殴りウィザード用の防具新調

「旅に出るならアーマーを新調する必要があるな」


 魔法使いが、モンスターに接近戦を持ち込むのだ。丈夫なヨロイがほしい。


 俺は、馴染みの店を訪れた。 


「よう、コナツ。繁盛しているか?」


 熱した鉄を打っているドワーフの男性に、俺は語りかけた。


「なんだよ、ランバート・ペイジじゃねえか!」


 甲高い声で声をかけられたドワーフが、作業を止める。


「仕事中に悪いな」

「いいっての。コイツは包丁だ。すぐ済む。よし、できた」


 作業を完了し、ドワーフのコナツは手をタオルで拭く。


 コナツ・フドーという、俺のお得意さんだ。

 見た目は少年だが、もう四五だという。俺より二〇以上も年上だ。

 つい最近、奥さんが三人目を身ごもった。なので、クリムの旅にはついていっていない。ここに根を張るつもりのようだ。


「追放されて、しょぼくれてると思ったぜ!」

「まあ、その通りなんだけれどな。それより」


 俺が事情と、近況を説明すると、コナツはヒザを叩く。


「ギャハハハーッ! ウィザードで近接たあ、テメエらしいや! バカげてやがる!」

「無謀だろうか?」

「いんや。オレの娘なんざ、クリムのパーティだと僧侶なのに殴り担当だ! 笑うが、おちょくりゃしねえよ!」


 一五になる長女を思い出し、コナツがゲラゲラと笑う。


 コナツの長女は、いわゆるモンク僧である。武器を必要としない。

「父ちゃんが作った武器は使いたくない。拳士は魔物と、拳で語り合うもの」だって言っていたっけ。


 拾ってきた革製ヨロイと盾を、コナツに売り払った。


「オーガの亜種か。一人でやるとは、大したもんだぜ」

「加勢がいたからな。さっそくだが、これを見てくれるか?」


 俺は、オーガ亜種が落としたアイテムを、コナツに見てもらう。


「おうよ。どれどれ?」


 物珍しそうに、コナツは宝石をマジマジとみつめる。


「こいつぁ、ルビーだな。このまま金に変えてもいいが、これは武器なんかに使うものだな」


 たとえば、と、コナツがショートソードを棚から出す。


「これなんかは、柄に魔法石をはめ込んでる。そうやって、魔法を帯びた攻撃が可能だ」

「なるほど。触媒か」


 魔法を補助するときに使う素材を触媒という。石だけではなく、人形や木の切れ端、書物などの形をしている。


「普通は鉱山なんかで掘るんだが、モンスターが持っているとは。しかも、かなりデカい」

「珍しいから、拾ったんだろう?」


 オーガは、光ったものを好むから。


「かもしれんな。それにしては上等すぎるが。オレもこんな魔力純度の高い宝石は見たことがねえ。ン? そういえば……」


 コナツが指を鳴らす。


「心当たりがあるのか?」

「ああ。なんでも、倒した魔物の魔力を、宝石に変えちまうヤツがいるらしい。こんな風に」


 その魔物が落とした宝石は、絶大な魔力を放つという。


「どんなヤツだ?」

「スライムロードだ」


 ロード……魔王だってのか? スライムの魔王か。


「たしか称号は、フレキシブル・ドロップ・ルーラー。またの名を【落涙公らくるいこう】って言ったっけな?」


 魔物の中には、出世して魔王に転じるものがいる。そういう魔物は、純粋な魔族から忌み嫌われるらしい。そのため、蔑称が与えられる。


 その魔王は【落涙公】フォザーギル、通称「泣き虫公爵」とも言うらしい。


「じゃあ、そのスライムの魔王サマが、オレの近くに現れたと?」

「かもしれん。つっても魔王だぜ? こんなヘンピな街をうろついているわけがねえ。聞けば、もう死んだってウワサだ」


 なんでも、魔物が魔王になるのを嫌う魔族に、滅ぼされたとか。


 とはいえ、この宝石が本当に落涙公がドロップしたものなら、強い装備を作れるはずだ。


「武器にはめ込むと言ったな? こいつに仕込めるか?」


 オーガが落としたブロードソードを、コナツに託す。


「任せろ」


 剣の柄に、コナツは金属の装飾品を取り付けた。その中央に、魔力石を埋める。これで、魔法力がアップだ。


「感謝する。あと、金属ヨロイを見せてくれ」


 剣の代金をコナツに払い、防具も見せてもらった。


「いいのか、ドワーフが作った製品で?」


 装備屋は、人間産と亜人産に分かれている。


 なにも、人種差別しているわけではない。人とドワーフでは、作られる用途も変わるのだ。


 人間が作った武器は、正確さが物を言う。軽いものが多く、扱いやすさも売りだ。


 ドワーフが作った武器は、金属さえ紙切れのように切り捨ててしまう。

 代わりに重量がある。

 ドワーフお得意の装備といえば、剣よりは斧の方が多い。ドワーフが使うなら、重量や自身の速さなど関係ないから。敵の人間が剣を振るより早く、ドワーフは斧で剣を断ち切ってしまう。


 ヨロイでも、同等のことが言えた。ドワーフ産の方が、必然的に重くなる。


「お前なら信頼できる。丈夫なヨロイがあったら、売ってくれないか?」


 どこの誰が作ったかわからないヨロイに、体を預けたくなかっただけだ。


「ランバート、どういう風の吹き回しだ? 伝説の【サムライ】にでもなるってか?」


 東洋には、魔法と剣を同時に扱う【サムライ】という職種がいるらしい。あいにく、俺はそんなに器用ではなかった。剣術など、習いたくもない。


 俺は親父とは違うんだ。


「筋力も、随分とアップしたじゃねえか。やっぱお前さんは……」



「父と一緒にするな」



 俺は無骨な剣士職が嫌で、魔法使いになったのである。

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