殴りウィザードビルド

「承知しました。では、スキル表をお持ちしますね」


 カウンターでカタカタと石版のコンソールを叩き、俺の前に見せた。


 自分の端末でも表示や振り直しが可能だが、ギルドなら頼んだら無料で相談できる。


 まずは、ステータス表の見直しからだ。


「氏名:ランバート・ペイジ」

「職業:ウィザード」

「レベル:三五」

「筋力:二五」

「敏捷性:四〇」

「体力:五〇」

「魔力:一二五」


 装備品には、筋力を要する。ヨロイで一番軽いキルト製でも、二五ポイントが必要だ。


 俺の筋力だと、皮のヨロイまでしか装備できない。しかも、扱おうとすると素早さを犠牲にしてしまう。

 また、「敏捷性は、魔法の詠唱時間には反映されない」という弱点がある。

 あくまでも移動時間、武器使用時のみの時間なのだ。それだけ詠唱は複雑なのである。


「たしか、金属製のヨロイを装備できる筋力は、六五ポイント必要なのだな?」

「そうですね」


 悩ましいな。しかし、迷っていても仕方ない。


「魔力を減らす。筋力を五〇ポイント増やせばいいな」

「そんなに!? ランバート様、魔法詠唱はなさらないので?」

「うむ。省エネ魔法を思いついたのでね」


 当分は、魔物が弱いエリアでレベルを上げる。

 そのため、大量のマナを食う大火力魔法は非効率だ。ソロで戦うから、詠唱中に注意を引きつけてくれる相手もいない。


「これでよし」


 筋力を「七五」まで上げた。


「広い場所を使わせてくれ。装備のチェックがしたい」

「はい。どうぞ」


 受付嬢の案内で、訓練場の広場へ通される。


 あれだけ重かったブロードソードが、片手でもブンブン振り回せるようになった。

 試しにタワーシールドや金属ヨロイも着てみる。

「うん、こんな感じなんだな」


 チェックし終えた装備を、一旦外す。


「ついでに、スキル表も確認するか」


 俺は「炎」「氷」「雷」属性の、三大最強魔法を習得している。ここまでくるのに、相当の時間を費やした。

 しかし、覚えただけである。実際の威力は、またスキルポイントを振って強化するしかない。


 だったら。燃費がよくて連発しやすい魔法がいい。


「大魔法は、もういらん。当分使わないからな」

 

 これからは、魔物の弱いエリアを回る。

 ならば、火力より燃費や取り回しを重視する方がいいだろう。

 また、ソロでは大魔法は使い勝手が悪い。詠唱に時間がかかる上、サポートしてくれる壁役もいないのだ。

 一度使ってみて、勝手もわかっている。不要な魔法はドンドン捨てることに。


 俺はスキルを大火力魔法から別魔法に移し替えた。


 ポチポチと、コンソールを叩く。


「魔法も、いっそ【エンチャント】にほぼ全振りだ」


 エンチャントの何がいいかと言うと、「消費魔力量の少なさ」にあった。要求する魔力が、大火力魔法の一〇分の一である。


 ソロ狩りのための魔法だったのでは? 仲間がいては、絶対にできないビルドだ。遠方でペチペチ魔法を撃つイメージからは、かけ離れている。


 受付嬢が、「まじかよ」とつぶやく。


 仲間と組む気はないんだ。

 なんせ、俺のクジ運の悪さは折り紙付きである。


 誰しもが、俺の引きの悪さを知っていた。強力なアイテムが欲しいなら、俺とは組みたがらない。


「まさか、そんな! 【エンチャント】なんて、子どもでも扱える初期魔法じゃないですか」


 エンチャントの魔法は、申し訳程度に武器や防具を強化する程度の効果しかない。それが、俺たち魔術師職の常識だった。


 しかし、俺はスキル表に穴を見つける。


「強化に際限がないんだよ、エンチャントには」


 つまり、どこまでも強くなれるということだ。魔法使い系はどうせ大魔法に移行するため、誰も使わなかっただけで。


 リビルドも済み、俺は再度依頼書を確認する。


 依頼書に、『オーガ亜種が襲来、救援求む』とメモがあった。

 女性の字である。しかし、手にとってもらえた形跡はない。


「ところで受付嬢、俺を助けてくれた女性を知らないか? フォート族とフードを被った女が、ギルドに報告に来ていると思うのだが?」

「いいえ。そのような報告は。『街に危機が迫っている』と伝えてきたのは、子どもハンターたちです」


 なるほど。さっき助けた子どもたちか。


「ハンターたちは準備をしてくれたんですが、ちょうど入れ違いであなたが帰ってきまして」

「そうか。わかった」


 この街にいるハンターは、初級クラスばかりである。

 対して相手は、オーガのチャンピオンクラスだ。下手なフロアボスより、腕も立つ。


 ほとんどのハンターは尻込みしてしまった、と。まあ、レア装備品目当てのヤツらの場合、レアを出せない俺なんて見捨てるだろう。それでも同行してくれたクリムたちが、優しすぎたのだ。


 ともかく、俺を助けてくれたフォート族と女性は、なんらかの事情でギルドを利用できないのかもしれん。


「依頼書などは、貼られている分だけか?」

「はい」

「よし、確認した」


 自分のカード型端末に、依頼書のコピーをとっていく。もしかすると、さっきの二人組みに関する手がかりがあるかも。


 ハンターギルドで発行されるカード式の端末は、身分証明の他にも役立つ機能が備わっている。決済や銀行機能、依頼書や手配書の投影機能などである。


 報酬を受け取って、俺はギルドを後にした。


 こうして、殴りウィザードのビルドは、ひとまず完成である。

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