美少女と金属質のスケルトンが助太刀

 一人は【フォート】族、機械人の男性だ。鋼鉄の骨格を金属の全身ヨロイで覆う、ゴーレム族の亜種である。ボロボロのマントを羽織り、背中にはライフル銃を携帯していた。


 女性の方はフードを被っていて、顔は見えない。しかし腕は立つらしく、果敢にオーガ上位種に立ち向かう。


「助太刀いたす!」


 フォート族のタックルによって、オーガの一体が突き飛ばされる。


 しかし、相手は踏みとどまった。


「ならば!」



 背中のライフルを、流れるような速さで取り出す。魔法を使えないフォート族が使う術式弾丸を、ライフルに込めた。腰にかまえて、引き金を引く。


 術式弾丸が、オーガの頭部を粉砕した。


 別個体が、フードの女性に斬りかかる。


 俺が魔法を打とうとすると、女性は手で制した。


「あとは任せてください!」


 背後にいた女性ハンターが、杖を振る。魔法使いの俺でさえ、魅了されそうな声だった。上空に炎の槍を形成し、大型オーガに投げつける。


 オーガの心臓を、炎の槍が刺し貫く。


 これで取り巻きはやっつけた。あとは、ボスらしき一体のみ。


 再度、フードの女性が炎の槍を飛ばす。


 同じように、紅蓮の槍はオーガに向かって一直線に飛んだ。 


 普通のオーガなら、器用に立ち回るところだろう。しかし、赤黒いオーガは真正面から受け止めた。力比べでも、引けを取らない。


「こいつ、強いですわ!」

「ぬうう、我々に力が戻っていれば!」


 ベテランハンター二人がかりでも、太刀打ちできないとは。それにしてもさっきの機械人、妙なことを口走っていたな。「力が戻らない」とか。ワケありか?


「ふたりとも、離れろ!」


 詠唱は済んだ。しかし、魔力不足がどう影響するか。とにかく、今はやるしかない。


「メテオ!」


 もう一発、メテオを放つ。


「くう!」 


 炎が小さい。ダメか、急ごしらえでは火力が追いつかない。足止め程度にしか。


 火ダルマになった影が、炎の壁を突っ切ってくる。


「なあ!?」


 こいつ、俺の魔法を無理やり突破してきやがった! 


「俺を直接狙うか!」


 亜種オーガが、まっすぐ俺の方へ向かってくる。


「おのれ!」


 フォート族が、モンスターに組み付く。


 だが、怒りに燃えるオーガ上位種は、ゴーレム並みの力を持つフォートでさえなどたやすく振り落とした。


 ライフルが、フォート族の手を離れた。岩に後頭部を打ち付け、フォートの男性は気絶してしまう。死んではいないだろうが、戦闘続行は不可能だ。


 オーガが、フォートに食らいつこうとする。機械の人間でも、内蔵している魔力は計り知れない。雑食のオーガにとっては、極上のエサとなる。どれだけ、このオーガは強いのか。もはやオーガの粋を超えていた。


「やらせませんわ!」


 女術士が、オーガに氷の矢を撃ちまくった。


 しかし、硬い皮膚が氷の攻撃を弾いてしまう。


「きゃあ!」


 オーガの腕が少女の顔をかすめた。



 少女のフードがめくれる。青い髪で、くせっ毛のショートボブだ。悪魔のような角が、少女のこめかみから生えていた。



 俺は火球を撃って、オーガ上位種の目を潰す。初級魔法だが、こういう使いみちもあるのだ。


 無防備なところに目を攻撃されて、オーガ上位種がのたうち回る。


「あんたはそいつを連れて、逃げてくれ!」

「あなた一人で大丈夫ですの!?」

「構わん、ギルドに報告してくれ!」

「わかりました。ご無事で」


 女術士に頼んで、フォートを引きずってもらった。


 戦闘不能者がそばにいると、そいつが食われてしまう危険がある。フォート族とて、例外ではない。ヤツらは何でも食って、栄養にしてしまう。


 落ち着きを取り戻したのか、今度こそオーガがこちらに明確な殺意を向けてきた。剣と盾を構え、まったくスキを見せない体勢に。


 考えろ。近接ならどう戦う? どうすれば、コイツを止められるのか?


「ん、なんだこの宝石は?」


 赤い宝石が、俺の手に収まっていた。


 なんだか、俺の魔力に呼応している感じがする。


「その宝石を、武器に取り付けてみて!」


 フォート族に肩を貸しながら、術師の少女が俺に呼びかけた。


「取り付けろったって、どうやれば……うえ!?」


 盾で攻撃を受け流しつつ、片手剣でオーガの上位種の目を突く。


 目に剣が刺さったまま、オーガが武器を乱暴に振り回した。


 あれでは、武器を取り戻せない。


 もう一回ガードできるか? ムリだ、盾も壊れている。


「ですよねーっ!」


 こんなことなら、もっと筋力にもポイントを振っておけばよかった。


 別の武器を……さっき拾った、ブロードソードに目が行く。


「こいつを使う?」


 俺は、剣士ではない。肉体労働が嫌いだから、魔法使いになったくらいだし。


 悩んでいる間に、オーガが剣を振り下ろそうとしていた。


「まあ、いいや。迷っている方が時間の無駄だ!」


 拾ったばかりの剣に、すべてを託す。


 たしか術師の少女が、「武器に宝石を使え」っていっていたっけ。


 武器の柄にあるくぼみに、赤い宝石を仕込んだ。宝石が、スロットにバッチリ収まる。


 すべてのスキルポイントを、エンチャントに振り分けた。


「これでいいんだな?」

「はい。そこで、【エンチャント】です!」


 こうなったら、やぶれかぶれだ! 少女の指示通りにする。


「この際だ。やってやるよ! 【エンチャント】!」


 俺は、武器に魔法をかけた……はずだった。


 エンチャントの魔法が、すべて赤い宝石に飲み込まれていく。


 オーガの攻撃が迫ってきた。


 攻撃を、エンチャント済みの武器で受け止める。


「はあ!?」


 信じられないことが起きた。


 敵の武器が溶けたのだ。


 俺のようなひ弱なウィザードに攻撃を跳ね返され、オーガは困惑している。


「くらえこの化け物!」


 フルスイングで、俺はオーガに殴りかかった。剣で叩き切るのではない。殴る!


 ぱあん! と風船のような音を立てて、オーガの頭部が吹っ飛んだ。


「え、はえ? やっちまった?」


 オーガよりも、俺は驚いていた。


 頭を失ったオーガ大将は、ピクピクとケイレンを起こす。


「頼むぞ、もう起き上がるなよ!」


 願いが届いたのか。あれだけ驚異だったオーガ上位種は、動かなくなった。


「やったのか?」


 魔物は死に、アイテムだけが残る。


 俺は地面にへたり込んだ。そのまま背中が汚れるのも気にせず、寝転ぶ。


「はあー、ちくしょう。やってやった!」


 仰向けになりながら、ガッツポーズを取った。


「はっ!」


 そこで、例の少女とフォート族がいたことを思い出す。


「いないな」


 歓喜の舞を見られなくて済んだ。


 しかし……。


「敵のほうは、まだまだいるじゃないか!?」


 オーガ族が、ワラワラと押し寄せてきたではないか。

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