廃墟ルダニムの女王 ゾーイ

「ゾーイって、王族だったのか?」


「はい。元々ここ、ルダニムの」


「なんだって?」


 キンバリーの言っていることを、俺は一瞬理解できなかった。


「ワタシが教えてあげるわ、ランバート・ペイジ。ワタシたちルダニムの民【セイクリッド】族は、移民したのよ」


 過去に一度、魔物との戦いでルダニムは放棄されたという。再興を図ろうとした矢先、秘密結社χカイとの戦いが起きた。ルダニムは再度、撤退を余儀なくされたのである。


「あなたたちハンターのおかげで、ルダニムは解放されたわ。今度こそ、復興できるでしょう。それは感謝するわ。だけど、これだけは覚えておいて。χを滅ぼすのは、ワタシたちルダニムよ」


 ゾーイの語り口から、初めて感情らしきものが乗った。それだけ、χに対する憎悪が激しいのだろう。


「言いたいことは、それだけよ。邪魔をしないなら、そちらの魔王様だって悪いようにはしないわ。邪魔さえしなければだけど」


 翼を翻し、ゾーイは去っていく。行き先は、ドーム状の宮殿だ。あんなもの、いつの間に。


「なんだアイツ! 上から目線でヤなやつだな!」


 トウコが、ゾーイの背中に向けて舌を出す。


 たしかに、トウコが一番キライなタイプかもしれない。

 修行僧系のハンターがすべき行為ではないが。


 トウコのジョブである【アデプト】は、『人類みな兄弟』という対等主義をうたっている。

 神との主従を重んじるゾーイとは、考えが相容れない。


「それにしても、【セイクリッド】って何者だ? そんなに影響力が高いのか?」


「ええ。高いなんてものではありませんよ。彼女たちは、『神が遣わしたフォート族』と言っていいでしょうね」


 キンバリーが、トウコの質問に答えた。


「ランバートさん方、ゾーイ女王については、もっとも詳しい方がいらっしゃいます。そちらに聞いていただけませんか?」


 ギルドは、廃棄された要塞の処理に追われて、手が離せないらしい。


「どこにいるんだ?」


「【災厄の塔】ですよ」


「ああ、なるほど」




 昼食がてら、俺たちはビョルンとリュボフに会いに行った。


 たしかに聖女リュボフと、一度死んで天使に転生したビョルンなら、神の使いを自称するセイクリッド族に近い。


 ビョルンはかつて仲間だったが、組成した際に天使としての役割を受けて、塔の管理を任されている。

 そのせいで、塔から出られなくなった。


 リュボフも彼の妻として、塔に残っている。


「ほーら、ビョルン。口を開けなさーい」


「あーん。ありがとリュボフ」


 リュボフが、夫であるビョルンに一口サイズのハンバーグを「あーん」している。


「うめえなあ。コナツんところの料理も最高だが、グレースちゃんの手料理もいいねぇ。旦那さんがうらやましいぜ」


「なによ、ビョルンったら! もう作ってあげないわよっ」


「冗談だってばぁ」


 そっぽを向いたリュボフを、ビョルンがすり寄ってなだめていた。


「料理するのか?」


「夕飯だけね」


 キャンプ道具を出して、買ってきてもらった食材を調理する程度らしい。 


「ずっとこんなカンジなのか? ルーオン」


「そうなんだよ。食っている間、ずーっとイチャイチャしてんの。おれたちをトレーニングしてくれるから、文句は言えねえけどさ」


 半人前のハンターであるルーオンが、呆れた顔になっている。

 システムを安定させるために塔から離れられないビョルンたちに、食事を運ぶ係を担当しているのだ。


「おめえもコネーホちゃんとラブチュッチュしとけよ、ルーオン。オイラたちは、お前らカップルのサンプルでもあるの」


「うるっせ! もうメシ持ってきてやらねえぞ!」


 あからさまにわかりやすく、ルーオンは反応した。


 今日の料理は、グレース特製の『ハンバーグ定食』である。


 いつも食事を運んでいるルーオンたちの代わりに、俺たちがペールディネまで買いに行ったのだ。グレースの様子を見に行きたかったのもある。


 グレースはゾーイたちになにかされたかと思ったが、無事で何よりだった。


 俺たちがギルドにクリムの情報を伝えていなかったら、彼女たちの命が危なかったからだろう。


「ビョルン、そろそろ」


「ああ、セイクリッド族のことだったな」


 ため息をつきつつ、ビョルンはウイスキーでマスカットを流し込む。


「セイクリッドなんて、よく生きていたな。個体数で言えば、多分フォート族より少ないぜ」


「ビョルン、そのなんとかって一族って、何者なの? アンドロイドなんでしょ?」


 同じく新米ハンターのコネーホが、ビョルンたちに酒を注ぐ。


「機械でできた、天使族だよ。神様が作ったフォート族、って言えばいいかな? シーデーのおっさん」


 ビョルンが、シーデーに視線を向けた。


「言い得て妙ですな、ビョルン殿。我々フォート族は、魔王によってスクラップから作られた、意思を持つロボットであります。対してセイクリッドは、神が機械に命を吹き込んだタイプであります」


「シーデー、お前も詳しいんだな?」


「とはいえ、経緯や仕える存在が異なりますので、彼女らに何が起きて、どうなったのかまでは」


 首を振って、シーデーは昼食を取る。


「そんなに貴重な種族が、どうして台頭してきたの?」


「それは、まあ、ランバートのやったことが原因だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る