堕天使と一騎打ち

 甲冑のマントが、黒い翼へと変わる。だが、羽根が生物的ではない。一枚一枚が機械でできていて、動くたびにキイキイと不快な音を鳴らす。これは、自立兵器か。


「ダークナイトの正体は、堕天使だって?」


 ルーオンが言うと、「そうだ」とラムブレヒトが返した。


「ペトロネラが依代を使って子をなして生まれたのが、オレだ」

「顔も、どことなくペトロネラに似ているな」


 だから、俺はラムブレヒトを堕天使だとわかったのである。


「しかし、オレには羽根が生えなかった。なのでこのとおり、機械で代用している」


 つまり改造を受けている、と。


「半分は、人間なんだろ? だったら、なおさら攻撃するチャンスはあったじゃないか?」


 俺は、ラムブレヒトに問いかける。


「そうだぜ、【威圧】のスキルを使ってりゃあ、いくらでも殺せたじゃん」


 ルーオンの言うとおりだ。


 どうして、そうしなかったのか?


「母親と同じスキルで殺しても、オレの強さにはならん」


 ラムブレヒトにも、プライドがあったと?


「あの聖女は自らの手で倒さなければ、意味がないと告げた。聖女の血を飲めば、たしかに神へと近づける」


 聖女を殺した者に、神とコンタクトを取る力を与えられるそうだ。


 力を喪ったペトロネラは、どうしても聖女の力が必要なのだという。


「しかし、それには自身の手で殺さねばならん。死んだ聖女の血は、少しでも大気に触れると砂になってしまうからだ

「それで、配下に探させていたのか」

「ああ。しかも高次元エーテル世界などに逃げ込まれては、血の純粋性が濁ってしまう」

「お前たちは、『肥溜め』と認識しているらしいな」

「魔力の肥料という意味では、間違っていない。だが、その必要もなくなった。聖女自ら出向いてくれたからな」


 ラムブレヒトが、大剣を振るう。


「今のオレは、武器も防具もレアではない。お前が相手だからな」 


 あれはおそらく人工の「呪いの武器オミナス」、ブートレグ製品だろう。


「来い、秘宝殺しレア・ブレイクのウィザード」

「受けて立つ」


 俺は、新生黒曜顎コクヨウガクを抜いた。


「それが、貴様の武器か。いい色をしている。フィーンド・ジュエルそのものを武器としているらしいな」


 強度に不安はあるが、打ち合わなければ問題はないだろう。


「他のものは、先へ行くがよい」


 大剣を掲げ、ラムブレヒトは俺だけを警戒した。


「聖女、行きましょう」


 サピィがリュボフを連れて、真っ先に五層へと向かう。俺にはただ、一つうなずく。それだけで、彼女が俺をどれほど信頼しているかわかった。


「ご武運を」

「勝たないと承知しないぞー」


 トウコとシーデーが、後に続く。


「大丈夫だとは思うけれど、死なないでよ。ランバート」

「もちろんだ、フェリシア」


 続いてビョルンが、「まあ、チャチャっとやってくらあ」とリュボフを追った。 


「いいのかよ? ランバート?」


 先へ行こうとしたルーオンが、立ち止まる。


「ああ。いいんだ。コイツは、小細工をするようなやつじゃない。おそらく聖女は本当に上の階で待っているのだろう。聖女リュボフを守るんだ」

「わかったぜ、ランバート。オレに任せろ!」


 自身を取り戻したルーオンを、コネーホが後ろから押す。


「ほらほら、イキってないで早く行くの。じゃあランバート、信じてるから」

「すぐに追いつくさ。コネーホ」


 他のメンバーたちも、五層へ向かった。


「お前、ランバートという名前なのか」

「そうだ。似たような名前だな、俺たちは」

「たしかにな」と、ラムブレヒトが剣を構え直す。

「だが、俺に仲間はいらぬ。χカイでさえ、踏み台に過ぎぬ。やはり、信じるは一人。己自身だ」


 仲間のおかげで強くなれた俺とは、対照的だ。


「勝負だ、ランバートとやら。誰かのために強くなったお前と、誰にも頼らないオレと、どちらが強いのか。オレとお前は、戦う運命だったのかもな!」

「おらあああ!」


 俺もラムブヒレトも、同時に刀から衝撃波を放つ。

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