レアドロップしない男、魔法付与装備を生成できる女スライム魔王に溺愛されて、【レアアイテムを破壊する殴りウィザード】として覚醒!
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
第一部 レアドロップしない男
1-1 殴りウィザードとして生きていきます
レアドロップしない男 ―疫病神のランバート―
まだわずかに文明の面影が残る地下ダンジョン『セグメント・セブン』に、雷鳴が轟く。
俺が相手をしているのは、スケルトンやゾンビ、リザードの群れである。俺たちハンターは、広い通路で魔物たちに囲まれていた。
俺達が踏み入れているダンジョンは、かつて【トンネル】と言われていたそうだが、遠い昔の話だ。
「頼んだぞ、ランバート!」
「OK任せろ」
リーダーのクリムに促され、俺は杖を天へ掲げる。
「くらえ、【ライトニング】!」
パーティの突破口を開くため、杖を敵陣に向けて雷撃を放った。
紫色の電流が槍となって、人間大のリザードどもを炭へと変える。
放電の衝撃で、天井にある照明がパリンと弾けた。
闇に乗じて、パーティも魔物の群れを突っ切る。
ひときわ大きな怪物に、俺は再び雷撃を放った。
だが、相手の肉体に弾かれてしまう。
「ちい、デーモンかよ」
デーモンは、魔法抵抗力が高い。俺の魔法が通じるかどうか。
「オレに任せておけ!」
リーダーのクリムが、愛用の銃をホルスターから抜いた。
「くたばれ!」
しっかりと構え、銃から【魔弾】を放つ。
魔法の効果を施した弾丸が、ダンジョンボスの眉間を撃ち抜いた。しかし、まだ頭蓋骨で泊まっている。
「今だ、ランバート!」
「おう! 【メテオ】ッ!」
俺は、クリムの銃弾に、ダメ押しで隕石状の火球を落とした。
脳を一撃で破壊され、ダンジョンの主が仰向けに倒れる。
「よし、アイテムを漁って引き上げるぞ!」
この世界のモンスターは、死ぬとアイテムを出す。なぜなのかは不明だ。アイテムが魔物となっているパターンや、アイテムを守っている魔物もいた。その種類は千差万別である。どれが正解とは言い難い。
「なんか最近、デーモンクラスの魔物が多くないか?」
パーティの一人がグチをこぼした。
『セグメント・セブン』は、どんな魔物が出てくるかわからない危険地帯である。ハンターのレベルに関係なく、強さもまちまちだ。
「まあまあ、そう嘆くな。強いモンスターを倒したんだ。きっといいアイテムが……」
メンバーを励ますクリムが、言葉を濁す。
「これだけか?」
相当数の魔物を排除した。にもかかわらず、ドロップアイテムの価値が低い。どれも、店で売っている品に毛が生えた程度のシロモノばかりだった。あれだけ必死で戦ったのに。
パーティの誰しも、渋い顔をしている。
「すまん」
俺のせいだ。ハンターギルドでは、「ランバートがいるとレアが出ない」と陰口を叩かれている。俺は疫病神だと。
「いいって」
クリムはそう言ってくれた。この日は……。
数日後、俺はパーティリーダーの戦士クリムから呼ばれた。
ここはアイレーナの街にある酒場である。ハンターギルドの隣にあり、俺たちのようなハンターたちが酒を酌み交わしていた。
いつものメンバーはおらず、席にはクリムしかいない。
「悪いんだがな、ランバート。抜けてくれ」
クリムが、俺様の向かいに座って神妙な面持ちで語った。
「おう、やはり俺様はクビか」
ハンター仲間からの視線がやけによそよそしいとは、以前から感じていたが。
「ああ。お前には、我がグループから外れてもらいたい」
クリムは、複雑な表情を見せた後、強めのシードルを煽った。強く苦い炭酸を喉に流し込んで、顔を渋くする。
「やはりこのランバート・ペイジ様は、戦闘では役に立たないか?」
「違う。お前はよくやってくれている。ランバートは、このパーティに入ってくれて一ヶ月だよな?」
「ああ」
「戦闘では後衛で指示を飛ばしてくれるし、魔法のタイミングも的確だ。ドロップした宝箱のトラップを完璧に解除し、仲間とのトラブルもない」
それはよかった。てっきり、知らないうちに仲間割れを引き起こしていたものだと。
「では、何が問題なんだ?」
「お前がいると……レアが出ない」
痛いところを突かれる。俺が最も気にしていたところではないか。
「実は、お前に黙って実験をしてみたんだ。別の魔術師を雇って、レアが出るかダンジョンで試したんだ。そしたら、これが出てきた」
クリムが腰のハンドガンを俺に見せた。
「いつものリボルバーと、形状が違う」
「魔銃だ。実弾ではなく、魔力の弾丸を撃ち出す」
今まで見たこともない、豪華な装飾が施されている。
「他にも、色んなレアが出てきたんだ」
アイテムボックスから、クリムが収穫を出す。アーマーや筋力増強アクセ、ガスマスクなんかもある。
「なるほどな。それはよかった」
「すまん」と、クリムは頭を下げた。
「なぜ謝る? お前は悪くない」
リーダーとして、俺を傷つけたくなかっただろう。俺がクリムだったら、同じことをした。
「で、我々はその女性を採用することにした」
トラップの解除などは難があるが、それは訓練でどうにかなりそうだと。
「話し合いの結果、お前に抜けてもらうのが一番なんじゃないかと」
「それで控えではなく、解雇だと?」
クリムはうなずいた。
ハンターがダンジョンに潜る最大の理由は、アイテム掘りだ。レアなドロップアイテムを手にすること。装備してもいい。自分で使えなくても、売れば金になる。そうやって、俺たちは稼いできた。
ところが大所帯になりすぎて、稼ぎが少なくなってきている。拾うアイテムは強いが、平凡すぎて金にならない。かといって、いつまで経ってもレアアイテムが見つからなかった。
俺がいると、高価なアイテムが手に入らない。
いわゆる「物欲センサーが働いている」と、クリムは結論づけたらしい。
よく言いづらそうなことを、引き受けたものだ。
「我々は後日、この街から離れる。もっと稼げるダンジョンを見つけたので、そこを拠点とするんだ。お前と話し合う、いいチャンスだと思った」
周りに味方がいると、口論になるかも知れない。二人きりで話し合うのがベストだと判断したか。
そこまで気にしているなら、俺が出す答えは一つだ。
「わかった。世話になった。端末から名前を抜いておいてくれ」
「これは違約金だ。受け取ってくれ」
俺が快諾すると、クリムは俺の席に一〇キロくらいの麻袋を乗せる。
中身は金貨だった。ハンター証明書によるカード決済が普及したこの時代で、現金を渡してくれるとは。
「必要ない」
立ち上がって、俺は自分のアイテムボックスをクリムに差し出す。預金残高も装備一式も、全部渡した。俺は、村人の服だけという出で立ちに。
「ランバート、これは?」
困惑顔で、クリムが俺を見上げる。
「これは、罰金だ。大した金にならないが、使ってくれ。足しになるだろう」
服は流石に、着古しなんてイヤだと思う。杖くらいならその女でも扱えるはずだ。
「ランバート、お前!」
「このランバート・ペイジ様は、裸一貫でもやり直す自信がある。だが、パーティだとそうはいかない。今まで世話になったな」
「一番迷惑を被ったのは、お前だろっ! やせ我慢するなランバート!」
クリムは立ち上がって俺に歩み寄った。俺の袖を掴む。
「そこまでせんと、俺の気が収まらんのだ!」
俺は、クリムの手を振り払う。
「俺は疫病神だ。存在しているだけでパーティに損害が被る。ならば、俺などいても仕方ない。駆け出しだが、俺だって一応魔法使いだ。ソロでもなんとかやっていけるさ」
回復魔法も覚えている。魔力切れさえ気にしなければ、一人でもアイテム集めは可能だろう。
「今まで迷惑をかけてスマン」
振り返り、俺は酒場を去る。
「待て!」
また、クリムが俺に追いつく。
「何度言ってもムダだ。俺はアイテムを受け取る気はない」
「じゃあ、これだけでも」
初心者用装備を、クリムが俺によこした。
「いくらお前でも、丸腰だと死ぬぞ」
「恩に着る」
「そんな、恩だなんて。ドロップ品の中でも、金にならなかったものを選んだんだぞ」
クリムがリーダーで本当によかった。他のチームリーダーなら、取っ組み合いになっていただろう。
「元気でな」
「クリム、お前も達者で」
装備を整え、今度こそクリムと別れる。
俺は、自分の装備を確認した。樫の木でできた長い杖と、麻の服である。指輪やアクセサリ類はおまけだ。何もないよりはマシか。
どれも、店売りで一番安いものである。
これくらいでないと、張り合いがない。自分のスキルを試す、いい機会だ。
「さて、稼いでくるか」
アイレーナの街を出て、冒険に向かう。
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