ヴァイパー族を尋問:サピィサイド

 サピロスは、ハンターギルドの地下牢にいた。

 捕まえたヴァイパー族の少女を尋問するために。


「てめえらっ、この拘束を解きやがれ!」

「うおーっ、痛い目に遭いたくなかったら、自由にしろ!」


 魔術制御の拘束具に全身を包まれながら、双頭のヘビはなおも暴れようとしていた。


 一方、飼い主の少女はおとなしいものである。

 しかし、相変わらず口はきかないらしい。


「あなた方のアジトは? 目的は?」


 少女は鋭い視線をこちらに向けただけで、黙り込む。


「うるせえんだよ。オレたちがベラベラしゃべるとでも思ってやがるのかよ?」

「すっこんでろ、スライムごときが!」


 赤と青のヘビが交互に、罵声を浴びせてきた。

 少女の意見を代弁するかのように。


「そのスライムごときに追い詰められて、この地下に閉じ込められているのは、どこの間抜けですか?」


 ヘビたちが、歯噛みする。


「正論パンチで、あなた方を痛めつけるつもりはありません。あなたの目的を聞きに来ただけです」

「一族を皆殺しにしたヤツに、話す言葉はねえ!」


 ヘビたちは、サピィを噛もうとした。

 しかし、口に拘束具を嵌められている。

 念話で話すことはできても、攻撃はできない。


「話してくだされば、悪いようにはしません」

「どうだか」


 横を向き、ヘビたちは黙り込む。


「それにしても、高度な式神ですね。話せるだけではなく、術者の感情まで言葉にするとは」


 雑談で、気を引くことにした。


 少女がピクリとなる。


「ゼンは天才少女だからな!」


 青いヘビによると、この少女はゼンという名前らしい。


「てめえ青! 何バラしてやがる!」

「うるせえな。名前くらいどうってことねえだろ! オレサマたちは、ゼンによって生み出されたのだ! ゼンこそ最強!」


 赤いヘビにたしなめられても、青ヘビは話を止めなかった。


「おうよ、ゼンが本気になれば、てめえらなんて!」


 自分の意志とは関係なく行動する形状記憶合金製の式神はたしかに高度な技術と言える。レベルの高い術者だとは思うが。


「ああ。なんたって、ゼンは我が神ヴァスキーの娘だからな!」


 ヴァスキーとは、ヴァイパー族の魔王的存在だ。

 ダミアーニとの縄張り争いでやられたと聞くが。


「実力はあるのに、しゃべらないとは?」

「口がきけないなんてレベルじゃねえよ、ゼンは。オレらがいないと、全身が動かねえんだからよ」


 ゼンは霊力の高い人間の女性に、ヴァスキーの細胞を移植させて産まれた子どもらしい。


 遺伝子レベルで合致するはずもなく、女性はゼンを産んですぐに死亡した。

 ゼンも、全身がマヒした状態だったという。


「で、霊力だけ取り出そうとして作られたのが、オレたちってわけだ」

「しかし、ゼンはオレたちを逆に取り込んで、コミュニケーションの道具としたんだよ」


 指揮・制御系統を奪い取って、自分の身体を動かすために再構築したのだとか。


 たしかに、それだけ聞くと優秀と言える。


「ゼンは『お前たちのおかげで口がきけるようになったよ』って、感謝までしてくれてるんだぜうわあん!」

「泣けるじゃねえかびえええん!」


 突然、双頭のヘビたちが泣き出す。

 その後も、二頭はいかにゼンが心優しい少女であるかを熱弁した。


「え、えーとぉ」


 これは、話が長くなりそうだ。


「お嬢、早く奴らの目的を聞き出さねば」


 背後から、シーデーが急かしてくる。


「待ちなさい。ここで煽っては、かえって彼らの口が固くなります」


 話せるだけ話させておこう。


 落ち着いたところで、話題を変える。 


「あなたの敵は、ダミアーニのはず。エルトリは単なる拠点でしかない。なのに、どうしてχカイなんかと組んでいるので? メリットは?」

「別に組んでるわけじゃねえよ」と、赤は話した。

「χが言ってきたのだ。『ダミアーニを倒せる可能性のあるやつを見つけた』と」


 続いて、青が語る。


「それは?」

「ジェンマ・ダミアーニだ」


 ここで、ジェンマの名前が出てきた。

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