2-5 重要人物を、姫騎士が殴りました

サドラーでの会議

 サドラーの屋敷にて、俺たちは黒いスーツに身を包んでいた。

 防弾防刃用のプレートを着込んで、上着を羽織る。


 俺たちはハンターでありながら、サドラーで行われる会議に出席することになった。

 第三王女ヒルデの護衛、という名目で。


 窓の外を見る。


 各地の大臣や王族たちの車両や馬車が、続々とこの屋敷に集まっていた。


 現在サドラーは、他の国と連携をとる会議の最中だという。


 議題は、エルトリに巣食うヴァイパー族の討伐と、バデム盗賊団とその背後にいる秘密結社χカイの排除だ。

 いずれも大組織であり、課題は多い。

 また、ブートレグという呪われた装備の出どころも探らねば。


「まーた、堅苦しいあいさつかー」


 着慣れない服を身にまといながら、トウコがグチをこぼす。


「仕方ない。エルトリの大臣が来るんだから」

「ちぇー」


 俺たちが着ているのは、黒いスーツだ。

 一応ヒルデ王女の護衛という役割なので、それらしい格好でいるのがふさわしいだろう。


「サピィと留守番とか、できないのかー?」


 現在、サピィは捕まえた盗賊を尋問し、事件の内情を聞いているところだ。

【魔王】であるサピィは会議に参加するわけにはいかない。

 サドラーやペールディネの者たちならまだしも、他の国家はサピィが人間に肩入れしている事情を知らない。

 魔王がこの地に現れたというだけで、パニックを起こすだろう。


「たしかにお前なら、荒事のほうがいいかも知れない。しかし、他にも壁役がいないとな」


 今回は、フェリシアも会議に参加する側だ。


 ヒルデは、彼女と間違えられて連れ去られた。


 フェリシアことオフェーリアを、表舞台に立たせる必要になったのである。


 気軽に壁役兼ヒーラーのフェリシアがまともに動けない以上、もうひとりのヒーラーであるトウコが出ていかざるを得ない。


「ハンターではあるが、礼節は守れよ」

「うーん。難しいかなー?」


 まだ、トウコは難色を示す。


「申し訳ありません、トウコさま」


 おかげで、王女に詫びをさせてしまった。


「一緒に召喚獣をモフモフするー、ってんなら、喜んで参加するんだけどなぁ」

「まあ、楽しそう。ぜひに」


 両手を胸の前で組んで、王女が微笑む。


「わかった。全力で守ってやるからなー」

「お願いしますね。トウコさま」


 王女が、トウコの髪をまとめてやる。


「できました。きれいですよ」

「おー、ありがとー」


 戦闘の場でなければ、華やかな女子会なのだが。


「時間よ」


 フェリシアが、柱時計を確認した。

 黄色いドレス姿の彼女は、すっかりオフェーリア・ペールディネへと変貌している。

 もちろんフェリシアも、護身用に軽めの装備を懐に隠しているが。


「うおお。女君主をやってるときとは別人だな、フェリシア!」

「ありがとう、トウコ。じゃあ、行くわよ」


 スカートをわずかにつまみながら、フェリシアは歩き出す。


「オフェーリア」

「お兄様」


 腹違いの兄であるペールディネ国王が、会議を抜け出して様子を見に来た。


「大丈夫ですか、ついていなくても?」

「今の私には、仲間がいます。安心して」

「よかった。みなさん、妹を頼みます」


 ペールディネ王が、俺たちに頭を下げる。


「敵の襲撃なら、心配ない。とにかく今は」


 オフェーリアとしてのフェリシアが、各国に受け入れられるかどうか。


「妹のサポートは、我々がやりましょう。彼女は何も悪いことはしていないのですから。サドラーの国王も、オフェーリアの保護を約束してくださいました」


 ならば、あとはエルトリの大臣だけか。彼は、フェリシアの祖父である。


 ペールディネ王が席に戻り、続いてヒルデ王女を先頭に俺たちも会議に参加した。


「失礼いたします」


 フェリシアが入ると、会議場内にため息が漏れる。フェリシアの美貌に、全員が息を呑んでいるのがわかる。


 丸々と太った男性が、席を立つ。


「お前が、我が孫オフェーリアか」


 エルトリの大臣は、フェリシアを苦々しく見つめていた。


 やはり、という反応である。

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