【神の子】と対決

「やはりクリム・エアハートの引き渡しには応じないか、ランバート・ペイジ。あなたは必ず、我々を出し抜くと思っていたわ。後をつけていて正解だった」


「よほど信用がないな。まあ俺も、お前たちが後をつけていたのはわかっていたが」


 俺の【ディメンション・セイバー】を、ゾーイは片手で受け止めた。正確には、手から衝撃波を出してセイバーを斬り捨てたのである。


 背中の羽根も強いが、徒手空拳も強い。


 クリムもジェンマも、背中から襲ってくる羽根に苦戦していた。


「ニセの情報でギルドに注意を向けさせ、あえて正面突破をしてクリムへの過度な接近を避け、頃合いを見計らって裏道を見つけて接触と。小賢しいよ!」


 ゾーイの予想は、半分正解である。


「クリムが自分からこちらに来てくれたのは、予想外だ」


「示し合わせたつもりはないと?」


 俺の切込みを、ゾーイがキックでいなす。


「連絡手段もないのに、どうやって?」


「旧知の仲だ。なにかできるはずだ」


 とんでもない。俺たちはエスパーではないんだ。クリムがなんらかのメッセージを残していたとしても、解読できまい。


 背後からジェンマが斬りかかった。


 しかし、ゾーイは振り返りもせず裏拳でジェンマを叩き落とす。


「なぜだクリム・エアハート! どうして母を殺した?」


「オレたちと出会ったときから、既に女王はオミナスに汚染されていた! 信じて欲しい!」


「信用できない! 母がオミナスと接触していたなんて!」


 できるだけ急所を外して、クリムがゾーイと対抗する。


 とはいえ、手を抜いて勝てる相手ではない。


 どこまで強いんだ? 魔王クラスのモンスターさえ一撃で葬るクリムさえ、手玉に取っている。【神の子】とは、そこまで力があるのか?


「私は、その方法を知っている」


「なんだと? 魔王の娘が?」


 戦いながらも、ゾーイはジェンマの言葉を聞く姿勢になる。


「ヒントは……こいつだ!」


 なぜか、ジェンマは死体の一つに刀を突き刺そうとした。


 死体が、飛び起きる。


「んだよぉ。スキを見て取り憑いてやろうと思ったのにさあ」


 顔がただれた男が、ゲラケラと笑う。


「あなたは虚弱公キョジャクコウ! さっきクリム氏に倒されたのでは?」


「あれは、ボクのぶんしーん」


 虚弱公以外の死体が、大量に起き上がる。魔物の死体さえ。


「ボクちゃんは、あらゆる生命体に取り憑くことができるんだよね。強制的に死を与えて、いのままに操るんだ! といっても、ヒーラー相手だとザコなんだけどね」


 それで、ヒーラー職であるトウコとフェリシアを、真っ先に狙ったのか。


「さーてぇ。今度こそ、ひと暴れしてやるか! もう出落ちの天丼なんてさ、みんなもゴメンだよねえ! じゃ、いっちょやっちま――」


 だが、虚弱公の身体が再度吹っ飛んだ。胴体が黒い波動弾に破壊され、頭部だけが残る。


「ウソだろ……」


「黒幕気取りのモンスターには、そんな死がお似合いだ」


 ジェンマの父親、大魔王グスターヴォ・ダミアーニ卿が、姿を現した。


 ゾーイの胸部を、拳で突き破って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る