大魔王 グスターヴォ・ダミアーニ

 周辺のゾンビたちが、ガラクタのように崩れていった。

 虚弱公キョジャクコウマウコネンが、今度こそ死んだのだろう。


 グスターヴォが、ゾーイの胸から拳を引っこ抜く。


 ゾーイが、力なく倒れ込んだ。


 オレとサピィで、ゾーイを支える。


 ジェンマ及び配下のモンスターたちが、ひざまずく。


「あんたは、自分が何をしたのかわかっているのか!?」


「愛娘ジャンマを助けた。娘をこんな目に遭わせた元凶を殺した。それだけだ。お前こそ、敵が死にかけているだけなのにどうして怒ってるんだ、ランバート・ペイジ?」


 まったく悪びれていない。さも当然のように、グスターヴォは語る。


「俺の名を知っているのか?」


秘宝殺しレア・ブレイクは、有名だからな」


 魔族にまで、名が知られているとは。


「どうしてゾーイまで手をかけた!? 彼女の狙いは、クリムだろ。娘には関係ない!」


「クリム・エアハートに死なれては、こちらが困るからだ。障害は排除する」


 グスターヴォにとって、大事なのは魔族の存続だ。魔族の敵である【神の子】は、邪魔でしかない。


「クリム。我々とこい。ファウストゥスのアジトまで、案内してもらう」


 やはり、クリムはファウストゥスの居所を突き止めていたのか。


「この先の、地下洞窟だ。後は勝手に行け。オレは残る」


 クリムがグスターヴォに、紙の地図を投げ捨てた。オレたちのもとまで歩み寄り、ゾーイの身体を診る。


「すごいな。これだけの重症なのに、致命傷には至っていない。だが、まだ死なない程度だ。ルダニムに戻らないと」


「我のボディを流用できませんかな? フォート族とセイクリッドは、構造自体はほぼ同じです。骨がむき出しか、人口筋肉でコーティングしているかの違いしかありませぬ」


「すまない。フォート族の……えと」


「シーデーと申します」


「ああ、シーデーか。よろしく頼む」


 大魔王を無視して、クリムはゾーイを抱きかかえた。


「待て、クリム。我々を、ファウストゥスの元へ案内せよ」


「知るかよ。さっさとオレなんか見捨てて、行けよ」


「協力せぬというか」


「オレも邪魔なんだろ? さっき言っていたじゃないか。【神の子】は、排除対象だって」


 クリムが、魔王に物怖じせず言い返す。


「お前、まさか」


「ああ。オレも【神の子】だ」


「……そうか。そうだよな」


「驚かないんだな?」


「組んでいた当時から、お前の強さは桁違いだったからな」


「隠していて、すまなかった。ただ、オレはファウストゥスに作られた人工物だ」


 ファウストゥスは、【神の子】を人工的に作れないか研究をしていたのだ。自分の戦闘員として。


「どけ。早くこの女を治療しないと。ファウストゥスの元へは、オレのナビゲートなんて必要ない」


「ダメだ。いますぐ来てもらう。お前が行かなければ開かぬ扉などが、あるかもしれない。我々だけが行って無駄骨だった、というわけにはいかん」


「あいつの、ファウストゥスの性格ならば、そんなことはしない」


「協力しなければ、他の者らが死ぬことになるぞ」


 グスターヴォが、兵隊を下がらせた。


「サピロス・フォザーギル、お前なら私の強さは、わかっているはずだよな。私なら、ここにいる者たちを一瞬で殺せるぜ。お前も含めてな」


「ええ。そうですね……」


 構えてさえいないグスターヴォ相手に、サピィは脂汗をかいている。


 こんなにも焦っているサピィを見るのは、初めてだ。


「秘宝殺し、クリムを説得しろ」


「断る」


「即答だな。そんなに仲間が大事か?」


「この女が助かるのが、先決だ。その後、ファウストゥスというヤツを追いかける。クリムの人生を踏みにじったヤツなんだろ? だったら、オレはいくらでも協力する。だが」


 俺は、刀に手をかける。


「クリム一人だけに何もかも押し付けると言うなら、俺は、あんたとも」


 刀を抜こうとした瞬間、クリムが俺にゾーイを押し付けた。


「ランバート、この人を頼む」


「クリム!? 待て! 行ったら、利用されるだけだ! 神の子であるお前を、グスターヴォが無事に帰すと思うか!?」


「それでも、全員死ぬよりマシだ」


 クリムは黙って、セグメント・ゼロの闇へ消えていく。


 最後尾に、ジェンマがサピィの横を通り過ぎた。去り際に、サピィに話しかけているように見えたが。


「バカクリム野郎! ホント、バカなんだからなお前ーっ!」


 トウコの叫びだけが、セグメント内に響いた。

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