逃亡者との遭遇

「すまん。言い過ぎた」

「いいって。オレの方こそ悪かった。けれどオレには、お前が元剣士の親父さんと、同じ道を歩んでいるようにしか見えないがね?」


 さすがに俺も、苦笑いが出てしまう。


「いいから、ヨロイを見せてくれ」

「あいよ。お前さんの筋力にふさわしい一品を、見繕ってやるぜ。とびっきりのやつをな!」


 奥へと引っ込み、軽いヨロイを手に持ってきた。


「これなんかどうだ? 電子制御のバトルプレートだぜ。フォート族にも使われている超技術だ」


 コナツ自慢の品は、銀製の胸当てである。肩がなく、動きやすそうだ。中央の宝玉によって、電撃型の魔法障壁が自然と発生するらしい。


「お前さんは筋力こそ上げたみたいだが、近接戦闘経験が乏しい。魔法でカバーしてやるくらいが丁度いいだろう」

「これは、助かる。すまんな」


 キルトアーマーの上に、金属胸当てを装備した。見た目より軽い。


「いいって。クリムに頼まれていた品だからよ」

「クリムが?」

「餞別だとよ。『魔法使いでも着られる、丈夫なヨロイを作ってくれっ』てさ。材料費とか全部向こうが用意してくれた。たった今出来上がったばかりなんだ。いい仲間を持ったな」


 涙ぐみながら、コナツが俺の背中をバンと叩く。


「ありがとう。もし、クリムにあったらよろしく」

「おう。またな」


 腕で涙を拭いながら、コナツは片付けを始めた。


「店じまいか」

「もう泣けてきて。仕事にならねえ。カミさんと酒のんで寝らぁ。あばよ」

「そうだ。フォート族で思い出したが、魔法使いのオンナと、フォート族の老人を見かけなかったか?」


 ドワーフは、フォート族のメンテナンスもできる。もしかしてと思ったが。


「いやあ、知らねえ。フォート族のヤロウは、ここ最近でも見かけねえな」


 嘘を言っている風に見えない。本当に知らないのだろう。


「だよな。すまん」

「いいって。どうした? ケンカでも売られたか?」

「助けられた。礼を言いたくてな」


 コナツは「そうか」と、腰に手を当てる。


「もし見つけたら、真っ先に知らせてやるぜ」

「頼む。じゃあおやすみ」

「またなランバート。会えてうれしかったぜ」


 最後まで涙声で、コナツは店を閉めた。


「俺も今日は、食事をして寝るとするか」


 ハンターの酒場で、注文を取る。


「いつもの」

「かしこまりました」


 早速、シードルを煽った。つまみはソーセージとポテトサラダ、ライスである。

 ちなみに、俺のシードルは甘い。酒は脳の判断を狂わせるので、俺はもっぱらノンアルコール利用者である。


 報酬で食う飯はウマい。生きて帰ってきた、と思える。

 酒も飲めたら、もっと実感が湧くのだろうけれど。

 あんな頭が痛くなるだけの飲料なんて、どうしてみんな好んで飲むのか?


 それはそうと、今日の出来事を振り返る。


 今日の女性ハンターだが、相棒にフォート族、機械人を従えていた。


 おまけに、フォート族はほぼ魔族である。

 種族的にはスケルトン……つまり、誰かに操られている可能性が高い。

 古代文明が作り出した、未来型スケルトンとも言える。


「失礼、旅の方よ」


 フォート族の男性とフードの少女が、俺に声をかけてきた。


 ウワサをすればなんとやら、とは。


「どうぞどうぞ。今ちょうど、あんたらを話をしたいと思っていた。俺の名はランバート・ペイジ。えっと」


 ふたりとも、俺の真向かいに座る。


 俺は、フードから覗く女性の顔をチラリと見た。


「私のことは、サピィ・ポリーニ。サピィとお呼びください」


 顔をそらすことなく、女性はこちらに視線を向ける。

 青い髪で金色の眼だ。いいところのお嬢様だろうか。世間知らずな印象と、高貴さが垣間見える。


「こちらはシーデー。彼が、あなたにお礼が言いたいと」

「かたじけない。世話になり申した」


 フォート族の男性シーデーが、頭を下げる。


「とんでもない。助かったのは俺だ」


 他のハンターたちは、レアを出せない俺を見捨てた。命と稼ぎを天秤にかけたのである。それが人の摂理なのかも知れないが。


「私からも、お礼をさせていただきます。ありがとうございました」


 サピィが、金の入った巾着を俺の前に置いた。


 ドンと音がする。


 信じられない額が、目の前に飛び込んできた。

 貨幣最高額の、白金貨も混じっている。

 俺が一生かけても稼げないほどの。


「待った。なにもそこまでしなくてもいい。俺にできることがあったら、話してくれないか?」


 俺は、巾着を返す。


「なぜ、そうお考えに?」

「あんたら、追われているんじゃないか?」


 サピィが、目を見張った。


「どうして、それを」

「ギルドの受付嬢が、あんたらを知らなかった」

「依頼書はあったでしょ?」

「あれは、ギルドを通していない」


 俺は、ハンターカードに投影した依頼書を、二人に見せる。


「こっちがギルド公認の依頼書だ」


 ギルドの依頼書は、公式の用紙を用いて文字を印刷するものだ。印鑑も押されて、正式な依頼として成立する。つまり必ず、受付嬢を通さなければならない。


 対してサピィの依頼書は、文字通りただのメモだ。字も走り書きである。これでは、無視されても仕方がない。

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