殴りウィザード、開眼!

「まだ殺され足りないか! おらああ!」


 やけくそになって、俺はエンチャント済みの武器でオーガどもをメッタ切りにした。


 オーガを溶解できるのは、調査済みだ。


 ためらわずに、全力攻撃を繰り返す。


 武器を振るってきた腕を切り落とし、脇腹を剣で殴った。俺は、武器戦闘の心得がない。斬ったというより、「殴る」に近い。


 噛みついてきたオーガの横っ面を、ブロードソードで殴り飛ばす。


「ハハ、筋力増強の魔法なんて、久々に使ったぞ」


 術師は基本、筋力アップの魔法は使わない。敵と距離を取るか、逃げるときくらいだ。自分から攻撃するためなんかには使ったことがなかった。


「リーダーは、さっきやっつけたヤツが最後みたいだな? あとは、ザコオーガばかりだ」


 数は多いが、まだ対処は可能である。


 もちろん、オーガと本気のツバ迫り合いなどできるはずがない。ゼロ距離まで近づき、攻撃魔法を叩き込む感じだ。これがパーティ戦なら、俺はデバフなどを撒く担当になるだろう。


 筋力に頼らず、極力魔法の恩恵で倒す。我ながら情けない攻撃だが、それでもオーガたちは溶けていく。


 あれだけ強固だと思われたオーガの筋肉が、今やチーズのようにズタズタだ。


 ようやくすべてのオーガを狩り尽くす。


 さすがに疲れた。きれいな地面へ仰向けに……。


「勝てたか。慣れない肉体労働など、すべきではないな」


 だが、すごいぞ。エンチャントは。


 初期魔法だと思って侮っていたが、とんでもない掘り出し物かもしれない。


 しかも、この宝石を合わせると、威力が倍増することがわかった。

 使ってみてわかったが、この宝石は、エンチャント魔法を永久に武器へ定着させてくれるらしい。



 これは、最強のソロ狩りになれるかもしれん。


「そうだ。ドロップ品を確認しないと!」


 呼吸を整えてから、半身を起こす。 


「チャンピオンの割に、えらく大量にドロップしたな」


 他のドロップは、皮のヨロイとタワーシールドだった。

 どれも重い。アイテムボックスへ入れる。

 これは、ショップ行きだな。


「あとは……宝石か」


 さっき拾った赤い石の他に、三粒の小さな宝石を手に入れた。一番大きな個体が残したのは、小石くらいの大きさである。魔物の心臓部である【魔石】かと思ったが、違った。魔力を詰めた宝石のようだ。


 なんの役に立つ? さっきのような爆発的威力を発揮するのだろうか?


「魔力増強用の装飾品にでもするか」


 こんなとき、知り合いにドワーフがいるのは助かる。


 でなければ、アクセサリにしかならないような。俺は女ではないから、持て余しそうだ。


 ただ、今回魔物が落としたアイテムは、悪くない。


「とんでもなく、禍々しいデザインだな」


 オーガ亜種の魔力も吸って、かなりのパワーを誇っている。とはいえ、ただのブロードソードなのだが。


「とはいえ、これでアイテムはいっぱいだな」


 アイテムボックスに重量制限がある以上、俺の筋力ではこれだけで限界のようである。


「まあいいか。とにかく、街へ報告だ」


 冒険を続けるにしても、補給が必要だ。まさかダンジョンに入る前にここまで消耗するとは。さっさとドロップ品をかき集めて、帰るとするか。アイテムボックスに装備品を詰め込み、街へ向かう。


 途中、ウルフやカラスなどに襲われたが、その度に立ち止まって火球で撃退した。面倒だ。


「へえ、やっとついた」


 日が沈むまでに、やっと帰ってこられた。


 門まで戻って、息を整える。


「ランバート・ペイジ、帰還したぞ」


 カウンターに報告をすると、受付嬢がにこやかにお辞儀をした。


「お疲れさまです、ランバートさん」


 本当だ。ダンジョンの手前でさえこれである。先が思いやられるな。


 俺は、カウンターに【魔石】を置く。これで、魔物討伐の証明になるのだ。


「オーガの亜種を、よくぞ撃退してくださいました! これで、街は救われます!」


 ウキウキの受付嬢から、報酬を受け取る。


 どうりで、やたらと強かったわけだ。やっぱり亜種だったらしい。俺のメテオを突っ切ったくらいだからな。


「そうだ。ここで、ステータスとスキルのポイントを振り直したい。相談に乗ってくれるか?」


 ポイントの振り直しは、安全な場所で行うに限る。

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