サドラー発展の秘密
エルトリの大臣とフェリシアが、激しくにらみ合う。
フェリシアが登場したことにより、会議が中断してしまった。
「お二人の間には、遺恨はあると思います。しかし今は、サドラーのことが先決でしょう。ご家庭の事情は、会議が終わってからなさってください」
ペールディネ王が代表して、意見する。
「う、うむ」と、エルトリの大臣は着席した。
「それでは、サドラー支援の調整を致しましょう。何かご意見は?」
「一刻も早く、兵器を起動させるべきだ」
エルトリ大臣が、息を吹き返す。
「そもそもサドラーには、ヴァイパー族を打倒できる兵器があるじゃないですか」
この発言が火種になり、場内は口論になった。
「すまないがヒルデ、兵器とは?」
「サドラーには、ヴァイパー族に対抗するための粒子砲があるのです」
ヴァイパー族の本拠地である古代遺跡を、一瞬で消し去る大砲が存在するらしい。
「そんな凄まじい威力を持っているなら、エルトリごと吹っ飛んでしまわないのか?」
「理論上は、ヴァイパー族の遺跡だけ壊滅できるかと」
範囲的に、住民に被害が及ぶことはないらしい。
しかし、膨大なエネルギーを使う。
資源が枯渇している状態で粒子砲を使えば、サドラーは三〇年ほど都市としての機能が停止する、と言われている。
サドラーが強気なのは、そういういきさつもあったのか。
「我々サドラーは、その兵器があったおかげで対等な立場を取れたのです。けれど、一度使ってしまえば疲弊するのは目に見えています」
「それで、外交手段として使用を拒絶していたと」
「はい。ハンターさんたちに任せればいいだろうと。ヴァイパー族の神殿は、あんな武器がなくても勝てますと」
だが、そううまくはいかない。
サドラーのハンターは、たしかに情報戦でヴァイパー族の弱点を探り、侵攻を妨害していた。
だが、まだ決め手に欠ける。
「魔女様の特製ポーションのおかげで、粒子砲以外の外交手段が取れるようになりました」
あの果実の香りは、ヴァイパー族を寄せ付けない。
「それでも、ヴァイパー族の勢いは無視できず」
サドラーは、難しい立場にいた。
「俺はてっきり、あんたがどこへ嫁に行くのかという話し合いになるのかと」
「そういう平和的な話し合いになれば、よかったのですが」
両国とも、破談になっていたという。
それに、今は婚活どころではない。
ヴァイパー族の動きが、さらに活発化した。
サピィが壊滅させた大隊でさえ、敵側からすればほんの一部だという。
「兵器が機動し、サドラーの資源が枯渇しましたら、我々が支援します! ずっとそう言ってきた!」
「あなたがたの条件は搾取だ。支援とは呼べませんな」
「我々にだって限界はあります!」
自国の安全を確保したいエルトリと同様に、サドラーにも兵器を機動できない事情がある。
「すごく政治的な話になってきたなー」
めんどくさそうに、トウコが顔をしかめた。
俺も同じ意見である。
「苦しい立場にいるのはわかります。ですが話し合いを」
「人の娘に手を出すような相手と交渉する舌は、持たん!」
仲介に入ったペールディネを、エルトリは口汚く罵った。
「そもそも、誰のせいでエルトリがこんな状況にまでなったと思うのかね? 責任は重大ですぞ!」
大臣は、ペールディネ先代王が行った不貞のせいで、落ちぶれている。
一大スキャンダルにより、信用もガタ落ちだ。
「我々だって、エルトリにそれなりの賠償を支払ったはずです」
「あんなはした金で、我が国が許すと思うのかね?」
ペールディネは国王のクビがすげ変わったので、持ち直した。
しかしエルトリは、未だに没落したままである。
実際、交渉の場にいるのは大臣だ。
エルトリ国王は心労により臥せっている。
「エルトリだって苦しいのだ! エネルギー資源くらいいくらでも――」
そこまでで、大臣は発言できなかった。
フェリシアの拳が、大臣の頬にめり込んだからである。
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