4-4 抜け駆けした魔王を、殴ります

ゾーイの治療

 俺たちは全員、ルダニムに戻ってきた。


 クリムの現状を、ギルドに報告するために。


 しかし、ハンターの動きは鈍かった。魔王グスターヴォ・ダミアーニ卿が、クリムの横にいると知って。誰も魔王と戦おうなんて輩はいなかった。


 いたとしても、すべての魔物の退治を本懐とした、血の気の多い【神の子】くらいで。とはいえ、彼らが返り討ちに遭うのは目に見えていた。

 

 神の子最強たるゾーイが、胸に風穴を開けた状態で運ばれてきたのだから。

 グスターヴォと神の子との間には、それだけ実力に開きがある。ドラゴン装備で、俺たちもかなり強くなっていたと思ったが……。


 ゾーイは、ギルドの治療院でパーツ交換をしてもらっていた。一部有志のセイクリッドが、自分の体を使ってくれてかまわないとパーツ提供を志願する。しかし、ゾーイは断った。助けられる義理などない、と。


「なぜ、助けた? ランバート・ペイジ」


 あらゆるチューブや機械類に繋がれながら、ゾーイが俺を睨む。彼女は上半身だけで、下半身の機能は完全にマヒしていた。


「俺の意向じゃない。クリムの頼みだったから」


「その割には、熱心だったわ。誰も、ダミアーニについて行かなかったし」


「行くわけないだろう。どうせ、どこかでまかれてしまうさ」


 魔王グスターヴォとクリム以外に、誰かがついていく案も当然あった。しかし、行ったところで何の成果もないだろう。置いてきぼりをくらうか、殺されるに違いない。そう俺は提案し、全員で帰ることにした。


「賢明な判断ね。ダミアーニはあくまでも、自分たち魔族だけで決着をつけようとしているわ。ワタシたちなんて、異分子以外のなにものでもない」


「だろうな」


「奴は配下のほとんどを、オミナスに殺されているわ。自分の娘さえも」


 しかし、ジェンマは殺しきれてはいない。


「それに、ついていかなかったのは、クリムから預りものがあったからなんだ」


 俺は、ゾーイを預かる際に、クリムからあるものを手渡されていた。


 一つはギルド端末のメモリ、もう一つは、なにかのカギだった。


「そのカギが、ファウストゥスに通じるのね?」


「まだそうと決まったわけじゃない。サピィが調べている」


 メモリの調査は【デッカー】のスキルを持つシーデーと、ギルド管理者のキンバリーが共同で調べていた。


 カギは、サピィが【マギ・マンサー】の力で調査を進めている。


「調査結果が出ました」


 キンバリーとシーデーが、治療院に入ってきた。


「骨が折れました。三歳くらい老けましたよ」


「鉄が腐食しそうでした」


 セキュリティが、かなり手強かったようである。ふたりとも、やつれた状態だ。


「しかし、色々とわかりましたぞ。オミナスの製造元は、やはり虚弱公キョジャクコウでした。彼はファウストゥスに出世を約束され、オミナスの開発に協力していたらしいですな」


 奴が開発したオミナスの一つが、ジェンマを半殺しにした刀だったという。


「どうもクリムの目的というよりは、ジェンマ・ダミアーニが調査していた案件のようなんだ」


 虚弱公は本体さえ壊されなければ、どこまでも増殖するらしい。その特性を活かし、次々とレジェンド級のオミナスを開発していたとか。


 ジェンマとともに、虚弱公をおびき寄せて殺害することが、目的だったらしい。


「そんなにオミナスを作って、何をするつもりだったの?」


「悪貨は良貨を駆逐する、ですね」


 フェリシアの質問に、キンバリーが答えた。


『他のレアアイテムに取って代わることが、虚弱公の狙いだった』と、記録にあったそうだ。あの質の悪いオミナスなら、あのスケルトンが絡んでいると思って間違いないだろう。


「しかし、彼が関与していないオミナスが、たったひとつだけありました。その武器は、まだ発見されていません」


「なんだそれは?」


「【報復刀 ウェイジス・エッジ】です」


 俺の心臓が、跳ね上がった。


 ウェイジス・エッジの名をまた聞くことになるとは。


「ランバートさん、その刀ってまさか」


「ああ。オレの父親に取り憑いた刀だ」

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