秘密の通路へのカギ

 俺の父「ギルバート・ペイジ」は、レアアイテムの調査中、オミナスに侵食された。


 その武器こそ、【報復刀 ウェイジス・エッジ】である。


 味方のハンターを手に掛け、父はハンターギルドの手によってハチの巣にされたのだ。


 父を撃ち殺したうちの一人が、クリムの父親である。彼は、父の親友だった。俺の父親に、とどめを刺した人物でもある。


 オヤジが調査隊に処理されてから、ずっと見つかっていなかった。


 その刀とファウストゥスには、なんらかの関係があるらしい。


「ランバート。このカギの正体がなんなのか、わかりました」


 サピィが、カギを持って現れる。


「ランバート・ペイジ、そのカギを、本当にクリム・エアハートが?」


 顔をしかめながら、ゾーイが俺に聞いてきた。


「ああ。間違いなく、クリムが持っていたものだ」


「海水に沈んでいたみたいに、ボロボロじゃないの」


 ゾーイが、疑いの目を俺に向ける。


 錆びついているように見えるが、これでもちゃんとした形なのだという。


「ディンプルキーのような仕組みか?」


「いえ。この形で完成しているみたいですね」


 凹凸ではなく、このカギ自体が大事なのだそうだ。


「どこのカギだったんだ?」


「セグメント・ゼロ最深部にある、高次元空間です」


 俺は、息を呑む。


「そんな空間に、入っていく必要があるのか」


「はい。かなり魔力的な負荷がかかりますが」


 高次元な術式空間は、普通の人間には入れない。また魔物や天使なども、入るのをためらう。魔力の掃き溜めのような場所であり、彼らはそこに異臭を感じるからだそうだ。


 ましてセグメント・ゼロに沈殿する魔力となると、ドラゴンの残骸クラスだろう。とてつもない負担を強いる。


「わたしはマギ・マンサーの力があるから、平気です。しかし、五分も入っていられないでしょうね。それ以上入ると、魔力が骨折レベルで負傷します。魔力と肉体を繋ぐ回路がボロボロになるといいますか」


 サピィでさえ、そこまで深刻なダメージを受けてしまうという。


「かなり危険な空間に、なにか重大なものを隠している可能性があります。それこそ」


「ウェイジス・エッジがあると?」


「可能性は高いですね」


 そんな思いまでして、取りに行く必要があるのか?


「やめろ。サピィに危険が及ぶ」


「ファウストゥスに繋がるのであれば、クリム氏を手助けできるかもです」


「しかし、俺はサピィも大事だ」


「とはいえ、このままでは」


 俺とサピィの押し問答が続く。


「ふたりとも、やめないか」


「そうよ。痴話喧嘩ならヨソでしてちょうだい」


 トウコとフェリシアが、呆れ果てた。


「やれやれ。お嬢はこう言えば聞きませんからな」


 シーデーも、頭を抱える。


 オレたちの口論を止めたのは、ゾーイだ。


「ワタシが行くわ」


「ゾーイが?」


「これでもワタシは、セイクリッドよ。神が遣わしたアンドロイド。しかも神の子であるワタシなら、魔力の干渉なんて微量で済むわよ」


 俺はサピィに「そうなのか?」と聞いた。


「大丈夫です。神の子というのは、つまり【聖女】ですからね。リュボフさんと同じ力はあると思っていいでしょう」


 ならば、術式空間に入る素質は充分あるか。


「セイクリッドでも、オミナスの影響は受けてしまうぞ。キミの母上がそうだったろう?」


 彼女の母親は、オミナスに侵食されてしまっている。それを殺害したのは、サピィの親友であるジェンマだ。


「我がガードに回りましょう。幸い我なら、オミナスの干渉は受けませんので」


 シーデーが、ゾーイと一緒に術式空間へ入るという。


「神の子ではないあなたが入っても、足手まといよ」


「なにをおっしゃる。今や我の骨には、ドラゴンの素材が使われているのですぞ。侵食できるなら、なさってみなさいというわけですよ」


 今度は、シーデーとゾーイが言い争いに。


「もーっ! 面倒ね! 全員で行きましょ!」


 フェリシアが、結論付けた。


「大丈夫なのか?」


「あのねえ。アタシたちは一応ハイクラスよ。魔術式空間への入り方なんて、心得ているわ。それに、術式空間って、言えば結界でしょ? トウコのアデプトの力でどうにかなるんじゃないの?」


「まさか、空間を破壊しながら進む、ってのか?」


 ミスティックアデプトの能力には、相手のガードを崩すスキルがある。

 それは、魔法障壁でも同じことが可能だ。

 だからこそ、虚弱公とも戦えたと言える。


「ええ? できないの? 問題あるの?」


 肩をすくめながら、フェリシアが聞いてきた。


「盲点でした。効力を弱らせて入るって発想が、初めからありませんでしたから」


 術式空間は、デリケートな場所だ。

 壊せばなくなってしまうと思っていたから、サピィも破壊に考えが及ばなかったという。


「やってみる価値はあるかと」


「決まりね!」

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