法障壁を作れる、【エナジーシールド】で防御も固めてみよう。
「これは、【エンチャント】?」
武器に魔力を流し込んで強くする、近接の花形だ。遠距離しか要求されていなかったから、スルーしていたが。
そういえば、さっき初級ハンターが使っていたっけ。それで、頭の片隅にあった。しかし、通じるのか?
お、ちょうどいい敵が来た。
「やってみるか……【エンチャント】!」
杖に、炎属性の魔法を流し込む。木製だからって、燃えたりしないんだよな? よかった。ちゃんと炎が付与された。
「くらえ!」
かかってくる魔物を、片っ端から殴る。ゴブリンも、ウルフも。ゾンビも。
面白いように、魔物たちがやられていった。
しかし、モンスターはウジャウジャと湧いてくる。
そいつらを、俺はとにかく殴打していった。
初級の魔物なので、ロクなアイテムは出ない。アイテムボックスを圧迫するとしても、拾う。ソロ狩りで使うかも知れないからだ。今は、自分の力を試すとき。
キルトのヨロイを拾った。敵がいなくなったタイミングで、装備する。防御力は大して上がっていないが、普通の服よりはマシだ。盾も装備したいが、杖が両手持ちなので使えない。
片手持ちのショートソードを拾った。ちょうど、手持ちの杖が折れる。片手剣で凌ぐか。これで盾も持てるし。
「エンチャント!」
片手持ちの剣にエンチャントをかけ直し、モンスターを殴った。斬るのではない。俺に剣士の心得はない。戦闘技術もへったくれもなかった。叩き切るのみ。
金やポーションを拾っては、また殴るの繰り返し。
突然、眼前に矢が飛んでくる。
「わひっ!」
飛んでくる矢を、盾で受け止めた。弓兵に接近して、また殴って倒す。
「このこの!」
殴る、殴る……殴る。
「地味!」
しかし、悪くない。少ないマナ消費で、ここまでやれるか。
「街に戻って、スキルポイントを振り直すか……ん?」
新米ハンターたちが、一目散に逃げ出している。
おいおい、これからダンジョンだろ? そんな弱腰でどうす……。
「オーガの変異だと!?」
真っ赤な大型オーガが、街に向かって突き進んでいた。仲間であるはずのゴブリンの死体を踏み潰しながら。オーガの上位種は、下手なボスモンスターより強い。
俺はオーガの進路に立ち塞がって、子どもたちの盾になる。
「ここは俺が引きつける! ギルドに危機を伝えろ!」
「はい、ありがとうランバート!」
ハンターキッズたちが、一斉に街へ逃げていった。
「どうして、クリムのいないタイミングでレアモンスターが湧くかねえ!」
俺はひとりごつ。
この世界では、たまにこういった規格外のレアモンスターが出現する。高レベルのハンターに、たいてい討伐依頼が来るものだ。俺もその一人なわけだが、今は戦力が乏しい。
どうして俺は、初心者装備で挑んでしまったのか。とはいえ、クリムに渡した装備を取り戻してもギリギリだろう。
俺は、ここで死ぬのか? オーガ上位種を相手にして。
「いいや。やってやるぞ!」
オーガなら、ソロでも狩ったことがある。不意打ちだが。それにあの個体、俺の知っているオーガより遥かに大きい。チャンピオンクラスなのかも。
ひとりごちている場合じゃない。幸い魔力は残っている。詠唱開始だ!
「くらえ、メテオ!」
大型の火球を空に打ち上げて、それを砲台にして小さな火球を無数に発射する。相手は術者に攻撃をしたくても、炎に阻まれて動けない。攻撃と目くらましを同時に行う技だ。
とにかく、今は足止めする。仲間のハンターたちが来るまで、持ちこたえねば。
一体を特大ファイアーボールで押し潰した。
「さてさて、落としたアイテムはー、っと」
両手持ちのブロードソードか。それも、店売りの上位版だな。
この世界では、剣一つとっても同じものがない。作り手が違えば、形も違う。製造地方やドロップした魔物によっても、質が変わってくる。
「俺で、ギリギリ装備できそうだな」
試しに、剣を振ってみた。
まあ、扱えるようだ。しかし、攻撃に合わせて身体も持っていかれてしまった。
「うおっと! 素早さが死んだ」
たたらを踏んで、ようやく立ち止まる。
「店売りだな。これは」
しかし、安心した俺の背後から、不吉な足音が。
振り返りたくないが、確認せざるを得ない。
やはりだ。別個体がこちらに向かってくる。
「ちいいっ! 新手がいたのかっ!」
オーガチーフだ。しかも実に三体もいるではないか。肌も他の見たいと比べて赤黒い。他より足が遅いのが救いか。
「そうだ。マジックポーションを……くっ!」
ベルトに収めていたポーションを、切らしてしまっていた。小回復する分しか、残っていない。
これでは、後一発メテオを撃ったら空っぽになるな。
装備品の自動回復機能に頼っていたのが災いした。一応、魔力自動回復のスキルにポイントを振っているから、少しずつ回復はしているが。
「これは、戦闘は不可能だな」
ギルドまで戻るか。
いや、そうなればアイレーナが危険にさらされる。
ここは意地でも、通すワケにはいかない。
そのとき、二人組のハンターたちが。
オートマタ、つまり自動機械の兵士と、魔族の女性である。
二人共、こちらに走ってきた。
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