似た者同士

 藍色と赤黒い衝撃波が、交差して爆砕した。

 両者とも、牽制などない本気の打ち合いである。


「奇遇だな。技も似た者を使うとは!」


 ラムブレヒトが、妙にうれしそうに語った。


「俺は、相手を脅したりはしない」

「だが、畏怖の対象ではあるだろう! 秘宝殺しレア・ブレイクのランバート!」


 ラムブレヒトが、斬りかかってくる。


「くう!」


 俺は黒曜顎コクヨウガクに魔力を流し込んで、強度を増した。魔力の刃を作り上げ、黒曜顎の表面をコーティングする。


 いけた。うまく弾き飛ばすことに成功する。


 受け流されるたびに、ラムブレヒトは刀の軌道を変えて斬りかかってきた。


 俺も魔術師らしく、魔法を織り交ぜながら反撃に転じる。どうにか、太刀筋のカラクリを見破られまいと。


 だが、何度もうまくいくとは限らない。


 あれだけ巨大な鉄塊を振るいながら、相手を押しつぶす戦闘スタイルではなかった。スキルを多用し、クレバーに戦う。俺を格下だと思わず、自身のポテンシャルだけに頼っていない。


 対して俺は、ウィザードだ。身体機能は、ほとんど魔力で補っている。筋力勝負となれば、勝ち目はないだろう。


 ダイヤのジュエルがあるおかげで、マナの回復は間に合っている。とはいえ、出力は最小限に抑えねば。


「ハンター共よ。オレは、お前たちに嫉妬していた」

「なんだと?」

「外の世界とは、たいそう楽しい世界なのだろうと。母ペトロネラの警護さえなければ、オレは、自由の身になれる。オレこそが、ハンターの頂点に立てるのだ」


 そうか。こいつはずっと、母親の護衛をやらされて、外の世界を知らないのだろう。


「だから、わざとハンターにペトロネラの討伐へ向かわせたのか」

「もうガマンの限界だ。オレはここを出る! 貴様のようなハンターと、もっと立ち会うのだ!」

「そのためのχカイか。鬱積していたお前の怨念が、ハンター活動への憎しみへと変わっていった」

「最初は、オレのハンター部隊だった。しかし、能面ノーメンが来てから、様子が変わってしまった。だんだんと、部下が外へ出るようになっていったな」


 ハンターのマネごとをしていたら、乗っ取られたと。


「だが、茶番は終わりだ。オレはハンターとして自由を勝ち取る!」


 前蹴りで、ラムブレヒトは俺と距離を取る。距離が開き、突き攻撃を繰り出してきた。


「おらああ!」


 一層でリュカオン相手に放った斬撃を、ラムブレヒトに見舞う。カウンターだ。避けらまい!


「なにいい!?」


 強引に、ラムブレヒトは大剣で衝撃波を破壊した。剣も欠けてしまったが、まだ強度は保ったままだ。


「まだだ! オレには、これがある!」


 ラムブレヒトが、翼を展開する。羽根の一つ一つが独立し、武器となった。光線を出すタイプ、ブーメランのように切りつけてくるものなど。


 黒曜顎で光線を弾き、ブーメランを受け流す。


「こんな作り物のジオラマで、お前はずっと戦っていたんだな?」

「そうだ。俺はこの塔の空しか知らん。母を倒し、空のもとで自由を謳歌することだ。どれだけ、あの女を欺いてきたか!」


 ラムブレヒトの剣圧が、激しくなる。


 羽根に気を取られていたせいで、判断が遅れた。


「チリングアーマーッ!」


 氷の障壁を張って、すべての攻撃を弾く。


 ラムブレヒトを、どうにか退けることができた。


「くう!」


 俺の脇腹に、羽根の光線が当たる。


「ジュエルが!」


 氷魔法を司るサファイアが、破壊された。スフィアタイプ相当のジュエルを失ったことで、アーマーの強度はかなり落ちたことになる。


「もう、アーマーに頼った攻撃はできないぞ」

「ああ。そうだな」


 俺は、コナツ特製のアーマーを、脱ぐ。


「お前を相手にするためには、補助があると鈍る……」


 普段着だけになって、俺はラムブレヒトに刀を向けた。


 こいつを倒すには、武装に守られた保守的な攻撃ではダメだ。

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